星明裁判


 墓守の小屋を出た俺たちは、無名戦士がほうむられている場所に向かった。


 無名戦士の墓は大きな石碑を中心として、その回りを取り囲むように小さな墓石がある。その様子は、まるで小さな墓たちが中央の石碑を守っているようだ。


 石碑の表面には戦士たちを讃える文字が彫り込まれていた。

 しかし、それも今は読むことが出来ない。

 押し倒され、ハンマーで表面が完全にくだかれていたからだ。


「ひどいことを……」


『ジロー様、周り!!』


「ッ!!」


 気づくとぼんやりと光る亡霊たちが現れ、俺たちを取り囲んでいる。

 亡霊たちは鎧を着た兵士や騎士の姿をしていて、腰にある剣に手をかけていた。

 墓参りを喜んでいるようには見えないな。


「待ってくれ戦士たち。話があってきた」


 亡霊たちに向かって話しかけると、奇妙な声が聞こえてきた。

 小さいのに叫ぶような、それでいて煙の中でささやくような不明瞭な声だ。


『あの者たちはなぜ来ない。なぜお前のような子供がここにいる』


「彼らは来ない。そのかわり僕と彼女をやとった。僕はジロー、こっちはマリアだ」


『――やとっただと? なるほど。その剣で我らをるつもりか?』


「いや、斬るつもりはない。墓守から何があったか話を聞いた」


『ならば何をしに来た』


「最初に言ったように、話があるんだ。彼らがしたことをゆるして欲しい」


 僕がその言葉を口にした瞬間、周囲の空気が変わったのがわかった。

 これを「殺気」というんだろう。

 目に見えない何かがチクチクと肌に突き刺さって、めちゃくちゃ居心地が悪い。


『この墓を見ろ。これがシルニアのために戦った戦士たちに対する礼か?』


『しかり。罪には罰を。これは正当な返報だ』


『そうだ! 連中の首をはねて、来世はもっと人の役にたつよう馬か牛に生まれ変わらせてやる!!』


 斧を持ち、熊の毛皮を被った亡霊が地面に戦斧バトルアクスを叩きつけた。

 その見た目は、まんま北欧のヴァイキングだ。

 亡霊は斧をぶんぶんと振り回し、俺とマリアをおどしつける。


『小僧、奴らを連れてこい。話はそれからだ!』


「僕もただでゆるせとは言わない。星明裁判を求める」


『何ぃ~?』


『待て』


 僕らを囲んでいた亡霊たち。

 その中でずっと黙っていた騎士が口を開いた。


 亡霊騎士は他の者達に比べるとずっと立派なよろいを着ている。頑丈そうなヘルムには、翼を広げた白鳥の飾りまでついていた。


 無名戦士の墓に入るような身分には見えない。いったい何者なんだろう……。


『裁きを求める声に応えよ。それは罪人の持ちうる唯一にして最期の権利ゆえに』


 彼はマントを払い、並んだ亡霊たちの列から進み出る。

 そして剣をすらりと抜くと、そっと僕の肩に置いた。


『この者の身元は我が引き受ける。異論のあるものはいるか?』


『『………………』』


『いないようだな』


「あ、ありがとうございます」


『礼にはおよばぬ。君たちを裁判における決闘代理人として認めよう』


 騎士は剣を引く。すると亡霊たちが騒ぎだした。


『おお、決闘だ!!』『誰がやる?』


『俺だ!! 俺がいくぞ!!』


 斧を持った亡霊が吠え、僕たちの前に立った。

 さっき俺たちを威圧していたヴァイキングの亡霊だ。


『おぉ、ウルフリック一族の闘士だ!』

『いいぞー! 野郎をカチ割っちまえ!』


『2対1で来い。ガキに勝っても恥にしかならんが、相手してやる』


「どうも。」


『では試合を始めよう。皆のもの、円陣を組め』


 騎士が号令すると、亡霊たちが僕とヴァイキングを囲んでリングを作る。

 そして彼らは、手に持っていた剣や槍、斧を天に掲げた。


『『天上の星は我らのすべてを見る。故に正義ある者に勝利を与える』』


『――始め!』


 騎士が決闘の開始を号令し、彼らの姿が消える。

 後はお前たちで楽しみなさいってことか。


 マリアが銀の剣を抜き、ヴァイキングに相対する。

 先に動いたのは向こうだった。


『風吹くあくた。地に伏せ、平伏せよ――グランドスラム!!』


 ヴァイキングは、ほのかに光る幻の斧で地面をたたく。

 するとドンッと地面から突き上がるような衝撃が襲ってきた。


 ――まずい、とても立っていられない!


<ズガアアアアアアアッ!!!>


「…………!」


 マリアも地震をまともに受け、たたらを踏んだ。

 ヴァイキングは俺より数歩前にいた彼女に向かって突進、斧を振りかざす!


