創造魔法を確かめよう

※作者コメント※

今回の話は、幕間のスキル検証回です。

ーーーーーー



 俺とマリアはギルドを出て、依頼のあった墓場に向かった。

 地図を頼りに街外れに向かったが、歩きだと結構かかる場所だ。

 途中、お昼の休憩を取ることにした。


「うん、ここにしよう。地面が乾いてるし、煙も来ない」


「…………!」


 道に面していると、自動車の黒煙をまともに食らう。

 なので、俺たちは路地裏にあった廃屋の軒先をちょっと借りた。


「マリア、軽くご飯にしよう」


 軽食を提案すると、アリアは赤髪を振ってコクコクとうなずく。

 休憩をとるついでだ。

 夕飯には早すぎるが、仕事の前に軽くご飯を食べてしまおう。


「依頼の解決にどれだけ時間がかかるかわからないからね。墓場で夕飯なんて、あんまり気持ちの良いものじゃない」


 マリアは「なるほど」といった感じで手をあわせる。

 さて、いつものアレを出すか……。


「クリエイト・フード!」


 ディストピア飯を出してマリアと分け合う。

 このスキル、やっぱ便利だな。

 王女がこれに気づく前に追放されて逆に良かったかもしれない。


 俺が無限に食事を出せることにあの王女が気づいたら?

 たぶん生きた食品工場にされていただろう。


 この世界のモラルの低さは底が抜けている。

 残った乗客たちも、何をされるかわかったもんじゃない。

 すこし気がかりだな……。


「…………!」


「マリアはその赤いのが好きなんだ? 僕はこっちのオレンジ色かな~」


 マリアとトレーの上のゼリーを分け合う。

 赤いのは甘くてちょっとリンゴ風味。

 オレンジ色のは少し甘さ控えめでレモンっぽい酸味がある。


 しかし同じ味ばかりだとそのうち飽きるな。

 スキルが上がったら、もっと良い食事を出せないかなぁ?

 そうだ、ケーキとか出せるといいな。


 いくらディストピア飯でも、デザートくらいは存在するだろう。

 そのためだったら、いくらでもレベルを上げてやるぞ。


「他のスキルもためしてみようかな?」


「…………?」


「ほら、別の創造魔法を試そうと思ってね。使える手札は多いほうがいいだろ」


「…………!(ふんす!)」


「うん、何か役に立つものがだせるといいね」


 さて、俺がまだ試していない創造魔法は「クリエイト・アーマー」と「クリエイト・ドラッグ」だ。


「そうだ! 何か防具が出せないかためしてみよう。今着てるのは布の服だけだし、ヘルメットとか出てくるとうれしいな」


 俺は頭につけるものを想像してスキルをつかった。


「クリエイト・アーマー!」


 俺の手の中にちいさな光が生まれて、消える。

 するとそこにあったのは……。


「……イヤホン?」

「…………?」


 手の中にあったのは、黒いプラスチックのイヤホンだ。

 少し大きな作りで、フックのようなパーツが付いている。

 どうやら補聴器のように耳にかけるタイプのようだ。


「アーマーって言ってるのに……イヤホンって」

「…………!」


 マリアはイヤホンを指さして首をかしげている。

 きっと「これは何?」かな。


「これはイヤホンっていって、音楽なんかをく道具だよ」


 俺が説明すると、マリアの顔がぱっと明るくなった。

 いやいや、はやまらないで!


「聴けるかどうかはわからないけどね? これで音楽を聴くには、誰かが音楽を弾いて流さないといけないんだ」


「…………(シュン)」


 俺はイヤホンを手に取り、耳につけようとして「あれ?」っと思った。

 何かがおかしい。その理由はすぐに分かった。


「このイヤホン、両方とも左耳用じゃないか」


 イヤホンは、両方とも左耳用だった。

 スキルは1回しか使ってない。だから2回同じのが出たわけじゃない。

 なぜか左耳用が2つで1セットなのだ。


「うーん? ……そうだ! スキルの履歴を見ればこれが何か分かるかも」


 俺はステータスを開いてイヤホンの名前を調べてみた。

 名前を見れば、使い方のヒントになるかもしれないと思ったからだ。


ーーーーーー


・クリエイト・ウェポン LV1

 :タキオンランス

・クリエイト・アーマー LV1

 NEW!:クアンタムハーモナイザー

・クリエイト・フード  LV1

 :強化栄養食

・クリエイト・ドラッグ LV1


ーーーーーー


「わからんことがわかった」


 俺の期待は見事に裏切られた。なんだよ「クアンタムハーモナイザー」って!

