ジョーカーの目的は変わらない
「俺からの情報はこれで全てだ。で――これからどうする?」
ワルターはテーブルに行儀悪く肘をつき、俺の顔をのぞきこむ。
それはどこか、俺のことを試しているようだった。
「何を知ったとしても目的は変わりません。元の世界に帰ります」
「おいおい、どんだけ危険なことに首を突っ込もうとしているかわかってるか?」
「もちろんです。禁書庫の惨状。そして魔国と王国の対立……どれも一歩間違えば命を落とすことは間違いない。でも、それでも帰る理由があるんです」
「どんな理由かしらんが、命をかけるほどに重要なことか?」
……そう言われてみるとどうだろう。
俺が帰ろうとしている理由は、命をかける価値があることだろうか。
ちょっと考えてみよう。
我が家には2人の妹がいる。
長女の
で、長女の霞は来年に高校受験をひかえている。
異世界と俺の世界の時間の進み方は同じ。
根拠はランスロットさんの話だ。
転移者がきたのが20年前で、元の世界の失踪事件も20年前だからね。
たぶんだけど、季節も大体同じ。
肌で感じる気候は5月くらい。これも元の世界と変わらない。
高校受験は来年の1月から2月の間。
出願は10月だっけ?
だとすると、残っている時間は半年くらいだろうか。
いや、受験勉強のことを考えると、時間はもっと短いかもしれない。
高校がその後の一生を決めるとまでは言わない。
でも、軽じられるものでもない。
霞は俺より勉強できるし、できれば大学までいかせてあげたい。
でもウチは母子家庭ゆえに貧乏だ。
普段の生活からしても俺のバイト代がないとけっこうキツイ。
高校、そして大学の学費となると……わかりきっている。
それに、俺がいない=バイト代がない今、家の生活は苦しくなってるだろう。
俺の目的はただひとつ。
家族のため、できるだけ早いとこ元の世界に帰る。
これしかない。
あ、ウソだわ。もう一個あった。
あわよくば、異世界の冒険で手に入った金銀財宝も持ち帰る!!
そんで、元の世界でウハウハ生活!!
うん、これも大事な目的だね!!!!
「黙ってちゃわからん。どうなんだ?」
「……僕の世界のことなんで、ちょっと説明しづらいです。
でも、他の人にとってはくだらないことでも、僕には重要なことです」
「そんなところだとおもったぜ。なら俺からは何も言わん」
「…………(こくこく)」
「はっ、嬢ちゃんも付き合うってさ。ずいぶん好かれたもんだな」
「ありがとうマリア」
「もし良いと言ってくれるなら、私もジローくんについていこうかしら?」
ルネさんも協力を申し出てくれた。
彼女はゴーレム。それも禁書庫の知識を使って作られた存在だ。
超常の力をもつ彼女が手伝ってくれるのはありがたいが……。
「それはありがたいですけど、いいんですか?」
「えぇ。こんな面白そうなこと、放っておけというのが無理だわ。
……それに、あなたにも興味があるの」
彼女はそう言って俺の腕に手をからませる。
ああいけません! おさわりはいけませんお客様!!
「貴方はきっと、禁書庫をめぐった争いの台風の目になる。あなたのそばにいれば、きっとゼペットを殺した連中の黒幕――『星の暁』とも出会えるわ」
「な、なるほど……」
おうふ。ピンク色のムフフ展開じゃなくて、どす黒い復讐展開だった。
あれれれ、ちょっとお待ちくださって?
それじゃ俺は、連中を引き寄せるためのエサってこと???
「お前さんモテモテだな。きっと剣が乾くヒマなんてないぞ」
「そんな?!」
「あら、だって坊やの立ち位置ってそうじゃない? 禁書庫へ最も近い存在になる。
これって、すべての勢力から見て敵になるって意味よ」
「え?」
「考えてもみて。完全に死に体だった王国が、逆に帝国を打ち倒すことができたのよ。そんなものが争いの種にならないと思って? 現在ナイアルトを保持する魔国の力は王国と同等。だがここにもう一枚のジョーカーが現れたら?」
「天秤のバランスはそのジョーカーを拾った者にかたよる。ってことだな」
「そう。魔国も王国も、そしてまだ現れていない第三者も。いずれの
「……OH」
「うむ。まさに勇者だな。俺にはとてもマネできねぇわ」
「……………(こくこく)」
待って、それは知らない。
でもそうか、普通に考えたら全方向敵対外交だわこれ。
禁書庫の中につまっている知識は核兵器と同じだ。
転移魔法、そしてゴーレム。
どちらの技術も、たったひとつで世界を大きく変えうる。
魔国と王国は、ナイアルトが行き来したことでちょうどバランスが取れている。
だが、そこにもう1個、「禁書庫の知識だドン!」となると……。
いやそれどころじゃないか。
俺が求めていることは、「禁書庫で望む知識を自由に利用する方法」だ。
もし、俺がこれを実現したとして、それがバレたら?
……全世界を巻き込んだ血みどろフェスティバルの開催は間違いない。
それだけの価値はあるだろう。
どれだけの犠牲をはらってでも、手に入れようとするはずだ。
でも、今さら「やっぱやめます」って言える雰囲気じゃないし……。
ままええわ、やってやろうじゃないの!!!!
◆◇◆
※作者コメント※
キャッキャ! 話が大きくなってまいりました。
さて、次話からまたサイドクエストの消化に入ります。
テイストとしてはちょっとギャグ寄りかも?
お楽しみに!
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