っ首もらったぁ!』


『詠唱破棄――光よ盾に!!』


 マリアは心の中で叫ぶ。すると彼女は金色に輝く泡のようなまくで包まれ、弾ける泡が振り下ろされた重刃を弾き返した。


<バキンッ!>


『んなぁにッ?!』


『そこッ!』


 すかさず銀剣を突き出すマリア。

 しかし闘士はそれを読んでいた。長柄斧の柄を回して白刃を防ぐ。


<カン、ガキン!!>


 柄を回した勢いで斧を車輪のように回しマリアの足を刈ろうとする。

 彼女はすばやく剣を引くと、猫のように地面に跳んでそれをかわした。


『面白れぇ……!』


「……………!」


 マリアは手のひらを銀の剣にそえる。

 白銀の剣に太陽のような黄金色の光が宿り、剣身が燃えた。

 もしや、あれが「聖剣技」ってやつなのか?


『ハッ!!』


 剣を払い抜くと、黄金の剣が閃光を放って光刃を飛ばす。

 光の衝撃波は真正面にヴァイキングをとらえている。

 ――よし、これならいける!!


<――ニヤリ>


うめけ氷雪、霊峰より雪崩て……奥義、アヴァランチ!』


 ヴァイキングは斧を両手に持って、杵柄きねづかのように地面に打ち付ける。直後、青色の波紋が広がったかと思うと、蛮族の前から雪崩が立ち上がり、光波が完全にみ込まれてしまった。


「げぇっ、なにそれッ?!」


『あ、ダメかも』

『そんな?!』


『さー全身の骨を折った後、お前らの首をはねてやる! ヌウーハハ!!』


 目の前に雪崩が迫ってくる。

 あ、これって……もしかしなくても相当ヤバイのでは?


『前方に敵対的意思存在を確認。セーフティ解除。自動迎撃を行います』


「?!」


<バシュンッ!!!!>


 刹那せつな、青い閃光が放たれ、俺たちを飲み込もうとした雪崩なだれが弾け飛んだ。雪のかたまりは文字通り溶けて消え、跡形あとかたもなくなった。


 雪が蒸発したせいだろうか、周囲には牛乳のような濃い霧が立ち込め、プールの消毒剤のような、生臭くも青臭い、何かが焦げたような妙な香りがしていた。


『な……俺の奥義だぞ、どうやって返した!?』


「わかんにゃい」


『わからんことをするな! 卑怯ひきょうだぞ!』


「そんなこと言われても……ん?」


 地面に銀色のピストルが転がっている。

 俺が転移したときに出したあのオモチャ……「タキオンランス」だ。


 あっと思って見たら、ズボンに大穴が空いている。

 まさかさっきの雪崩なだれを消したのって、こいつが……?


『提案:白兵モードに変更しますか?』


 マリアじゃない、作り物のような妙な声が聞こえた。

 声、いや音は俺の足元、オモチャのピストルからしている。

 いや、そんなまさか……。


 俺はタキオンランスを拾い上げる。そして――


「は、白兵モードに……よろしくお願いします?」


<ヴォンッ!!>


「?!」


 にぎりしめたオモチャにお願いすると、先端から青い光が伸びて、ビームサーベルのようになった。ま、まさかこれって……本物の武器だったの?!


『ジロー様、それってまさか……光の剣?』


『いや、これは……うん、何かそんな感じ!』


 今は戦闘中だ。マリアへの説明をあきらめて同意した。

 ビームサーベルだろうが光の剣だろうが同じものには違いない。


『な、な……クソォッ!!!』


 ヴァイキングは俺に向かってやたらめったにおのを振る。

 危ないと思った俺は反射的にタキオンランスで払う。

 すると、斧の刃は青い光にれた瞬間、スパッと切れて燃え上がってしまった。


『ひぃ?!』

「何これ怖ッ!?」


 俺とヴァイキングのオッサンは飛び上がり、ふたりして意図しない結果に震え上がっていた。完全にアホの子である。


 しかし、ここにきて何をすればいいかが分かってきたぞ。

 俺は、俺の体の動きに従う。


「えーっと、こんな感じかな……? 活人剣の壱――みね打ち!」


 光の剣を構え、俺は念じる。

 剣技とかのスキルを使うのって、たぶんこんな感じであってるだろう。


 いくら蛮族してても、無名戦士を消滅させるのは忍びない。

 みね打ちでおとなしくなってもらおう。

 ん、でもゴーストに気絶とかってあるのかな?

 やってみればわかるか!


『いや、それで峰打ちは無理があるだろ!! それ全部刃だろ!』


「そんなの……やってみなきゃわからないだろ!!!」


『絶対無理だから!! や、やめろー!!!』


<バシュンッ!!>




◆◇◆




ーーーーーー

※作者コメント※

しかしまぁ、こんなスキル使えるやつがゴロゴロいたのに

討ち取った帝国と、それ破った近代兵器どんだけやべーんだろ…

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