思っても見なかった問題
『ドラウグルたちはホールの先にある左右の部屋に集まってるみたいだ。捕獲するには部屋から誘い出す必要があるけど、どうしたもんかなぁ……』
『ご飯はどう、かな?』
『ご飯?』
『うん。きっとだけど、昔は沼で取れたお魚が食べられたと思うの。でもシルニアに工場が出来て、あたりに毒を振りまいてからは……』
『沼の魚は食べられなくなった。ドラウグルたちは飢えて困ってるかもってことか』
『うん。きっとそうだよ』
『なるほど。やってみる価値はあるかもね』
ドラウグルが飢えに苦しんでいるなら、食べ物に反応するかもしれない。
やってみる価値はあるだろう。
『さて、何を出そう。強化栄養食や英雄食だと、戦闘になったときに返り討ちにされるかもだから……三等娯楽食がいいかな?』
『かも?』
俺はクリエイト・フードを使って三等娯楽食を出す。
そしてテーブルにあった古い食事を片付けて、それらの代わりに料理の入ったケースをテーブルの上に並べてみた。
「「…………」」
娯楽食はホカホカと湯気を立てているが、それだけだ。
しばらく待ってみたが、古墳の奥からドラウグルがやってくる様子はない。
『ここに置いてもダメ、かも?』
『ドラウグルを誘い出すには、もっと彼らの近くに置かないといけないか』
そういえば今の時間はお昼のちょっと前、食事の時間じゃない。
それに、食べれない料理がならんでいるホールにわざわざ来ないか。
俺たちはテーブルの上に並べていたケースをいくつか取ると、向かって左の玄室に向かった。
玄室の前につくと、部屋は彫刻の施された石の扉で閉ざされていた。
彫刻には、口から火を吹いている生物が彫り込まれていた。生物は背中に翼を持ち、太い2本の腕が胸の横についているが、後ろ足はない。腹から先はヘビのようになっていて、波のようにうねっている。
この奇妙な生物が、彼らの信仰するドラゴンなんだろうか。
『扉の彫刻……これがドラゴン?』
『かも? 私が見たのとはちょっとちがう、かな?』
『そういえばマリアは湖の底でドラゴンを見たんだっけ。どんなだった?』
『もっとかっこよかった!』
『画力の問題かぁ……』
たしかに彫刻のドラゴンは目が離れ、ちょっと間の抜けた顔をしている。
まぁともかく、料理を扉の前に置いてみよう。
俺はほかほかと湯気を上げるうな重を扉の前に置く。
できたてのうな重の威力に抵抗できる意志力を持つものはそういないはずだ。
だが、ここにきてもドラウグルの反応はない。
マップに映っている光点も弱々しく光るばかりだ。
ドラウグルに動く様子はまるでない。
『……こないねぇ』
『ドラウグルさんたち、眠ってるの、かな?』
『かも? ちょっとだけ中を覗いてみようか』
古墳の入口は、閉めたら二度と開かないタイプの落とし戸だった。
しかし幸いなことに、玄室の扉はちゃんと開く普通の扉になっている。
二人して扉の片側に力をこめると、扉がゆっくりとスイングした。
俺は扉で身を隠しながら、頭だけ出して玄室の中を見る。
部屋の中にはフタの空いた石棺が左右それぞれに10個づつ並んでいた。
目を細め。棺の中を見てみる。
棺の中には、くすんだ青銅の鎧を着込んだ巨人が横たわっている。
身長はおそらく2Mと半分くらいか?