 名前は格好いいけど、一ミリも説明になってないぞ!!


 当然、耳につけたイヤホンからは何も聞こえてこない。

 うーむ……本当のゴミかぁ?

 マリアもイヤホンを耳に付け、首をかしげている。


『ジロー様、なんだろうねこれ?』


『ぜんぜんわからん。イヤホンだと思うんだけど……』


『『?!』』


 俺はマリアと顔を見合わせた。

 この「クアンタムハーモナイザー」って、まさか……!


『このイヤホンをつけてると、お互いの心を読めるのか?』


『すごい! すごいよジロー様!』


 どうやらこのイヤホン、「クアンタム・ハーモナイザー」をつけていると、お互いの心を読めるようだ。しかもどうやってるのかわからないが、声色までついている。


 なにこれぇ? これもオモチャなんだろうけど、性能が高すぎるぞ?!


『あーあーあー! すもももももも、もものうち! のみみずにみみずをいれたみみずく! はぁ……!!』


『うれしそうだねマリア。』


『当たり前じゃない! いーだ!!』


『マリアがこんなにやんちゃな子だとは思わなかった。ランスロットさんに知られたら大変だ。きっと取り上げられる』


『そうかもね。ね、だからランスロットには秘密にしましょう?』


『マリアはランスロットさんと話したくないのかい?』


『……そうしたいけど、ダメ。』


『なぜ?』


『なぜって、この魔法の道具は心に思ったことをそのまま話すんでしょ?』


『うん。あ、そうか……』


『ランスロットのおじいさんは十分苦しんでる。もうこれ以上つらい目にあわせたくないの。きっと、起きてから寝るまでずーっと私に謝り続けちゃう』


『……そうだね。マリアの言う通りだ』


『私も……これはあんまり使いたくない。だって――』


 マリアはハッとなってイヤホンを外した。

 そうしてしばらく赤髪を掴んで顔を隠していた。


『ね、これを使うのは仕事のときだけにしよう?』


『そうだね。実際これはかなり使える。俺とマリアがこんなに騒がしく話してるなんて、はたからみたら誰も気づかない。不意をつけるはずだ』


『うん。ズルって言ってもいいよ』


 最初はゴミかと思ったけど、思った以上に良いオモチャが手に入った。

 クリエイト・アーマーは今後も期待できそうだ。


 さて、あとは最後に残った創造魔法を試してみるとするか。


『最後はクリエイト・ドラッグだけど……オモチャなら大丈夫かな』


 ドラッグといっても、オモチャなら体に悪いモノは出てこないだろう。

 ……たぶん。


 ここは念には念を押そう。

 スキルを使う前にできるだけ無難なものをイメージする。


 無難な薬ってなんだよと思わなくもないが、えーとなんだろう。

 半分は優しさで出来てそうなやつ、たのむ!!


「――クリエイト・ドラッグ!」


 俺は祈るような気持ちでスキルを使った。

 光の粒子が集まり、俺の手の中で形をとる。


 どうかヤバイものがでませんように!

 ……おぉ?


『ポーションっぽいね』


『思った以上にそれっぽいのが出てきた』


 俺の手の中に入っていたのは、緑色の液体が入ったガラス瓶だ。

 フタはテープみたいなので封印されている。飲み薬か?


『おっと、これの名前を確認しよう』


 ステータスウィンドウを開く。どうかマトモなのであってくれ!


ーーーーーー


・クリエイト・ウェポン LV1

 :タキオンランス

・クリエイト・アーマー LV1

 :クアンタムハーモナイザー

・クリエイト・フード  LV1

 :強化栄養食

・クリエイト・ドラッグ LV1

 NEW!:何でも治療薬


ーーーーーー


『わ、すごい! 何でも治療薬だって!』


『うさんくさすぎる。これはオモチャかなぁ……』


『そうなの?』


『だってLV1のスキルだよ? 何千年先の未来の時代なら、そんなものがゴロゴロしてるかもしれないけど……流石にありえないよ』


『そっかぁ…‥』


『クリエイト・ドラッグは、レベルが上がってからの様子見かなぁ~』


 ま、オモチャに怒ってもしかたない。

 これはきっと、子供に薬の使い方を教える知育玩具ちいくがんぐみたいなものだろう。きわめて冒涜的ぼうとくてきなゴミに近い何かだ。


 ま、イヤホンはかなり使えるモノだったから、スキルを確かめて正解だ。

 使えるものがひとつでもあったなら、良しとしよう。



◆◇◆



※作者コメント※

逆に疑っちゃったかー…

さてさて

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