翼をください

<ゴォォォォッ!!>


 俺を飲み込んだ地下水は、びっくりするほどに冷たい。

 寒さで体が硬直し、心臓まで止まりそうだ。


 真っ黒な視界に、ヘルメットのUIだけが浮かびあがる。

 いくつかの数字が激しく回転しているが、意味はわからない。


 幸いにして、レコンヘルメットのお陰で水中でも息はできる。

 だが、この寒さだけはどうしようもない。


 眼の前は暗く、寒い。

 いったいどうなるのか、俺は不安でパニックになりそうだった。


『……そうだ、マリアは!』


 俺は猛烈な水の流れに押されながら、彼女の姿を探す。

 だが、マリアの姿は見当たらなかった。

 俺は彼女を探そうと必死に首を回すが、真っ黒な闇が広がるばかりだ。


 足は浮き、自分がどっちを向いているのかすらわからない。

 頭の上下も定かじゃなかった。

 もしかしたら俺はひっくり返っているのかもしれない。


『答えてくれ、マリア!』


 俺はハーモナイザーで彼女に呼びかけるが、返事がない。

 まさか、気でも失っているのか?


 最悪の想像が頭をよぎる。

 瓦礫にはさまれた。あるいは冷水で気を失ったのか?


 彼女は俺と同じようにレコンヘルメットを被り、シールドベルトもつけている。

 だが、これでも体を完全に守っているとは言い難い。

 今、俺が寒さに震えているように、想像もできない危険に襲われたのかも。


『そうだ……彼女も俺と同じヘルメットをつけてる。追跡できないか?』


 俺はヘルメットのUIをあれこれ操作する。

 えーっと……友軍位置の表示、たぶんこれだ!


 ピン! と小気味の良い音がして、画面上の立体マップに光点が表示される。

 光の点を見ると、彼女は俺からかなり離れた場所にいるようだ。


 マップに壁のようなものはいっさい映っていない。

 ということは……俺はものすごい広い水の中にいるってことか。


『マリア、聞こえたら返事して!!』


 ダメだ、俺はハーモナイザーに怒鳴るが、彼女からの応答はない。

 マリアの身に何かあったのかも知れない。


 でもどうしたらいい?

 どれだけ広いのかもわからないうえ、上下も定かじゃない中を泳いでいけと?

 呼吸はできるが、水の冷たさはどんどん俺の体温を奪っていく。


 暗い中、何もかもわからない。ただただ混乱だけが深まっていく。


『何をどうしたら……いや――俺には創造魔法があるじゃないか!』


 俺は真っ暗な水の中でイメージをする。

 この水の中でも動けて、寒さを防ぐものが必要だ。

 必要なのは身に付けるものだ。


 となると、使うべきはクリエイト・アーマーか。


 俺はリリーが着ていた甲冑かっちゅうのように、全身を包む鎧を想像をする。

 そして次に、背中に翼がついたような姿をイメージした。


 ……ちょっとやりすぎか?

 いや、マリアのみに危険がおよんでるんだ。

 やり過ぎなんてことはないはず。

 そもそも、誰に遠慮えんりょする必要があるっていうんだ。

 自重じちょうする必要なんかない。


『よし、きたぞ……クリエイト・アーマーッ!』


 俺は頭に抱いたイメージを口から解き放つように叫んだ。

 すると、俺の体から何かが抜けていく感じがした。


 この感覚をなんて言ったらいいか……。

 熱いお風呂から寒い脱衣所に出た時、ぶわーっと体から湯気があがる。

 あれを何十倍、何百倍にもした感じだ。


 多分、俺の体のエーテルがものすごい勢いで費やされているんだろう。

 なんとなくだが、体の中身がちょっと減ったような気までする。


 これって、ダイエットとかになるんだろうか?

 そんなくだらないことが頭をよぎった時、俺の体に異変が起きた。


『わ……!』


 胴体から始まり、続いて手足をまばゆい光が包み込んだのだ。

 光が収まると、そこには白く滑らかな装甲板があった。

 クリエイト・アーマーの名に恥じない立派なアーマーが現れていた。


『こりゃすごい……想像通り、本物のアーマーが出てきちゃった』


 俺の腕を包んでいる白い装甲は、レコンヘルメットによく似た材質をしている。

 見た目はただのプラスチックのようだが、手の甲で叩いてみると返ってくる感触は鋼鉄に近い。きっと未来の金属素材なんだろう。


『すごい、寒さもまるで感じなくなったぞ。ん……?』


 レコンヘルメットのUIに何か表示されている。

 なになに……『新たなデバイスを検出――レコンスーツを接続します』だって?


 俺が出したのは、ヘルメットと対になっているアーマー本体だったのか。

 そりゃ、ヘルメットがあればスーツもあるよね。


「デバイスの接続を完了。

 IFF再起動。

 FCS更新。

 CCSオンライン。

 RCSオンライン。

 バックパック搭載燃料……100%

 機能チェック。システムの互換性と冗長性をチェック……」


 ヘルメットのUIによくわからない単語や数字がぞろぞろと流れていく。

 うーむ。略称のせいでなにがなんだか……。


 でも、バックパック搭載燃料ってのだけはわかるぞ。


 俺がアーマーを想像して創造する時、翼をイメージした。

 きっと、それに使うための燃料だろう。

 翼(?)の機能を有効にして、マリアを探さないと。


『でも、どうやって使うんだろ。ヘルメットで操作するのかな?』


 ヘルメットが『デバイスの接続が完了』とか何とか言った後、視界に浮かんでいるUIがゴチャっと増えている。操作するとしたら、新しく増えたこの中にあるはずだ。


『えーっと……』


 まず、視界の右下には、ヒト型のアイコンが追加されていた。

 アイコンは頭、胴体、手足の間に点線がひかれている。

 これはきっと、アーマーか俺の状態を表示してるっぽいな。


 つまり、HP表示だ。これじゃない。


『あ、もしかしてこれかな?』


 視界の上のほうに、なにかのゲージに見える長いバーが追加されている。

 バーの左端には翼のアイコン。きっとこれに違いない。

 俺は翼のアイコンに視線を送り「動け」と念じる。すると――

 

『わわっ!』


 俺の背中、そして足の裏から何かが出て、ぐっと前に加速した。

 このアーマーには、水の中でも使えるジェットみたいなのがついてるらしい。


『よし、これなら……!』 


 俺はミニマップに表示されている光点を目指し、ジェットを加速させた。



◆◇◆



※作者コメント※

サイドクエストでファーミング&装備集めはゲームの基本!!


あ、ちなみにですが、レコンヘルメットに流れていた各種略称の意味はこんな感じです


IFF(敵味方識別システム)

FCS(火器管制システム)

CCS(近接戦闘システム)

RCS(姿勢制御システム)


CCS以外は現実にも存在する略称です。

でもそのうちドローンが対ドローン戦闘のためにSUMOをとる未来が来ると思うので、近い未来にCCSもでてくるかも知れません。


え、リリー?

ま、まぁ、殺しても死にそうにないし……多少はね?

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