トンネルを超えて
ルネに言われるまですっかり忘れていた。
俺には創造魔法があるじゃないか。
「……よし、トンネルの中を通れるような装備を想像してみます」
「えぇ、お願いね」
シールドベルトは銃弾や爆炎を防げる。
身を守る防具としてはこの上なく有用な装備だ。
しかし、ただの空気は素通りだ。酸素のない空気が充満している場所に入っていたら、いくらシールドベルトといえども中の人間を守ってくれない。
ふーむ……創造魔法で出す道具はどうイメージしたものだろう。
ここで選ぶべきは『クリエイト・アーマー』だろう。
毒に汚染されていたり、空気が無かったりする過酷な環境をものともしない。
未来ならそんな道具があるに違いない。
暗黒の中に小さな星が瞬く宇宙。あるいは全てが闇に閉ざされている深海。
そんな場所でも息ができて、身を守れるモノ……。
――そう、ヘルメットみたいな。
顔の全てを覆い、完全に保護してくれるものをイメージするんだ……。
「来たぞ……クリエイト・アーマー!」
求める存在のイメージができた俺は、創造魔法の名前を叫んだ。
いつものように白い光が俺を取り囲み、形を作る。
しかし、普段と違う部分もあった。
光の粒が大きく、時々文字のようなものが浮かんでいる。
レベルが上がったせいだろうか。
光が収まると、俺は白色のヘルメットを両手に抱えていた。
「これは……?」
「ふむ、どうやら
道具をみたランスロットさんが感想をもらした。
彼の言う通り、出てきた道具はヘルメットのようだ。
素材は妙に軽い謎の白い金属で出来ていた。
軽く叩くと中になにかが詰まっているような重い音を返す。
見た目は、角張ったバイクのヘルメットのようだ。
だがこれがヘルメットだとすると、すこし奇妙な部分がある。
いや、すこしどころではない。
というのも、バイザーの部分が完全に金属製の板で塞がっているのだ。
ヘルメットの前部分は、鋭いエッジが立った一枚の金属の板で覆われている。
みたところ、のぞき穴のようなものは見当たらない。
板のデザインはこざっぱりとしていて、レンズのようなものもなかった。
「このヘルメット、前が金属の板で塞がってるなぁ。穴も何も無いし……」
「カバーかもしれません。ジロー殿、外せそうですか?」
「んぐぐ、んぎぎ!! ……だめです。ガッチリはまってますね」
「ふむ、そもそもバイザーを上げる
「……これが正しい姿ってことですね。ちょっと被ってみます」
「ジローくん、妙だと感じたらすぐに脱いでください」
「はい。では――」
俺は思いきってヘルメットを被ってみた。
すっぽりと、抵抗なく俺の頭が金属の中におさまった。
「どうですか?」
「うーん、真っ暗ですね」
ヘルメットを被った俺は、板ごしにはランスロットさんに返事を返した。
当然のことながら、目の前の板のせいで何も見えない。
もしかして、失敗してしまったのだろうか?
創造魔法を使うときに、俺は「完全に保護するモノ」を想像した。
このバケツはそのせいで出てきたんじゃないだろうな。
うん、たしかにこれなら完全に保護される。
前が見えないという、唯一にして最大の欠点をのぞけば最高だ。
「これは失敗かな。せっかく頑丈でも、前が見えないんじゃ……」
俺はヘルメットを脱ごうとして、アゴがヘルメットの内側にある何かに当たった。
その瞬間、ヘルメットの首のあたりが閉まってしまった。
「げっ! なんか動き出した!?」
「ジロー殿、大丈夫ですか!」
暗闇の中でランスロットさんのあわてたような声を聞く。
が、彼の声に混じって、空気が抜けるような奇妙な音がした。
<フシュー!!>
俺は反射的に「わっ」と叫び、身をすくめた。
するとすぐに、ヘルメットの中がぱっと明るくなった。
<ユーザーを認識しました。システム……起動。>
「お、おぉぉ?」
ヘルメットから機械的な声が聞こえてくる。
そして、俺の視界に重なるように、様々な図形や文字が出てきた。
イメージとしては、戦闘機に乗って戦うフライトシューティングゲームのUIだ。
こんなものが嫌いな男の子がいるだろうか、いやいない(反語)
「おぉ……これは、すごい……イイぞー!」
「ど、どうしたのですか、ジロー殿?」
「あ、すみません。ちょっとテンションがあがっちゃって。ええと……このヘルメット、どうやら身につけた後に操作する必要があるみたいです」
「操作……ですか?」
「操作っていっても、そんな難しいことじゃないです。アゴのあたりにあるボタンを押すと、勝手に動きだしました」
「なんと……魔法の兜のようですね」
<警告:周囲に有害な粒子状物質を多数確認。エアの自動供給を開始します>
「おぉ?」
<シュー……>
ヘルメットから自動的に空気が送られてきた。
どうやら周囲の環境を監視して、問題があればサポートしてくれるようだ。
なにも操作する必要がないというのはありがたい。
「ランスロットさん、このヘルメットは空気に問題があれば、自動的に新鮮な空気を送り込んでくれるようです。これならきっと……」
「えぇ。炎と煙が吹き込んでいるトンネルの中を越えて行けそうですね。かたじけない。ジロー殿がいなかったら、私たちはどうなっていたことか……」
そういってランスロットさんは腰を深く折り、俺に向かって頭を下げた。
予想外のことに、俺はあわてて彼に顔を上げるようにお願いする。
「そんな、気にしないでください! それにランスロットさんは間違っていません。ここでは何もかも予想外のことが続いてるんですから」
「そう言っていただけると、少し気が楽になります」
「今から全員ぶんのヘルメットを出します。配るのを手伝ってもらえますか?」
「えぇ、もちろんですとも。」
俺は創造魔法を乱打して、ヘルメットをスラムの人々に配っていった。
トンネルの中がどんな状態でも、このヘルメットがあれば突破できるはずだ。
マリア、今行くぞ。
どうか無事でいてくれ……。
◆◇◆
※作者コメント※
7 days to die のプレイを終えたので更新再開です。
やっぱりゾンビゲーは最高だぜ…!
しかし今回出てきたのはかなり本格的なアーマーだなぁ。
このままレベルが上がっていくと、どうなるんやろ?
最終的にジローくん、人サイズのガンダムになってそうだぞw
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