泥棒の黒幕
「よし、捕まえたぞ!」
「…………!!(ふんす!!)」
俺は無力化した泥棒を取り押さえた。
エレクトリガーとかいったか、新しい武器の威力は抜群だな。
両手を後ろ手にしばる俺に対して、男は完全に抵抗できなくなっていた。
「ももも、あびゃびゃびゃ……」
黒玉が発したビーム(電撃?)によって、男の体は完全にマヒしていた。
何か文句を言おうとしているようにもみえるがが、舌も回っていない。
うーむ、恐ろしいな……。
このエレクトリガーとかいう黒玉、きっと未来の拷問道具か何かに違いない。
こんな非人道的なものがある未来って……。
ちょっと恐ろしいな。
『ジロー様、荷物、大丈夫そう、かな?』
『あ、忘れてた!』
俺はザックを確認する。
…………よかった、中身は無事だ。
「さーて、ちゃきちゃき歩け――ってのは無理そうだなぁ」
「ほげげ……」
黒玉の電撃で泥棒は完全にダウンしている。
手をつかんでも、力が入っていないためにするりと抜けてしまった。
まるで溶けたウナギのようだ。
「仕方ないなぁ……マリア、足のほう持ってくれる?」
「…………!(こくこく)」
このまま泥棒を放っておくわけにもいかない。俺とマリアは、完全に脱力した泥棒を門番のところまで持っていって、スゴイ嫌そうな顔をしている彼に押し付けた。
「お願いしまーす!」
「いったい何をどうしたらこうなるんだ……」
「えーっと、ちょっとキツめのお仕置きを?」
「ったく、人ごみの中で人がこんなになるスキルを使うもんじゃない。
無関係の人間に当たったらどうするつもりだったんだ」
「ご、ごもっともです……」
「まぁ、こいつの自業自得にゃ間違いない。後はこっちでやっておくから、お前らはさっさと中に入れ」
「あれ? 並んでる途中だったのに、いいんですか?」
「……またトラブルを起こされたら、たまったもんじゃないからな」
「アッ、ハイ」
門番さんの親切かと思ったら、安全上の判断だった。
完全に厄介者あつかいされてるぅ?!
「あ、もうひとり連れがいるんですが、その人も通してもらっていいです?」
「ああ。いいからさっさと行ってくれ」
「はーい!」
「…………(こくこく)」
「ったく、ただでさえこっちは人手が足らんというのに、厄介事を……」
おおぅ、完全に
門番は俺たちの順番を繰り上げて検問を通した。
若干周囲の視線が痛いが、まぁ仕方がない。
「まったく、君らといると退屈しないな。いつも通りというのが存在しない」
「同感です」
「さて、何はともあれ依頼の報告だな」
「ですね。ギルドにいって報告を済ませましょう」
ギルドは飲み屋も兼ねているから、朝のうちにいかないと段々うるさくなる。
なるだけ早いうちに用事を済ませるが吉だ。
俺たちはアスファルトと丸石で舗装された目貫き通りを抜け、ギルドに向かった。
槍、剣、斧が束になった冒険者ギルドの看板の下をくぐり、ドアを抜ける。
朝というのもあって、テーブルについている客は数人しかいない。
そのわずかな客も、テーブルに顔を突っ伏して、すっかり大人しくなっていた。
「小便の臭いに酔いつぶれた酔っ払い。まさにギルドの朝だな」
「……はぁ。他の街のことは知らないんですけど、ブリタニアの冒険者ギルドもここみたいな感じなんですか?」
「あぁ。エールとワインの違いはこそあれど、おおむね似たりよったりだ」
そういってマギーさんはマスクのクチバシをなでる。
このギルドがとりわけヒドイ場所ってわけじゃなかったのか。
それが良いのやら悪いのやら。ちょっと判断がつかないが。
さて、ホールの奥を見ると――やっぱり。
この惨状の中、サイゾウはいつも通り書類の要塞に立てこもって仕事をしていた。
こうしてみると、彼が数少ない世界の良心に見えてくるから不思議だ。あるいは、あの書類の壁の内側にいることで、自らの正気を守っているのかもしれない。
「サイゾウさん、おはようございます」
「お、相変わらず早い帰りだな。もう依頼が終わったのか?」
「えぇ……まぁ」
「…………!(こくこく)」
「うむ。有能な冒険者を紹介してくれて助かった。こちらが必要としたものはすべて手に入った。預けていた報酬を彼に支払ってくれたまえ」
「そうか。それならいいんだが……現地で銃士隊とハチ合わせにならなかったか?」
(ぎくっ)
「いえ、見てません。たぶん行き違いになったんじゃないでしょうか?」
「南方に展開していたギルドの
ゲッ、冒険者ギルドの情報網がめっちゃしっかりしてる?!
