例のアレ

「おい小僧、さっきのをもう1回出来ないのか!?」


「ダメです……! まだ時間がかかります。そうだ――」


 俺はあるアイデアを思いついた。

 何も難しいことはない。 


 出したばかりのサテライトキャノンは発砲できた。

 つまり、もう1基サテライトキャノンを打ち上げれば良いだけだ。


「ワルターさん、さっきのヤツをもう一度空に打ち上げれば、すぐに射撃できます! みんな、できるだけ時間を稼いでください!」


「チッ、仕方ねぇな……」

「…………!(こくこく!)」

「わかったわ。できるだけ早くしてね」


「はい!」

「みゃん!」


「よし、早速――クリエイト・ウェポン!!」 


<させると思ってるのか?>


 俺がロケットのパネルを開こうとしたが、アインの反応が早い。


 クロスボウからバシュンと打ち出された黒い杭がロケットを貫いて、薄い装甲をひん曲げてひっぺがし、グシャグシャにしてしまった。


「危ねっ!!!!」

「みゃっ!?」


<もっとじっくり遊んでやりたかったンだが、仕方ないよなぁ?>


 いやいや、ぜひともごゆっくりしてて?

 そんでそのまま死んでくれ!!! もう死んでるけど!!!!


「おっと、お前の相手はこっちだ!」

「…………!(こくりっ)」


 ワルターがショットガンを向けて引き金を引いた。無数のコインが飛び出してアインを襲うが、アインは狩衣についたマントをふってコインを払った。


<何しやがるんだ。こいつは今日おろしたばっかりなんだぜ?>


「チッ、頑丈なヤツだな」


 アインのやつ、マントで銀を受け止めるなんて……。

 しかし、完全にムダってわけでもなさそうだ。

 コインが食い込んだ部分は、銀色の炎をあげて燃え上がっている。

 本体に当たらないとダメなんだろうな。


 とはいえ気は引いた。もういっちょクリエイト・ウェポン!!


<ハハ! させねぇよ!!!>


「ヒンッ!?」


<バカビシバキッ!!!>


 クっ、許されなかった。2本目のロケットも黒い杭で貫かれてしまう。

 オレンジ色の先端がちぎれ、収められていたパーツが地面に散らばった。


「ヒドイッ!!」

「みゃーん」


 俺はくじけず3本目を出すが、それも無惨な姿に成り果てた。

 黒杭が飛んで来た瞬間、本能的な恐怖で俺は体を避ける。

 そのせいでシールドベルトの範囲からロケットが出てしまったのだ。


「くっそぉ……まだチャージは終わらないのか?!」


『報告:残り10分』


『伸びてんじゃねーか!!!! パソコンの残り時間にありがちなやつ!!』


 ダメだ。上空の衛星には頼れない。


 俺は自身の臆病さを恨み、ロケットの残骸の前で歯噛みする。すると俺は、地面に山盛りになったパーツをリンがつんつんしているのに気がついた。


「みゅみゅ! みゅん!」


 リンはロケットの残骸の前で何かを訴えている。

 うーん、なんだろう……?

 首をひねっていると、リンは俺の腰に頭突きをかました。


 息が詰まって一瞬ウッとなる。

 だがようやく何を欲しがっているのかわかった。


 リンがヘディングしたのは、俺が身に着けているベルトの白いバックル。

 つまりリンは、シールドベルトを欲しがっているに違いない。


「これが欲しいの?」

「みゅみゅ」


 どうやら間違い無さそうだ。

 俺はクリエイト・アーマーを使ってシールドベルトを取り出す。

 そうしてリンの小さな手の上にベルトを乗せた。


「リン、こいつを使ってくれ」

「みゃ!」


 やっと欲しいものが手に入った。

 そんな鳴き声をあげて、リンはパーツの山を5本のしっぽでぺしぺしする。

 リンはロケットの残骸を使って何かをするつもりだ。


「そういえば、あっちはどうなった?」


 俺はアインを足止めしているはずのマリアたちの方を見る。

 するとそこでは、激しい戦いが繰り広げられていた。


「…………!!(フッ!!)」


 マリアは銀剣をかざし、深く息を吸って踏み込む。

 幾重にも重なる剣筋が剣嵐となってアイン。いや、レブナントを襲う。


 だがヤツは、黒いレイピアを使って彼女の剣とまともに打ち合っている。

 以前のアインではとても考えられない。

 これが人間を止めて、レブナントになったことで得られた力なのか。


<持つ者ってのはこんな気分なんだな……お前はこうして俺をバカにしてたんだな>


「…………!(ふるふる)」


「アイン、誰かの価値を認めたからって、お前の価値が減るわけじゃない。

 その逆もしかりだ」


<あん?>


「誰かを貶めたからって、お前が立派な人物になるわけじゃない」


<テメェ……テメェに何が分かる!!>


 やべ、煽りすぎたか?

