手合わせ
サイゾウに倉庫の奥に案内されると、そこには小さな訓練場があった。
訓練場は四角いリングには白い砂が敷き詰めた簡素なものだ。
リングの周囲にはダミーの武器がある。剣、槍、棍棒、そして斧。
ここで腕試しをするというのだろう。
訓練場は最近使われたのか、白い砂の上にいくつもの足跡があった。
「ここだ。そこにある木剣を取れ」
「はい」
「…………!」
真剣を置き、代わりに木で出来た剣をとる。
サイゾウさんも武器を取り、リングの向かいに立った。
「さぁ! 打ち込んでこい」
「…………!」
サイゾウさんの掛け声でマリアが動いた。
全身のバネを使い、地を這うようにして跳ぶと神速の剣を突き出した。
「
<カンッ!>
だが、突き出された剣先は届かなかった。
サイゾウさんは剣をひねると、木剣の峰で突きを叩き払った。
そしてそのまま返し突きを放つ!
<カン、カツン!>
「…………!」
マリアは突いた剣を引き戻し、サイゾウさんのカウンターを払い打つ。
ふたりともやってることが高度過ぎる……。
僕もマリアといっしょになって木剣を打ちこむ。
だが、サイゾウにはまるで当たらない。
彼は俺たちの剣をすべて払い、受け流してしまった。
よし、次は当て――
「まて、ここまで!! 腕が痛ェ!!」
「え?」
「…………?」
あれ、もう終わり?
ひぃひぃと悲鳴を上げて、サイゾウはリングの向こう側にいってしまった。
「お前ら馬鹿力すぎるぞ! まったく……技はともかく、腕っぷしの強さは認める。どこで鍛えた?」
「えっと、とくには?」
「…………???」
ランスロットさんに鍛えられたマリアはともかく、僕は帰宅部なんだけど?
空手みたいな格闘技も、体育の授業でしかやってないしなぁ。
「スキルにしても妙だな。嬢ちゃんはともかく、小僧はレベル1の腕力じゃねぇ」
「そんなこと言われても……」
「ふむ……ジイサンが送ってくるだけはある、ってことにしとくか」
「じゃあ、合格ってことですか?」
「力はな」
「技はまだまだってことですか」
「それに
「エーテルの操作?」
「おいおい……ランスロットのジイサンもなかなか面倒を押し付けてくれるねぇ~。 よし、座学といくか。そこに座んな」
「あっ、はい」
オレとマリアは手頃な高さの箱に腰掛けた。
「人間やモンスターにはエーテル。生命エネルギーが流れてる。これはいいな?」
「はい」
「エーテルには属性とバランスがある。光と闇、火と水、斬撃と打撃って感じにな」
「え? 武器にも属性があるんですか?」
「当たり前だ。剣技のスキルは何で強化されてると思ってるんだ?」
「あ、エーテル?」
「だろ?」
「人間やモンスターが持つエーテルには、生来の属性のバランスがある。外部から異なるエーテルを注ぎ込まれると、変調をきたすんだ」
「火のエーテルを持つ人に、水の技を使う、みたいな?」
「そうだ。例えば、火のスキルを持つ人間が、水のエーテルに傾けばどうなるか」
「そうか、火のスキルが使えなくなり……無防備になる」
「――正解だ。」
「どんなに強いモンスターだろうと、エーテルのバランスまでは鍛えられん。エーテルを突き崩せば、伝説のバケモノだろうと狩るチャンスが出てくる」
「なるほど……!」
「とまぁ……これがとーっても古い時代から伝わる、昔ながらの戦い方だった」
「え? 今は違うんですか?」
「おうともよ。〝ゲンダイヘイキ〟はそういう面倒をすっ飛ばして、圧倒的な力でぶっ飛ばす。わかりやすくて最高だろ?」
「あー……」
この世界が現代兵器を受け入れた理由が何となく見えた。
シンプルに火力を上げて物理で殴ってもいいのね……。
「だが便利で仕方ない〝ゲンダイヘイキ〟も、全部のモンスターには効かねぇ。だから俺たち冒険者がいまだに飯にありつけてる」
