大捕り物

 背負い袋をひったくった泥棒は、市門に続く人の波に飛び込んだ。

 朝のいま、門の周りは人でごった返している。

 仕事のために街から出ようとする人、商売のために荷物を入れようとする人。

 そういった人たちでいっぱいだ。


 まずいな。ヘルメットを取られたのもそうだけど、サテライトキャノンのコントロールまで盗まれたら大変だ。なんとしてでも取り返さなきゃ!


『マリア、追いかけるよ!』

『うん!』


「マギーさん、自転車よろしく!」

「お、おい!」


 自転車のハンドルを彼女に押し付けると、俺たちは人混みに向かって走った。

 乗ってた自転車に足をとられたせいで、泥棒に距離を離されてしまった。


(間に合うか……? いや、間に合わせる!)


 夜露よつゆでぬれた玉砂利をけ飛ばし、俺とマリアは道を駆け上がった。

 中世の遺風を残す市門の前は、すこしキツめのスロープになっている。


 そういえば、ランスロットさんと雑談していたときに聞いたな。

 これはかつて、この市門が防衛施設として使われていた名残だって。


 中世の時代には破城槌というものがあった。

(いうて、この異世界ならいまだ現役だろうけど……。)


 これは車輪がついた小屋の屋根に、金属で補強した丸太を吊り下げた攻城兵器だ。破城槌の屋根に吊られた丸太には、数人がかりでひっぱれる縄がついている。兵士たちはブランコの要領で丸太をゆらし、鉄で補強した丸太の先端を門に叩きつける。


 石造りの城門であっても、門はだいたい木製だ。何度も丸太がぶち当たればひとたまりもない。そうやって門を破り、兵の侵入を助けるのが破城槌という兵器だ。


 ――だが、破城槌はとんでもなく重い。

 目の前のスロープのような、傾斜した坂を登るのは難しいのだ。


 しかし、キツめの坂といっても、人やトラックの足を止めるほどではない。

 ローブの男はイタチのように人と人、車の間をするすると抜けていく。

 その滑らかさといったら、全身に油でも塗ってるんじゃないかと思えるほどだ。


『なんて身軽なヤツだ! あいつの足を止められる何かがあれば……!』


『ジロー様、いつものアレ、ダダダっていう箱は!?』


『いや、ここでセントリーガンを使うのは危険すぎる。クッ、人を傷つけず……それでいてヤツの動きを止められるものがあれば――そうか!』


 そうだ、こういうときこそ創造魔法だ。

 俺は坂を駆け上りながら、今この場で必要な武器をイメージする。


 遠くにいる相手の動きを止め、無力化できる、そんな武器を――

 となると、やっぱ電気だろうか。

 ビリビリっとさせて相手の動きを止める感じの、なんかそういうの……来い!


「――クリエイト・ウェポン!」


 俺の手の中に白い光が集まり、何かの形を取りはじめる。

 現れたのは――うーん……ボール?


 手のひらの上にあるのは、ソフトボールくらいの大きさの黒いボールだ。

 材質はプラスチックのようだが妙に重い。

 ボールの中に金属か何か、たぶん機械が入っているようだ。


 レストランでバイトした時、防犯用のペイントボールを持ったことがある。

 だが、このボールはそれには見えない。

 うーん……スタンガンやテーザーガンを想像したつもりだったのに。

 創造魔法さんは、相変わらず斜め上をいく。


「ま、いっか。えーい、なんとかなれー!」

「…………!(ふんす!)」


 俺は雑に決意すると、泥棒の背中に向かってボールを投げつけた。

 黒い玉は山なりの弧をえがき、人々の頭の上をとんでいく。


「あ、やべ!」


 だが、俺が投げたボールの速度より、泥棒が人に隠れるほうが早かった。

 泥棒は近くにいたハゲたおじさんの服をつかむと、引っ張って盾にする。


 なんて非人道的なやつだ!!


 このままだとボールが何の罪もない身代わりにされたおじさんに当たってしまう。

 ヤバイ、そう思った瞬間だった。


<ブォン!!>


 ボールが不自然な挙動でカーブすると、おじさんのハゲ頭を飛び越えたのだ。


「えっ!」

「ッ?!」


 俺と泥棒がそろって驚愕する。

 さすがにこれは予想外だ。


 軌道を変えた黒い球体は泥棒の近くまで飛ぶ。

 そして次の瞬間、黒い表面を赤く光らせて真っ二つに割れた。

 いや……〝開いた〟のだ。


『あのボール、ドローンだったのか!』


<バチバチバチッ!!>


 開いたボールから赤いレーザーが発射される。赤い光の筋は泥棒の胸元に吸い込まれ、刹那、ローブの男は雷でうたれたかのように悲鳴をあげてのけぞった。


「オぎョン?!」


 奇っ怪な悲鳴をあげ、全身で震える泥棒。

 彼は陸にうちあがった魚のように人混みの中ではね回っていた。

 うーむ、ムゴイ……。



◆◇◆



「エレクトリガー」で未来の治安維持を、今すぐ手に入れよう!!


