グレムリン
「猫だ。」「ネコね」
『ネコチャン!』
「ねこかぁ……」
「みゃー?」
ラジカセの前で白い毛並みのネコ(?)が伸びをしている。
その立ち居ふるまいは、俺たちの存在なんかどこ吹く風といった様子だ。
5本のしっぽをぴん立て、ご機嫌そうにゆっくりと左右にふっていた。
「待て待て、冷静になれお前ら。こいつはモンスターなんだぞ!」
「でも爪も立てないし、牙もむかないわ。ただ遊んでるだけみたいよ」
ワルターはネコチャンに警鐘をならしたが、ルネさんは微笑みを崩さない。
モンスターと言っても、危険性は感じない。
その姿はネコチャンそのもので、きままに遊んでいる風に見える。
「…………!(わきわき)」
「マリア、めっ。急になでたらネコがおどろくでしょ」
「…………(ぶーっ)」
ネコ(?)をなでようとして、鼻息荒く迫るマリアの首根っこをつかまえる。
ぶーたれる彼女に対して、俺はアドバイスを送った。
『気持ちはわかるけど、すこし様子をみるんだ』
『え~?』
『ネコを追っかけると逃げちゃうよ。なでたいときはあえて興味がないフリをする。そうして向こうから近づいて来るのを待つんだ!』
『むむむ……』
「みゃーん?」
俺たちのさわぎを前に、ネコは首をかしげている。
しばらくの間、テーブルの上で行儀よくちょこんと箱座りしていた。
だが、じっとしているのにも飽きたのだろうか。
すっくと立ち上がると、小さい顔をラジカセに向けた。
「……えっ?!」
立ち上がったネコの5本のしっぽ、その先に変化が現れた。
先端の毛がぼんやりと光ったかと思うと、しっぽの先がドライバーやレンチのような、機械に使う工具の姿に変わったのだ。
「みゅんっ♪」
ネコは楽しげな短い鳴き声を上げると、ラジカセの分解に取りかかった。
ネジを外し、スイッチをバラバラにして中身をあらわにする。
素早く正確にパーツに分解し、テーブルに並べていく姿は熟練の職人のようだ。
「おいおい、遠慮なくぶっ壊しやがって。中古でもけっこう高いんだぞ?」
理由はわからないが、このネコ型モンスターは機械に興味があるようだ。
ラジカセを完全解体すると、部品を並べてもてあそんでいる。
勝手に機械をいじくりまわして、壊してしまうモンスター。
ふと、俺はこのネコと似た存在がいたことを思い出した。
「そういえば、機械いじりをするモンスターの話を聞いたことがありますね」
「なんだって? そんなの初耳だぞ」
「えぇ。ベテラン冒険者のワルターさんだって、聞いたことが無いはずです。機械が現れるまで、そのモンスターはどこにもいなかったんですから」
「何だと……?」
「きっとこの子は、機械にイタズラするモンスターの〝グレムリン〟です」
「グレムリン……?」
「…………?(かしげっ)」
『あれ? ジロー様の世界には、モンスターっていないんじゃ?』
『うん。本物のモンスターはいないよ。でも人々が作った物語の中には、グレムリンみたいな、たくさんのモンスターがいるんだ』
このネコが「グレムリン」なのかどうかはわからない。
だが、機械を好む、神出鬼没など、いくつかの共通点がある。
俺は「僕たちの世界の話で恐縮ですが」と前置きを置いて、この白いネコ(?)の正体について語ってみた。
「グレムリンは機械の登場と同時に現れたモンスターです。突然の機械の不調について、人々は機械を好むモンスターを想像しました。それがグレムリンです」
「機械は最近になって普及した。それで現れたってことか。……待てよ? そんなら、こいつってかなり危険なモンスターなんじゃないか?」
「そうね……車のエンジンを故障させて交通事故でも引き起こしたら、大勢の命に関わるわ。今は遊んでるだけだけど、本質的には危険なモンスターよね」
「…………!(ひしっ)」
2人の厳しい評価を聞いて、マリアは俺の腕に抱きついた。
この子を傷つけてほしくないんだろう。
ワルターとルネさんは鋭い視線を白いネコに向ける。
しかし、肝心の当事者は、ふわっと大あくびをしていた。
グレムリンの仕草は本当にネコみたいだ。