 なんかアインの周りの空気が変わった。


 黒い霧が集まりだして、ひそひそと囁き声まで聞こえる。

 メチャクチャ嫌な予感がする。


 アインは俺に向かってゆっくりと歩みを進めてくる。

 そしてヤツは、何かのスキルを使った。


回会かいかいせし円舞、その終曲を喝采かっさいせよ――黒葬』


 ぶわっとひとかたまりの黒い霧が生まれた。

 ちょうど人ひとりを包み込めるくらいの大きさだ。

 いったいこれは――


「俺が今使ったのは、人を食う黒い霧を発生させる魔法だ。この霧からもつ牙や爪は、純粋なエーテルでよろいは役に立たない。おまえが使う光の泡もな」


「なにそれ!? チートじゃねぇか!!」


<お前を食い尽して、その悲鳴で俺の腹を満たしてやる……>


 黒い霧が俺に向かってにじりよってくる。

 神様仏様、マリア様、お助けェ!!!


「みゃみゃん!」


「うん?」


 盆踊りのようなポーズを取った俺の背後でリンが何かを訴えている。

 振り返ると、彼は自身が作り上げた傑作の前で誇らしげにいた。


「こ、これは――!!」


 これを何と表現したものか。

 屹立する巨大な棒の左右に、黄金色をした小型の球体が2つ。

 ご立派なロケット(?)は、威風堂々とその姿を誇っていた。


 ロケットの先端はオレンジ色だったはず。

 あの色はいったいどこから出てきたのだろう。


 いやそんなことより……どうみても例のアレです。

 本当にありがとうございました。


「みゃーん♪」


 リンは「へっ、いい仕事したぜ」といった風に額の汗をぬぐう。

 お前、絶対わかってやってるだろ!!!!


<おい、状況わかってんのか? 悪ふざけが過ぎンだろ……>


「そんなこと言われても、僕が作ったわけじゃないし……」


「…………?(かしげっ?)」


「マリアちゃんはわからなくていいの」


「みゃみゃ!!」


 あっけにとられていると、リンがポチっとロケット側面のボタンを押した。

 すると名状しがたいシルエットの巨体が震える。

 いや、ダメだろ。この形で震えちゃ色々とマズイって!!!


<させるか!>


 アインはレブナントの力で黒杭を打ち出すが、杭は表面で弾かれる。

 例のアレはシールドベルトの機能を持っているのだ。


<クソふざけた見た目で、真っ当な防御力しやがって……!!>


 敵ながら、まったくごもっともである。

 ロケットはすぐさま天上の世界に向かって旅立っていった。


<ズドドドドドドドドッ!!>


 打ち上げの爆風が周囲を薙ぎ払い、天上の雨雲に穴を開ける。

 すると、黒い雲の間から満天の星空と月がその顔を見せた。

 月光が孤児院の庭に落ち、深い闇を払う。

 すると黒い霧の勢いが弱まったように見えた。


<くっ……>


 アンデッドは闇の中にいないとその力が弱まるのか?

 よし、いまがチャンスだ!!


 ピストルの背にあるランプは緑色に変わっている。

 俺はアインに向けてサテライトキャノンの引き金を引いた。


「終わりだアイン。さよならだ」


<ジロー、それは違うぞ。俺の復讐は終わってない……! お前の喉を切り裂いて、心臓をえぐり出すまで俺は消えない>


「それなら、何度でも追い払うだけだ」


<カカカッ!!>


 刹那、天上からまばゆい光が降り注ぎ、レブナントを呑み込んだ。



◆◇◆



※作者コメント※

打ち上がったサテライトキャノンの数は合計4本。

そして、それらはリンの力によって合体可能。これの意味するところは……

まだまだチートは終わらないという事!(ギュッ!

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