マリアの身長が130センチくらいだから、ちょうど彼女の倍くらいだ。
昔の人は体が大きかったのか、それともヒトとは違う種族なのか。
ぱっと見た様子では判別がつかなかった。
『しー、やっぱり寝ているみたいだ……』
『ジロー様、どうしよう……起こしてみる?』
『それじゃあ目的と手段があべこべになっちゃうよ。寝ているなら好都合だ。ドラウグルに網をかけて、そのままマギーさんのところに……』
俺がマリアと相談していたその時だった。
俺たちの頭の中にしわがれた、それでいて強い口調の男の声が響いた。
『――かしましい。我らの家に入り込んだのは……何者だ』
『えっ!?』
何者かが、ハーモナイザーを使った俺達の会話に割り込んだ。
『もしかしなくても、ドラウグル……?』
『でもなんで……』
『げ、忘れてた!!!』
『???』
今になって俺は、アイザックさんの言ってたことを思い出した。
〝より純粋なエーテルに近い存在。それか旧い時代のエーテルを持った存在は、お前さんらの会話に感応できる。まぁ、何となく感じ取れる程度だがな〟
ドラウグルはアイザックさんのようなドラゴンと同世代。
つまり、旧い時代のエーテルを持った存在だ。
だからハーモナイザーを使った俺たちの会話を察知できるんだ。
やっちまった……まずい、まずいぞ!!!
『マリア、ドラウグルはドラゴンと関係をもっている。つまりアイザックさんと同世代の、旧いエーテルを持つ存在なんだ。ドラウグルはアイザックさんがやったように、俺たちの会話を感じ取れるんだ』
『……あ、そっか!』
ドラウグルたちはゆっくりと棺から体を起こすと、ギシギシと金属をきしませる音をさせて立ち上がった。その体の大きさときたら、まさに圧倒的だ。
体が大きければ、当然身につけているものや使っているものも大きい。
ドラウグルが腰に帯びていた剣を抜くと、その長さは大人の身長くらいあった。
棺から身を起こしたドラウグの数は全部で20体。
まさに絶対絶命と思ったその時だった。
『……ウグッ!』
起き上がったドラウグルがその場で膝をつき、痛みにうめくような声を上げた。
それも1体や2体ではない、起き上がったドラウグル全てが膝をつくか棺によりかかり、床に這いつくばっているものすらいた。
『これはいったい何が……』
『クッ……無念だ。墓荒らしの前でこのような無様をさらすとは……!』
『あっ、もしかして――』
あることを思いついた俺は、手近なドラウグルに視線を合わせる。
レコンヘルメットで詳細なスキャンを行うためだ。
そしてスキャンを行った結果、俺は自身の推測が正しかったことを知った。
『ジロー様、これってどういうこと?』
『彼らの体をスキャンしてみた。ドラウグルの体の中は重金属と毒素でいっぱいだ。けど、
『じゃあ……』
『あぁ、彼らは病気になっている。』
ふと、昔読んだガリバー旅行記のことを俺は思い出した。
絵本で有名なガリバー旅行記だが、ガリバーは
ラグナル島に上陸したガリバーは、ラグナル島には決して死ぬことがないストラルドブラグという不死者がいることを島の人から聞く。
ガリバーはそれを聞き、不死ならば学問を究めることもできるし、永遠に富を手にし続けることもできるとうらやましくなり、不死者と会いに行った。
だが、ガリバーの見た不死者は彼の想像と違った。
不死者は「死ねない」というだけの、ごく普通の人間たちだったのだ。
古くからいる不死者は1つの文章を通して読むことも出来ず、それどころか食べ物の味もわからなくなっていた。不死者は悪臭の満ちるドブに裸同然に横たわり、手に入るものは泥であろうと人の汚物であろうと、何でも飲み食いしていたという。
ガリバーが出会った不死者は、理知や高貴の対極にいた。
ストラルドブラグは普通に死ぬことができる人間に対して、うわ言のように呪いと嫉妬の言葉を口ずさむだけだったという。
不死者の姿を見たガリバーは、落胆を通り越して恐怖すら覚えた。
そして、島の王は彼にこう言ったという。
〝なんなら、不死人間を二人ばかりお前の国に送ったらどうか、そうしたら故国の者たちも死を恐れなくなるのではあるまいか〟と。
◆◇◆
※作者コメント※
ひぇっ…。
不老不死(なお、病気はサポート外)とか、あまりにも罠すぎる。
しかもサポセンはここしばらく不通の様子。アクマか?
あ、心臓の検診のために9月6日の更新はスキップするかもです!
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