人間の問題なんぞ、我には関係ないわって風をしている。
お前が問題なんだけどなぁ……。
「この子は機械に興味があるだけです。機械をバラすのは、もっとよく知りたいからです。人を苦しめたいとか、機械が憎いというわけでは無いでしょう」
「ふーむ……」
俺はヘルメットを脱いで、グレムリン(?)の前においてみせた。
ネコはシッポをぴんと立てると、金色の瞳でヘルメットの中をのぞき込む。
どうやらこれも気に入ったらしい。
「さいわいなことに、僕の創造魔法は、この子が興味を持ちそうな道具をいくらでも出せます。グレムリンを調べれば、共存や利用法がわかるかもしれません」
「つまるところ、急いで討伐する必要はない。そういいたいのね?」
「は、はい」
「こいつの可愛らしい見た目にだまされているんじゃないか? モンスターは目的を持った生物だ。その形にはちゃんと意味がある。こうした人間の好意を得やすい姿をとっているモンスターは、たいてい危険な存在だ」
「…………!(ぶー!)」
「ワルターさんは、この子が僕たちをだまそうとしていると?」
「わからん。だが、モンスターはモンスターだ。こいつらは人間の都合なんて知ったこっちゃない。それさえ忘れなければいい」
「……はい」
<カランッ!>
音がした方に振り返った僕は、テーブルの上を見て驚いた。
グレムリンはレコンヘルメットのバイザーを分解して中身を取り出していた。
未来の道具には、一般的なネジや接合部はほとんど無い。
それなのに、この猫は尻尾を使ってヘルメットを分解してしまったらしい。
「ウッソォ……ネジも何も見当たらないのに、いったいどうやったんだ?」
「みゃーん♪」
僕の疑問に白い猫は可愛らしい鳴き声で答える。
ヘルメットに満足したのか、グレムリンは楽しげに5本の尻尾をふるだけだ。
「みゅっ!」
白いネコはひと鳴きすると、僕の肩の上に飛び乗った。
ゴロゴロと喉をならし、甘えるように鼻を僕とマリアの頬にこすりつけてくる。
あぁ、これはいけません……!
「懐いたみたいだな。エサをくれる都合の良い存在を見つけただけかもしれんが」
「…………!(なでなで)」
「みゃーん?」
「とりあえずこの子はオールドフォートに連れ帰ることにしましょう。ランスロットさんならもっと詳しいことがわかるかも知れませんし」
「やれやれ、お前はヤツに似たのかね……」
僕はバラバラになったラジカセとレコンヘルメットを風呂敷に包む。
すると、グレムリンはまだ包み終わってない風呂敷の中に体を突っ込んだ。
「お、この中にいたいの?」
「みゃんっ!」
俺が聞くと、ネコが楽しげに返事をする。
どうやらこの生き物は、機械のパーツと一緒にいたいらしい。
すこし迷ったが、5本のしっぽを持つネコと散歩するのも悪目立ちする。
ここはネコの好きにさせておくことにした。
「私はすこし残るわ。もう少し屋敷の中を調べたいの」
俺たちが屋敷をあとにしようとすると、突然ルネさんが残ると言い出した。
予想外のことに驚いた俺は、彼女にその意図を問いただした。
「ルネさん、いったいどうしてですか?」
「ジローくんの言う通り、その子がグレムリンなら、工場なんかに現れるのが普通じゃなくって? なんでこんな幽霊屋敷に現れたのかしら」
「あ、言われてみればたしかに……」
「この屋敷にそれが現れた理由がある気がするの。すこし手がかりを調べてみるわ」
「わかりました、気をつけてくださいね」
「えぇ。何かあったら知らせるわね」
◆◇◆
※作者コメント※
グレムリンの姿はあんまり定まったものがないんですが、本作では、パソコン作業をしていると、人々のジャマをしてくるネコにその姿を求めました。
(ΦωΦ)<みゃーん
あ、どうでもいいけど、今話でついに本作の文字数が20万字突破しました。
PVも12万に達し、ブクマも1000を越えてました。
皆様のご声援で続けられております。重ねてお礼申し上げます。あざます!
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