ツーリスト

「なるほど。禁書庫を見つけて入れたとしても、そこで終わりじゃない、か……」


「そういうこったな。お前さんは元の世界に戻る方法を探さなきゃいけない。となると、禁書庫の中に詳しい案内役が不可欠だ」


「案内なしでは、吸血鬼が中で見つけた遺体と同じ末路をたどりますね」


「あぁ。だが禁書庫の中を案内できるヤツなんてどこにいる? 俺らが知る中では、そんな人間はたった一人しか存在しない」


「魔術師ナイアルト……」


「そうだ。ヤツを探す必要がある。本当に人間かどうかも怪しくなってきたがな」


 禁書庫を見つけ、入れたとしてもそこからが問題だ。

 膨大な情報の中から必要なものを見つけ出さないといけない。


 もし、それができなければ……禁書庫の中で朽ち果てるだけ。

 バランス調整ひどすぎませんかね。

 難易度ベリーハードってレベルじゃないぞ?


「さて、私が持っている禁書庫の情報はこれが全てよ。具体的な情報というよりは、伝説の類で申し訳ないですけども」


「いえ、十分すぎるほどです。それで――」


「ドワーフの遺跡の場所よね? 残念だけど、白鈴山脈の何処かとしか言えない」


「その吸血鬼は、遺跡の場所を記してなかったんですか?」


「あら、その必要があると思う?」


 ミアは左手の人差し指を伸ばし、とんとんと、頭の横を突く。

 記憶できるから、記録の必要なんてないってことか。


「なら本人に聞いてみます。彼はどこに住んでいるんですか?」


「彼の本当の名前は誰も知らないし、住処も持たない異端の吸血鬼なのですわ。

 ――ただ〝漂泊者ツーリスト〟というあだ名だけが知られているわ」


「まるでつかみ所がない存在ですね……どこから始めたら?」


「ツーリストは特定の住処は持たない。だけど世界の至る所に休息所を設けている。もし彼を探すのなら、休息所を見つけるところから始めるべきね」


「その彼、ツーリストが使っていた休息所がシルニアにもあるんですか?」


「えぇ。『ここ』がまさにそうよ」


「じゃあ、さっきの話って……!」


「私が直に彼から聞いた話しよ。ちなみに孤児院の子どもたちも知ってるわ」


 そういってミアはいたずらっぽく笑った。

 手がかりはすでに俺の足元に転がっていたというわけか。


「もし、彼が訪ねてきたら聞いてみましょう。彼に貴方を紹介してもいいかしら? 異世界からの来訪者なんて、きっと彼も興味を示すはずですもの」


「ぜひともお願いします」


「…………!(こくこく!)」


 これはかなり有力な手がかりだ。

 禁書庫に入ったことがある人間……いや吸血鬼に話が聞けるなんて。

 かなりの前進といえるだろう。 


「わかったわ。でもあまり期待しすぎないでね。彼が来るのは明日かもしれないし、10年後かもしれない。それくらい気まぐれなの」


「はい! もし彼がきたらよろしくお願いします」


「ったく……これじゃ俺が持ってる情報なんてハナクソじゃねぇか」


「あら、ワルタ―貴方もしかして、彼との取り引きにあの時のことを使ったの?」


「あの時のことって、ナイアルト追跡のことですよね」


「あぁ。前にも言ったが、俺は先王からナイアルト追跡の依頼を受け、ヤツの足取りを追って魔国までいったんだ」


「魔国ってシルニア王国が攻めようとしている国ですよね。どういう国なんですか」


「魔国の正式名称はマギアロニカ。我らが世界に存在する、すべてのスキルと魔法の発祥の地とうたわれる地だ」


「魔法発祥の地? スキルって人為的なものだったんですか」


「いやちがう。気が遠くなるほどの大昔、天から星が墜落して、それからこの世界に魔法の力が根付いたって話だ。魔国は墜落した星から一番近かった街ってだけだ」


「なるほど……星はどうなったんですか?」


「今はただの抜け殻だが、魔法使いの聖地となって祭られている。観光地だな」


「魔法の発祥の地ってわりには、けっこう俗っぽいですね……」


「話を戻すぞ。ナイアルトは魔国に入り、そこでもひとつやらかした」


「やらかした? 王国に転移魔法を教えたみたいなことをもう一度やったんですか」


「やつは魔国の王に近づき、あることを吹き込んだ。王国は〝ゲンダイヘイキ〟を使って帝国を滅ぼした。しかしゲンダイヘイキは大地を汚し、無限にエーテルや資源を食い尽くす。いずれ王国は魔国を攻めるとな。そしてそれは正しかった」


「実際、魔国に対する侵略を計画してますもんね」


「あぁ。ゲンダイヘイキと工場が王都にできてからというもの、この地では肺を止む者や手足の欠けた病気の子供が生まれることが激烈に増えた。王女はそれを魔国が呪いをかけたと言っているんだが……」


「それは呪いなんかじゃないです。工場のばい煙に含まれている毒が雲といっしょになることで雨に混じって、大地を汚染しているのが原因です」


「やはりな。俺も以前の転移者からそういった警告を聞いたよ。もちろん先王も聞いている。王女もその事は知っているはずだ」


「まってください、じゃあ……汚染の正体を知ってる上で呪いだと?」


「あぁ。そっちの方が悪いやつが『わかりやすい』からな」


「なんてことを……」


「王国と魔国、両者の思惑は一致した『相手をたたきのめす』という一点でな」


「ナイアルトは今も魔国に?」


「あぁ。以前の調査からだいぶ経ってるが。いまだに移動したって話は聞いていない。魔国をボディーガードとして利用しているんだろう。この戦争の本当の目的は、魔国の土地とナイアルトの抹殺なんだ」


 なるほど……そういうことだったのか。


 しかし、ナイアルトの行動はハチャメチャだな。

 王国に禁書庫の知識を与えておいて、魔国を敵対者にしたてあげるなんて。

 彼がやってることはデタラメもいいとこだ。


 彼の目的はいったいなんだろう。

 魔法と現代兵器が戦うところが見たいだけとか?

 まさか、ね……。



◆◇◆



※作者コメント※

ワイも見たい!


あ、20万PV達成ありがとうございます。

みなさまの応援暖かく受け取らせていただきます。ウォォ!

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