孤児院へ
「ちょっと待て、道具を取りに行く」
「道具?」
「万が一ってこともある。吸血鬼は普通の銃じゃ相手にできんからな」
「…………?(かしげっ)」
「普通じゃないって、どういうことです?」
「興味があるなら見に来い。持っておいてほしいものもあるからな」
「はぁ」
俺は塔の自室に向かうワルターについていった。
部屋につくと、彼は背負っていた銃をおろし、壁にかかっていた銃と取り替える。
新しく手に取ったのは、散弾を放つショットガンだ。
前方に棒状のグリップが追加されていて、ずいぶん使いやすそうに見える。
だけど……どこが普通の銃じゃないんだろう。
改造はされているけど、そこまで突飛なものにはみえない。
「さて小僧。お前さんのお仲間がオレたちの世界にもたらしたこの『銃』だが……。ある種のモンスターに対して、銃が抱えている問題を知っているか?」
「ゴーストやゴーレムといったモンスターには効果が無いことですよね?」
「そうだ。だが、ちっと頭を使えば解決可能だ。こいつを見な」
そういって彼は、ショットガンに装填する大きな弾丸をみせた。
真鍮の底に赤色の紙で包まれた弾丸の先の方に何かが詰められている。
「これは……銀貨?」
「そうだ。ゴーストや吸血鬼なんかのモンスターは、銀の武器にめっぽう弱い。だから普通の弾丸の代わりに銀貨を詰め込んだのさ」
これ、ゾンビ映画なんかで見たことある。コインショットっていって、ショットガンからコインを打ち出して、相手をズタズタにするやつだ。
どこの世界でも、えげつないことを考える人がいるなぁ……。
「ワルターさんは、僕が出会ったこれまでの人とはちがいますね」
「あん?」
「他の人たちは古い武器、剣を捨てた。でもあなたは『銃』という新しい武器と、この世界の伝統を組み合わせてる」
「ハッ、そんなの当たり前だろ? いまや倉庫に押し込まれた鉄の剣だって、石や銅の武器なんかをけっ飛ばしてきたんだ。本質は何も変わらんよ」
「そういうものですか?」
「そういうもんだ。お前さんはちと勘違いしてるな」
「え?」
「伝統ってのは、モノ自体にねぇのよ。伝統ってのはヒトさ。旧きを捨て去り、新しきを受け入れ、揉まれ洗練して生き残ってきたのは、いつだってヒトだ」
「……伝統とはヒトそのものだと?」
「あぁ、ヒトの根源といっても良いな。ヒトのルーツは伝統にある。伝統ってのは、先人が生きて残した正解の連続なんだ」
「正解の連続……目上の人には挨拶しましょう、みたいなのも?」
「
「えーっと……?」
「ようはな、生きてりゃそれだけで勝ちなんだよ」
「なるほど。」
「で、お前さんらにはこいつを持っていってもらうぞ」
そういってワルターはオレとマリアに何かを投げ渡した。リンゴのような形をして、上の方にはリングとレバーが……ってこれ。手榴弾じゃないか!?
「これ、爆弾じゃないですか!」
「お、よく知ってるな。じゃあ使い方もわかるか?」
「ピンを抜いたらすぐに投げて安全なところに隠れる、ですよね」
「それでいい。説明の手間が省けて助かる」
「…………(そ~)」
「マリア、今さわっちゃだめっ!」
「…………!(ビクンッ!)」
「そんな
「えっ?」
「そいつに大した殺傷能力はねぇのよ。その爆弾は火薬をギリギリまで少なくして、かわりに銀粉を充填してる。耐モンスター用の爆弾だ」
「銀入りの爆弾って……いくらなんでもやりすぎじゃないですか?」
「中途半端にやるよりは、やりすぎたほうが良いのさ。例え何も得られなくてもな」
「格好よく言ってますけど、人はそれをヤケクソっていうんですよ?」
「そうともいうな」
俺とマリアは銀の手榴弾を2個づつ受け取った。
しかし、ワルターがあんな繊細な考えを持っているなんて意外だったな。
お金が稼げればあとはどうでもいいのかと思ってた。
彼はすっかり変わってしまった異世界を見つめ、どうにかして生きる方法を模索している。そんな男だったのだ。
さて、装備をそろえた俺たちは、その足で孤児院に出発した。
メンバーは俺とワルター、そしてマリアとルネさんの合計4人だ。
孤児院は通りを外れた場所にあり、建物は目抜き通りの建物とくらべても、ずいぶん時代がかった古いものに思えた。
まるで、中世ヨーロッパを舞台にした童話に出てきそうな家だ。オレンジ色の三角屋根をもち、壁は白い漆喰で塗り固められている。
そして孤児院の周囲は、壁で囲まれた街の中とは思えないほどに自然豊かだった。
くるぶしまでの高さまで茂った青々とした草花に、葉っぱを豊かに実らせて両手を広げる果樹。しかし、果樹は上の方が黄色くなって枯れている。
きっと、工場から吐き出され続けるばい煙のせいだろう。
孤児院とその周りには、妙な違和感がある。
こうあってほしいという理想と、過酷な現実のズレとでも言うのだろうか。
造園した孤児院から視線を外しふり返ると、街に居を構える鋼鉄の怪物が見える。
箱庭の内側から現実の部屋を覗き見るような、そんな感覚を覚えた。
ずっとここに住んでる子どもたちは、いったいどんな気持ちなのだろう……。
ワルターが歩み出て、孤児院の入口にある古めかしい鉄の扉をノックする。
ほどなくして重厚な鉄の板が重々しい音と共に、闇の中へ
◆◇◆
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