古墳の中へ

 古墳の中は想像していたものとだいぶ違った。


 お墓というから棺が並んだ殺風景な場所を想像していた。だが、穴をくぐっていった先は、墓というよりは石造りの宮殿という方がふさわしい場所だった。


 巨大な石を積み重ねてつくられたホールは吹き抜けになっており、3つの窓が縦にならんでいる。ホールの中央には巨石を2つに割った巨大なテーブルがあり、その上には水さしや大皿が所せましと並んでいる。


 皿の上には、名前もわからない魚やトカゲのミイラが並んでいた。

 あまり美味しそうには見えないが、沼で取った獲物をならべているのだろうか。


 怪魚は背中のヒレにまだら模様のトゲが生え、口の中に鋭い牙を持っている。

 一方のトカゲは胴体が異様に長く、目が横に張り出している。


『マギーさんが言った通りだ。テーブルに魚が並んでるね』


『けど……食べた様子はないみたい? お腹すいてないのかな?』


『あるいは――食べようとしても食べられなかったのか、だね。レコンヘルメットによると、どれも汚染されているみたいだ』


 さて、俺が被っているレコンヘルメットは、周囲に毒物や危険な環境といった脅威が存在すると、自動的にそれらの情報を表示する。


 テーブルを見た瞬間、俺の視界はそれらの情報でとってもにぎやかになった。重金属汚染、生物毒、そして有毒なカビと微生物。


 この魚とトカゲは毒物のデパートだ。

 見た目でもしやとおもったが、バッチリ汚染されている。

 手を付けてないのは、これが理由か?


『ここに並べられている食べ物はどれも汚染されてる。いくらドラウグルでも、毒のあるものは食べたくないみたいだ』


『こんなにいっぱいあるのにね……』


『うん。それにこの皿――』


 盛られた獲物に比べて、皿はふた周り以上大きい。

 近くにある食器もバカげた大きさで、スプーンがしゃもじくらいの大きさだった。

 大は小をねると言うが、これはかえって不便を感じるほどだ。

 

『ここにあるものは何もかも大きい……まるで巨人の家だ。これだけの大きさのスプーンを使うなら、相当な大食漢のはず。しかし、食べれるものがないとなれば……』


『私達のこと、食べようと襲ってくる、かも?』


『かもね。ただの生前の真似事ならいいけど……注意しよう』


 俺はいま一度古墳の中にスキャンをかけた。

 古墳の中に入った今は、石の扉越しでやったときより広い範囲を探れた。


 スキャンによると古墳は左右対称で、ちょうど漢字の「山」のような形だ。

 いま俺たちがいるホールは「山」中央の縦棒で、てっぺんが入口となる。


 ホールから先に進むと、分かれ道につきあたる。

 分かれ道をいったの先は、どちらも※玄室のようだ。


※玄室:「げんしつ」古墳や地下墓地などで遺体を安置する場所のこと。もっぱら、地下にあるお墓の墓室のことを言う。


 玄室の中では、細長い光点が規則正しい間隔で左右に並んでいる。

 推察するに、ドラウグルたち棺の中に収まって眠っているのだろう。


 光の数を数えてみる……20か。左右の玄室を合わせると、合計40。

 一度にこの数を相手にするというのは、ちょっと難しいな。


 ドラウグルを倒すだけなら特に難しくない。せまい通路にセントリーガンを並べて、誘い出すなりして弾幕と爆炎で圧倒すればいいだろう。


 だが、今回の依頼はドラウグルの捕獲が目的だ。

 すべてを灰にしたら、依頼は失敗となる。


 さて……どうするか。



◆◇◆


※作者コメント※

区切りの都合により、今回はちょっと短め。

ユルシテ…ユルシテ…

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