「今回の仕事はそういうのが相手なんですね」
「あぁ。今回の依頼は街の大学に通う学生からだ。墓場にゴーストどもが出たんで、そいつを何とかしてほしいそうだ」
「……学生? 大学の敷地に墓場があるんですか」
「いや、大学とは全く関係ない。町外れの古い墓場だ。学生どもが言うには、そこにいる墓守が
「言い張っている……すこし引っかかる言いかたですね」
「依頼を出した学生は墓守の仕業だといっているが……どうだかな。オレは学生の方に原因があると踏んでいる」
「何か心当たりがあるんですか?」
「依頼人の視線のせわしなさ。発汗、脈拍、瞳孔の開き具合……は、別に関係ない。ただの勘だ。」
「な、なるほど」
真面目に聞いて損した。
ランスロットさんの言う通り、クセのある人だ。
「ゴーストを相手にするにあたって、なにかアドバイスはありますか?」
「助言するとなると、そうだな……ゴースト以外の相手も考えたほうが良い。依頼人を信じすぎるな。モンスターの識別に関しては素人だからな」
「あっ、そうか」
「とはいえ、ゾンビやスケルトンと見間違えることはないだろう。同じ
「レイスって?」
「レイスは
「どうしたらそんなことに?」
「不死を目指した魔術師の実験の結果だったり、病によって死の
「もうひとつのレヴナントはどんなやつです?」
「レブナントは厄介だぞ。
「対処法はあるんですか?」
「ああ、最高の対処法がある。レヴナントだったら依頼を放棄して帰ってこい。相手するだけの金を貰っていないしな」
「でも、そんなこと……」
「レブナントの目的は復讐だ。もしそいつが現れたとしたら、非は学生どもにある」
「…………そうします。」
学生たちが人を殺して埋め、被害者がレブナントになって襲ってきた。
そのパターンもあるってことか。
ほんとにこの世界、ロクでもないなぁ?!
「本当にゴーストだった場合の対処は簡単だ。嬢ちゃんのスキルでぶん殴れ、以上」
「そんな雑な?!」
「ハハ、嬢ちゃんの『聖剣技』はゴーストやゾンビの特効薬だ。じゃなきゃこの依頼を紹介しようなんて思わんよ。しかし念には念を入れるか……」
そういってサイゾウは銀色の粉末が入ったビンをこちらに転がした。
「サイゾウさん、なんですかこれ?」
「…………???」
「そいつは銀の粉末だ。ゴーストなんかの霊体系モンスターは銀に弱い。もしレブナントに出くわしたらそいつの中身を投げつけろ。逃げるだけの時間を稼げるはずだ」
「……。サイゾウさんって、結構世話焼きですよね」
「よせよ、金とんぞ?」
「ありがとうございます」
オレはサイゾウさんから銀粉の入ったビンを受け取った。
もし現場で最悪の事態がおきていたら、これが命綱になるはずだ。
「これって、ゴーストに使っても良さそうですかね」
「もちろんだ。無理そうだと思ったら迷わず使え」
「はい。冒険に歯ごたえを求めても、骨を食いたいわけじゃないですから」
「ハッ、いえてるな!」
「あと、他には?」
「このノートを持っていけ。必要な情報をすべてまとめてある。目的地までの地図、現場の地図、依頼人の特徴もな。行きすがら必ず目を通しておけ」
「ありがとうございます。それじゃ行ってきます」
「おっと、最後にひとつ」
「?」
「――いい狩りを」
「はい。」
「ふー……。」
サイゾウはジローとマリアが出ていったのを見計らって、上着を脱いだ。
すると、彼の手から腕の先が打撲による内出血で真っ青になっていた。
「こりゃヒデェ。
◆◇◆
※作者コメント※
サイゾウのCVは山路和弘で想像してます。
会話にウィッチャー感があるのは多分そのせい…
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