誰がために
「ジロー殿、戦いは一方的なようですね。もはや戦いともいえませんが」
「ですね。あまりにも力の差がありすぎる」
俺はあばら家を出た後、まだ生きている人たちを探してスラムを回っている。
すると、住民の他に青い軍服を着た死体がちらほら見つかった。
俺とランスロットさんはたびたび立ち止まり、横たわっている人の息を確かめる。
「止まってください。……だめです、手遅れのようだ」
「……こっちもか。」
横たわっている人のほとんどはすでに死んでいた。
いま生死を確かめた死体が着ている服は、銃士のものだ。
服は乾いた血のせいでほとんど真っ黒になっていた。
「銃士の格好だけど……ランスロットさん、どっちかわかります?」
「9割がたスラムにいた帝国人ですね。ブーツの結び方がちがいます。あとは――」
「死因か。銃士だったら銃を使うはず。でも、この死体はそうじゃない」
「そのとおりです。傷は銃創のほか、やけど、凍傷、打撲、切り傷と、とりとめがない。銃士と戦ったなら、死体に残る傷は銃と格闘戦の傷だけになるはず」
「……転移者、か。」
どうやらアインの同志は銃士だけでなく、転移者とも戦ったらしい。
しかし、死体は彼らのものしか見つからない。
彼らと戦った転移者の死体は、スラムのどこにもなかった。
「もし、アインの同志が銃を使って戦ったなら、僕ら転移者側にも被害が出るはず。だけど戦いは一方的に進んでる。どうやったんだ……?」
「どのようなスキルか、まるで見当がつきませんね」
いくらスキルをもっているといっても、転移者それ自体はただの人間だ。
銃で撃たれたら血を流すし、普通に死ぬはずだ。
いったいどうやって、こんなに有利に戦いを進めているんだろう。
僕のシールドベルトのような、銃弾を無効化するスキルを持っているのか?
いや、それだけじゃ弱いな。
ひとりの人間が銃弾をふせげるだけじゃ、ここまでにはならない。
なにか別のものを使っている気がする。
……どうもいやな予感がするな。
「……う」
「――!! 大丈夫ですか!」
考えにふけりながら歩いていると、ガレキの影からうめき声が聞こえた。
かけよってみると、頭から血を流している人が倒れていた。
「ジロー殿、生存者です。彼に例のものを」
「はい! 待っててください、今助けます!」
俺はクリエイト・ドラッグで作り出した「なんでも治療薬」を傷口にかける。
すると、あっという間に生々しい傷がふさがっていった。
「これは……ポーションか? こんな貴重なものを……」
俺が「なんでも治療薬」を使うと、こうやって時々「ポーション」という単語を口にする人がいる。
ポーションはRPGなんかに出てくる想像上の回復薬のことだ。
瓶に入った水の薬で、飲むと回復や強化、毒や呪いも含めたいろんな効果が出る。
異世界だけあって、ポーションも存在するようだ。
使われた人々の反応をみるかぎり、かなり貴重なものらしいが。
「お気になさらず。さぁ肩に捕まって。安全なところにつれていきます」
ランスロットさんはまだ意識がぼんやりしている負傷者に肩を貸し、歩き出す。
俺たちは彼をスラムの広場に連れて行った。
広場につくと、崩れたステージの周りに人々が身を寄せ合っていた。
「ルネさん、あっちで新しい負傷者を見つけました。この辺りはこれで最後です」
「お疲れ様。これでここにいる人は全部で30人くらいになったかしら」
「これからどうするかって問題があるけどねー」
ケガ人の包帯を取り替えていたイゾルデさんが言った。
彼女の言うとおりだ。
いまは広場にケガ人を集めているが、包囲の輪は時間とともに小さくなっている。
銃士隊の動きは、スラムの人間全員を始末する気のように思えた。
「もちろん、みんなを連れてこのスラムを脱出します。マリアたちは先に別のスラムに向かって脱出しました。彼女を追って僕たちも移動します」
「移動って、どうするつもり?」
ルネさんは腰に手をあてて立つと、首を横に振った。
「ジローくん、あの大爆発を見たでしょ? 反乱を起こした奴らが出入りしていたトンネルの入口は、あの爆発で潰されたらしいわ。生存者がそう言ってた」
「その人は何があったか見たんですか?」
「えぇ。2人の見慣れない格好の男が爆破したみたい。片方は強い匂いのする液体をまいて、もう片方がそれを爆発させて回っていたって」
「強い匂いのする液体……?」
「えぇ。ツンときて、頭痛がするような臭いだったらしいわ」
うーん、爆破する液体?
ガソリンとか? ニトロ……は、臭いがするかわからないな。
「スキルの正体はともかく、転移者なのは間違いなさそうですね」
「えぇ。地下は使えないわよ。すごい勢いで燃え続けてるそうだから、トンネルに入ったら蒸し焼きか、息が詰まって死ぬでしょうね。私は平気だけど」
「あ、そっか。ルネさんはゴーレムでしたね」
「えぇ。私は会話につかう空気のために息をすることはあるけど、生存のために息をする必要はないわ」
「便利だなぁ……」
「ジローくん、話を戻すわよ? 地下は使えない……かといって、地上を突破するのは問題外。無理やり突破したとしても、別のスラムにいけばそこに迷惑がかかるわ」
「どうしてです?」
「このスラムに住む者全員に反乱者の疑いがかかっているからよ。私たちが行ったと知れたら、他のスラムにも攻撃の口実を与えてしまうでしょうね」
「そうか……。だとすると、僕たちは彼らに見つからないよう秘密裏に移動する必要がある。となると、やっぱりトンネルしかないと思います」
「あなたがくれたベルトをちょっと試してみたんだけど、これ、火も防げるわね」
「ホントですか? 爆発が防げたから、たぶん防げるとは思ってましたが……。でもトンネルの中の酸素がなくなってるとしたら、炎が防げても意味がない。トンネルに入った瞬間、窒息して全滅するのがオチですね」
「そうね。トンネルの中で息をつなぐことのできる道具が必要だわ」
「はぁ、そんな都合の良いもの、ココにあるはず……」
「なかったら作ればいいじゃない?」
「え? でもココには資源も道具もなにもないですよ」
「ジローくん、貴方もしかして、自分のスキルが何か忘れた?」
「あっ! ――創造魔法!」
◆◇◆
※作者コメント※
全く関係ないですが、ウィッチャー3を8年ぶりにクリアしてゲームロス中です。
血塗られた美酒は名作。。。
現在、脳がヘロヘロなので、1日更新をスキップして、27日に更新再開します。
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