秘密研究所?

 洋館の中に入った俺は、二人が入ったのを見て急いで扉を閉めた。

 大きな音を立ててドアが閉じた瞬間、押さえていた扉に強い衝撃が来る。

 追いかけてきたサメハウンド(?)がドアに体当たりしてきたのだ!


<ドンッ! ドカッ! ドン!!>


「クソッ、このままじゃ入口を破られる!」


「…………!!(わたわた)」


 サメ犬が突撃してくるたびに、木のドアが動く。

 まずい、もうドアにヒビが入った。


 ニスを塗られた赤茶色をした艷やかなドア。

 その表面が割れ、割れた間から刺々しい白い木材が姿を現す。


『このままじゃ、バラバラにされるのも時間の問題だ……!』


『ど、どうしよう、ジロー様!』


「――我が剣をもってここにせんす。この館に潜みし悪を討ち果たすまで、何者も門をくぐることを許さじ!! ――誓約オース!!」


 剣を抜いたリリーさんが叫び、剣を両手で構えて顔の前に携える。

 そして、兜の上から剣のつばキスをするような仕草をしたかと思うと――


<バチィンッ!!!>


「わわっ?!」


 誘蛾灯に虫が当たったときのような大きな音がする。その瞬間、俺は押さえていた扉に弾き飛ばされ、尻もちをついてしまった。


 音がしたのと同時に、手に電気が走ったようなビリッとした感覚を覚えたからだ。


 同じことが向こう側でも起きたらしく、「キャイン」と情けない犬の鳴き声が聞こえた。頭はサメなのに、鳴き声は犬なのか……。


「い、今のは?!」


「実際に見せるのは初めてだったな。これが誓約騎士オーステイカーが使う古の技。誓約の力だ」


「誓約の力……」


 眼の前のヒビの入ったドアは、温かい金色の光に包まれている。

 見た目はいたってボロボロなのに、神々しいまでの荘厳さを感じさせた。


<バチンッ!!!>


「わっ!」


 まだ諦めてないのか、サメ犬はなおもドアに体当たりをしかけてくる。

 しかし、扉を包む光は彼らの攻撃をことごとくはばんだ。


 サメハウンドが突進してくる間隔は次第に長くなり、最後には「ク~ン」と情けない声を上げ、殺気が遠のいていった。諦めた……のか?


「誓約により我は。ひとまず安全だろう」


「出入りを? え、それじゃぁ……サメ犬が入って来なくなったのと同時に、僕たちもココから出れなくなったのでは????」


「何をいう。元凶を退治するまで、この館を出る必要があるか?」


「ちょ!!!!」


 リリーはとんでもないことを言い出した。

 彼女は扉を破れなくしたんじゃない。出入り自体を禁じたのだ。


 ってかそれ……。

 ただ単に、ここから出れなくなっただけじゃないか!!!


「待ってください! この館がサメと無関係だったらどうするんですか!」


「…………(ふんす!!)」


「その心配はないだろう。見たまえ」


 そういって扉から離れた彼女は、扉側の壁にあった窓のカーテンを開く。

 するとそこには、戦車とハンビーが並んで停まっていた。

 

「……あっ」


「どうもここが連中の目的地で間違いないようだ」


 逃げ込んだ時は夢中で気づかなかったが、この館が秘密研究所(?)なのか。

 さすがのリリーもまったくの考え無しに建物を封鎖したわけじゃないらしい。


 とはいえ、もうちょっと心の準備が欲しかったけど。


 俺は走って乱れた息を整え、改めて館の中を見回した。


 ……うーむ。どこか既視感デジャブがあるのは気のせいではないだろう。

 どうみてもバ◯オハザ……いや、ゲームが現実にある洋館をマネしたんだったな。


 俺達が逃げ込んだのは、典型的な洋館だ。


 館のエントランスは広いホールになっていて、正面奥と左右に扉があり、手前には二階に登るための幅の広い階段がある。


 洋館は相当な年代物のようだ。階段の手すりのニスはすっかり黒ずみ、壁紙は日に焼けて卵の黄身のように黄色くなって、壁から浮き上がっていた。


「ずいぶん古い建物ですね……」


「だが、見てみろ少年。大理石の床は曇ってはいるが、その上にホコリがほとんどつもっていない。つまり――」


「この館には人の出入りがある?」


「その通りだ。人かどうかまではわからんがな」


「モンスターの可能性もある、か……」


『ジロー様、どんなモンスターなんだろうね?』


『まるで見当もつかないなぁ……少なくとも知性があって社会性を持ち、人のように動けるモンスターだろうけどね』


『え、どうして?』


『この森にいるのがサメ犬だけなら、館の中がこんなキレイなはずはない。ヤツらに踏み散らされて、もっとムチャクチャになってるはずだ』


『あ、そっか』


『あいつらが床についた泥を雑巾でふいているとは思えないからね。サメ犬を躾けている存在がいるはずだ。やたらと攻撃的だったし……調教もしてるかも』


『すごい頭のいいモンスター、かも?』


『うん。僕らが相手にしているのは、かなり手強い相手だ』


 研究所で作られたモンスターとやらは、知性があって、人のように動ける存在かもしれない。すると、吸血鬼のような……サメ?


 そこまで考えて俺は頭から奇妙な考えをふりはらった。

 吸血鬼のようなサメってなんだよ。

 B級、Z級映画じゃあるまいし、そんなのがいてたまるか。


「少年、落ち着いたところすまないが、さっそく屋敷の中を調べてみないか?」


「アッハイ」


 ともかく、安全は確保したのだ。

 俺たちは屋敷の中を調べることにした。


 ホラー映画なら手分けするところだが、そんなことはしない。

 3人でまとまって動き、まず、屋敷に入って左手にある扉を開いた。


「ふむ、ここは客間サロンだったようだな」


 リリーの言葉が過去形なのは、部屋の家具のことごとくが窓のある壁に寄せられ、バリケード代わりにされていたからだ。車列の連中がやったのだろうか。


「悪質リフォーム業者もびっくりですね」


「まったくだな。こんなことをするから家主の怒りを買ったのだろう」


 家具をどかして中央に空いたスペースには、灰色のコンテナが積まれていた。

 ゾンビ映画の軍隊が使うような、ゴツくて頑丈なヤツだ。

 コンテナの表面には鮮血がかかっている。血は……まだ乾ききっていない。


 コンテナから垂れ落ちた血は床にひろがり、サロンの奥にある扉に点々と続く。

 扉の近くには、何かを引きずったような跡もあった。

 嫌な感じがする……。間違いなく、この屋敷には何かがいる。


「血が続いているな。追うぞ」



◆◇◆



※作者コメント※

バイオハザードのモデルになった洋館は神戸の異人館らしいですね。

写真を見てみるとたしかにそれっぽい…

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