思わぬ新要素

「ぜぇ、はぁ……」


『お疲れジロー様。』

『の、脳が痛い……!!』


 20数人の子どもたちの顔と名前。なんとか覚えきった……と、思う。

 頭を回転させすぎて、脳が焼けるかと思った。


「ハハ、すぐに覚えようとしなくても、ゆっくりでよろしかったのに」


 そういってランスロットさんが微笑む。

 言われてみれば、たしかにそうなんだけど……。


「文字まで覚えて教えてくれたのに、そういう訳にはいかないですよ」


「お前さん、クソがつくほど真面目だねぇ」


「それで、首尾の方はいかがでした?」


「あ、そうそう。幽霊屋敷のことなんですが――」


 俺は手に持っていた風呂敷を広げた。

 さっきから静かだと思ったら、白い猫はぐっすり寝ていた。


「うみゅうみゅ……」


 寝言なのか、口をもぐもぐと動かしながらヘルメットを抱いている。

 かわいい。


「屋敷にあった機械が壊れたのは、この子が原因みたいです。ワルターさんの話だと、新種のモンスターが発生したんじゃないかって――あれ……?」


 俺は屋敷でグレムリンにヘルメットを与えた。

 そのときバイザーが解体され、バラバラのパーツになったはずだ。


 しかし、ネコが抱いているヘルメットのバイザーは、完全に元通りになっている。

 風呂敷の中でモゾモゾしてると思ったら、これをしていたのか。


「どうしました、ジロー殿?」


「えっと、ヘルメットはこの子に解体されたはずなんです。でも、今見たら元通りになっていて……それに驚いただけです」


「壊すだけでなく、直すこともできると? 興味深いですね」


 ランスロットさんは、グレムリンをしげしげと見つめた。

 ネコは広げられた風呂敷の上でぐっすり寝ている。


「5本に広がった尻尾以外は、ただのネコと変わりなく見えますね」


「おや、このヘルメット……細部が異なってますね」


「え? あ、ほんとだ!」


 ランスロットさんに言われて、俺ははたと気がついた。

 レコンヘルメットは白一色だったのに、一部が赤色になっている。


 この赤色には見覚えがある。ラジカセの赤色だ。

 そういえば、風呂敷には解体されたラジカセのパーツも一緒に包んだはずだ。

 だが風呂敷の中にはそれらのパーツが見当たらない。


 ラジカセのパーツを使ってヘルメットを改造したのか?


「もしかしてお前、解体したヘルメットとラジカセを合体させたのか?」


 俺の疑問にまどろみの中にいるネコは答えない。

 ごろんと風呂敷の上で寝返りをうち、フワフワの腹を見せるだけだった。

 うん、かわいい。


「…………!(なでなで)」


 マリアはお腹を見せているネコチャンのお腹をモフっている。

 すると、グレムリンはだらしなく口を開け、「んなぁ」と鳴いた。


「も~……勝手なことしちゃって」


 なでられたのがそんなに気持ちよかったのだろうか。

 ネコはマリアの手を構って「うにゃうにゃ」と、手を振り回す。


 俺は手放されたヘルメットと取り上げ、じっと見る。

 オシャレな紅白カラーになった他は、とくに変わりなく見える。


「あれだけバラされたのに、ほとんど元通りだ……。機能も大丈夫なのかな?」


 俺はおそるおそる改造されたヘルメットを被ってみる。

 アゴについているスイッチはそのままだ。

 俺はスイッチを押してヘルメットを起動してみた。


 ……今さら思ったけど、爆発したりしないよね?


 俺の心配をよそに、ヘルメットは無事起動する。

 それだけでなく「ぽわわ~ん」とかいう、おしゃれな起動音が追加されていた。


 あ、これ聞いたことある。

 コンピューター室のパソコンの起動音そっくりだ。


『注意:不明なユニットが接続されました。問題を解決中……完了。』


 いつもの人工音声が何か不穏なことを言っている。

 不明なユニットというのは、ラジカセに由来するパーツのことだろうか。


『報告:レコンヘルメットに無線機能、拡声機能が追加されました。操作のチュートリアルを確認しますか?』


「ほぇっ?!」


 俺の間抜けな声を同意と見たのか、ヘルメットは機能の説明を始めた。

 俺の視界に表示されているインターフェースを視線で操作すると、機能のオンオフができるらしい。なんとまぁ。


「…………?(かしげっ)」

「ジロー殿、ヘルメットがどうしたのですか?」


<<<分解されたヘルメットが改造されてるんです>>>


 あ、やべ。うっかり拡声機能をオンにしたまま話してしまった。

 風呂敷で寝ていたネコチャンがびくんと背中を跳ねさせ起きてしまう。

 俺はあわてて音量を下げた。


「なるほど……。その大声は、ラジカセに由来した機能ですか」


「多分そうですね。今わかったんですけど、このモンスター……機械を分解するだけじゃなくて、かけ合わせて改造する能力があるみたいです」


 グレムリンは、幽霊屋敷でラジカセを分解していた。

 そのときはラジカセしか置かなかったから気づかなかったんだろう。


 こいつの本質は機械の分解じゃない。

 2つの異なる機械の合成。「機械合成」だ。


 異なる機械を組み合わせて、新しい機械を作り出す。

 それがこのモンスターの能力だ。


 ネコチャンは丸っこい手を使って、くしくしと顔を洗っている。


 グレムリンの様子をみるに、自分のやったことがどういう意味を持っているのか、理解はおろか、興味すら持っていないようだ。


 この子、もしかしなくても、とんでもない存在なんじゃ……?



◆◇◆



※作者コメント※

腕利きメカニック(なお、あんまり言うことは聞いてもらえない模様

新要素、機械合成の開放よ!

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