 野蛮な世界に秩序を取り戻す、究極の非致死性兵器!!

 エレクトリガー™が善良なる市民の皆さまのお手もとに登場!!


 この黒いボール状の小型ドローンは、犯罪者を一瞬で無力化する強力な電撃を放ちます。(通称ショックレーザー。現在特許出願中)


 レーザーは完璧なAI制御により、障害物や無関係な市民を華麗にスルーし、目標となる極悪犯罪者に向かって、容赦なく、慈悲なく、正確に電撃を放ちます!!


★主な特徴★


◯超高精度な精密ターゲティング ◯

 エレクトリガーは投射が独自に開発したAIにより、自動車といった障害物や、無関係な市民を通り過ぎ、目標となる犯罪者にのみ電撃を放ちます。


 これにより、無駄な犠牲は最小限に抑えられます!

 無差別にショットガンを発砲する警官と比較すると、エレクトリガーの二次被害は何と驚きの10%!(当社の公平で厳正な条件下におけるテストによるデータ)


◯強力な電撃◯

 放たれる電撃は、犯罪者を瞬時に無力化。逃げ場はありません!

 また、赤色をしたレーザー状の電撃はクールで人々の注目を引くこと間違いなし!


◯コンパクトデザイン◯

  持ち運びに便利な黒いボール状デザイン。どこにでも持ち運べます。


★注意事項★


 使用中に障害が残る可能性がありますが、これはごく稀なケースです。

 同業他社のゴシップに惑わされないようお願いいたします。


 レーザーの発射にともない、周囲の物品が破損する可能性があります。

 しかしこれは、レーザーの高性能を証明するものであり、何の問題もありません。


 非武装の犯罪者に対する、エレクトリガーの使用は完全に合法です。

 (当社法務部の見解)


★お客様の声★


「エレクトリガーのおかげで、街の治安が劇的に改善しました! このボールを見せつければ、もう善良な市民に逆うヤツはいません!! 幸福です!」

――匿名の法執行官


「これで犯罪者も安心して無力化できます! 静寂そのものです!」

――非常に満足したユーザー


 エレクトリガーで、未来の治安維持を今すぐ手に入れましょう!

 ご注文はこちら!







 法律に基づき、エレクトリガーが関係する事故記録を記載します。

 なお、これらは全て解決済みの事項であり、あくまでも法律上の記載です。

 これらの事故は、なんらエレクトリガーの性能を疑うものではありません。


事故記録1:日時:XXXX年10月31日

場所:市中心部、ドーナツショップ


概要:エレクトリガーが誤って無関係な市民に命中し、軽度の火傷(第三度熱傷)を負わせた。


担当者コメント:エレクトリガーの判断は完璧であり、事故は非常に稀です。今回の事故は被害者に原因があるとするのが妥当です。事故が発生したのはハロウィンの時期であり、被害者は幽霊の格好をしていました。幽霊の格好をした人物を不審者と判断しない理由があるでしょうか? むしろ今回の事故は、本機に搭載されたAIシステムがどれほど高性能なのか、それを証明するものです。



事故記録2:日時: XXXX年8月20日

場所:ダウンタウン警察署前


概要:エレクトリガーが使用された際、近くの車両が損傷を受けた。


担当者コメント:エレクトリガーの電撃は、犯罪者を確実に無力化するためのものです。レーザーは車両の外板を貫通し、エンジンを損傷させましたが、これはショックレーザーの特性上やむを得ないものであり、低威力化は必要ないものと判断します。むしろ今回の事故は、本機に搭載された兵器システムがどれほど高性能なのか、それを証明するものです。



事故記録3:日時:XXXX年7月15日

場所:ノースエンドショッピングモール


概要:エレクトリガーが誤作動し、ショッピングモール内のディスプレイが破損。


担当者コメント:エレクトリガーの画像診断システムの誤作動は20回に1回という非常に稀なものです。今回の事故の原因は、被害を受けたディスプレイに犯罪者の手配写真が映ったことによるものと判明しています。つまり、事故の原因は犯罪者の写真を掲載した放送局にあり、エレクトリガーではありません。むしろ今回の事故は、本機に搭載された画像診断システムがどれほど高性能なのか、それを証明するものです。




※作者コメント※

久しぶりにきたな……商品説明=サン

本当に、未来の治安維持アイテムは安心、安全だな!


PS.(近況ノート参考)唐突にVRMMOマンガ描き始めたんで死にかけてます。

涼しくなればそのうち元気になると思うので、ご容赦の程を‥

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