疑問の先へ


『天井を歩くなんて、こんな経験二度とないだろうな~』

『ね、なんかワクワクする!』


 応接間を出た俺たちは、逆さまの廊下を進む。


 逆さまになっているというのは、思った以上の障害になる。足元は微妙にアーチになってるわ、中央に邪魔くさいシャンデリアがあるわでメチャクチャ歩きづらい。


 これを考え出したゼペットはいい性格をしているな。


『…………マリア!!』

『!!』


<カシャシャ!><ガシャン!>


 逆さまになった邸宅の中をあるいていると、突然、上から人形たちがふってきた。


 床になっている天井に降り立ったのは、騎士、魔法使い、そして狩人をディフォルメした可愛らしい人形だ。しかし、彼らが持っているものはまるで可愛くない。本物の鋼の剣とクロスボウ、そしてバチバチと電撃をちらす杖。


 武器を構えた何体もの人形が俺たちに向かって襲いかかってきた。


『やる気満々なら仕方ないな。全部退治しよう』

『えぇ~、せっかくかわいいのに……』


 短い剣を持った騎士の人形がぴょんぴょんねながらこっちに来る。


 しかし、狩人と魔法使いの人形は、位置取りをしても前に向かっては動かない。

 こいつら、前衛と後衛の概念まで持ってるのかよ?!


「――それッ!」


 剣の平たい部分で宙にいた騎士をぶっ叩く。野球のバッティングの要領でひっぱたかれた人形は、ぐるぐる回転しながら魔法使いに飛んでいった。


<パコーン!!>


『よっしゃ!』


 思った以上にうまくいった。弾丸となった騎士の人形は2,3体の魔法使いを巻きぞえにして一緒にばらばらになった。


『えい!』


 マリアも銀の剣に光り輝く炎をまとわせ、なぎ払う。

 光波を受けた人形は傷口から燃え上がってバタバタと倒れていった。


『このペースならすぐに終わるな』

『うん!』


「……? ――危ないッ!」


<パシュン!>


 ――うかつだった。人形たちが床から天井にふってきた時、シャンデリアの中に落ち、そこにずっと隠れていた狩人の人形がいたのだ。


 ヤツはずっと俺たちのスキをうかがっていた。

 そして今まさに致命の一射を放ったのだ。


 マリアの背中に黒い矢の影が吸い込まれていく。

 まずい、なんとかしなきゃ。そう思ったときだった。


<バシンッ!!>


「?!」


 光の泡が、クロスボウの太矢をバラバラに砕いた。

 パチパチと爆ぜるような音をさせている光の泡は、俺の体から出ている。


 今のはまさか、「シールドベルト」の効果?

 このベルトの機能って、雨を防ぐだけじゃなかったのか!


『――いけない!』


 背中を曲げ、クロスボウを装填している狩人。

 俺はそいつに向かって、天井におちていた人形の剣を投げつけた!


<バピュン!!>


「うそっ?!」


 俺の投げた短剣は光の泡に弾かれてしまった。

 泡に当たって反射した短剣は、俺の足元にブスっと刺さる。


『危なっ!! 外だけじゃなくて、中からの攻撃も防ぐのかよコレ!』


 俺は狩人に近づき、そのまま剣で仕留めた。

 泡が人形を弾き飛ばすかと思ったが、別にそんなことはなかった。


 光の泡が弾き飛ばすのは、飛び道具に限られるようだ。

 しかも敵味方の攻撃はとくに区別しないらしい。

 性能は高いのはたしかだけど、ビミョーに使い勝手が悪いなぁ。


『ジロー様、今のって?』


『まだよくわかって無いんだけど……シールドベルトが起動して、マリアのことを飛んできた矢から守ってくれたみたい』


『え……飛んできてたの? 気づかなかった』


『うん。よかった。本当にヒヤヒヤしたんだから……そうだ!』


 俺はクリエイト・アーマーをもう1回使って、マリアにもシールドベルトを渡すことにした。ここでは何があるかわからない。


『マリアもベルトをつけよう。これがあれば遠距離攻撃の不意打ちを防げるはず』


『ありがとうジロー様!』


 俺はバンザイしているマリアの腰にシールドベルトを巻き付けた。

 これがあれば、人形たちの攻撃も怖くない。


 廊下を進む俺とマリアは、人形たちを倒しながらガンガン前に進む。

 するとひときわ大きな扉に出くわした。


 扉は見上げるような高い位置にある。

 上下が逆さまになっているせいで、ドアの取手まで手が届きそうにない。


『まいったなぁ。あからさまに「何かあります」って感じだけど……』


『逆さまじゃルネさんも困っちゃうよね? もとに戻す方法あるのかな』


『マリアの言う通りだね。こんな有り様じゃごろつきはもちろん、ルネさんだって何もできない。この状態を元に戻すものがあるはずだ。探してみよう』


『わかった!』


 俺とマリアは廊下に奇妙なものが無いか探して回る。


 すると、廊下の突き当りに奇妙なものを見つけた。

 天球儀ジャイロスコープのような台座に乗った、踊り子の像だ。


 踊り子は天井に対して足を下に向けていた。

 つまり、この廊下が本来の位置にあったなら〝逆さ〟になっている。


『もしかして……これか?』


 俺は踊り子の像を反転させ、足の先を床に向ける。

 すると――


<ゴゴゴゴゴ!!>


『――ッ?!』


 廊下がゆっくりと動き始め、天井が上に、床が下に回っていく。

 うわぁ、エグいエグい! 三半規管がおかしくなりそう!


<ズゥン……ッ!>


『よし、これであの扉の先に入れるようになったね』


『……何があるんだろう?』


『それを調べに行くのさ、いこう!』



◆◇◆



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