ヘリの移動、確認してたのかよ!!!
「えー……そうですね。何もありませんでした。えぇ、ありませんでしたとも」
「…………!!(こくこく)」
「……本当に無かったんだろうな?」
「あぁ。彼らが手早く私の仕事を進めてくれたおかげで、ドラウグルの調査を進めることができた。しかし、そういえば――調査の帰りに雷が落ちるような轟音を聞いたな。空に雲ひとつなかったので奇妙におもったのだが……もしや」
「ちっ、おおかたドラウグルの反撃を食らったってところだろうな。専門家に任せておけばいいものを……」
サイゾウは毒づくと、何かの紙にマギーさんの話をしたためていた。
ギルドとして、報告書か何かを出す必要があったのだろう。
「しかし、彼ら銃士隊がドラウグルに撃退されたとしても、何も不思議はないな」
「何?」
「調査の結果、ドラウグルが不死者になった呪いはドラゴンによる強大なものだったのだ。彼らの持つ力は凄まじく、まさに伝説そのものだったよ」
「なんだって? そんなバケモノが王都の近くに……」
「見つからなかったのも当然だ。ドラウグルは自らの領域を守ることにしか興味がなかった。だがそれは、逆を言えば――」
「遺跡に入り込む連中には容赦しない、と」
「左様。」
マギーさんの口先三寸によって、カバーストーリーがどんどん組み立てられていく。……彼女の声色には、ウソをウソとも思ってない雰囲気がある。
味方ながら、なんちゅーおそろしい人だ。
「彼らがいなければ危ういところだった。獅子の勇気と狐の機転。そのふたつを持ち備えた、まさに稀代の冒険者だよ」
「そ、そんな……いくらなんでも
「まぁ、うちの期待のエースだからな。それについちゃ疑ってない」
サイゾウは「はぁ」と嘆息して、机の下から皮袋を取り出した。
どうやら今回の報酬らしい。
「これが今回のお前らの取り分だ。数はここで数えていけ」
「?」
「王都の治安はただでさえ良くなかったが、最近になって急に悪化してる。
要するに、外で金目のものを見せびらかすなって言ってるんだ」
「あー……」
「なんだ、心当たりでも?」
「あ、実は――街の門で泥棒にあったんです。危うく泥棒に装備の入ったザックを盗まれるとこでした……」
「お前さん、ぼーっとして抜けて見えるからなぁ。いいカモに見えたんだろ」
「…………!(こくこく)」
「ひどい!?」
「でもなんで急に治安が悪くなったんです?」
「そらお前、当たり前だろ」
「?」
「ここ最近、王都はトラブル続きだろ。爆破テロに今回みたいにモンスターを討伐にいった銃士隊が殺られることも重なって、単純に人手が不足してるんだよ」
「あー……」
なるほどなぁ……。
シルニアの銃士隊は、軍隊でもあるけど、武装した警察でもある。
彼らがやられちゃうと、王国の内政にも悪影響が出るわけか……。
ん、ちょっと待てよ?
銃士隊をやっつけてるのって、もっぱら俺だよな?
だとすると、治安悪化、泥棒の黒幕は――俺だったって……コトォ?!
★☆★
※作者コメント※
そら(そうよ)
申し訳ない、半月ぶりの更新でございます。
更新を休んでい間は、シコシコ(意味深)絵作業をやってました。
自作コミカライズもなんとかメドが立ちそう……。
やっぱりメカと廃墟を描きたいので、手始めは「死人たちのアガルタ」かなぁと。
しかしながら、既存の作中描写には絵的な部分での弱さがあるので、イベントや展開を今後調整しないといけないなーという部分が多々あるのですが。
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