王女の狙い


 地雷原を切り拓き、ドライアドたちは森に帰っていった。


 シュラウトが巨体を揺らして大地を踏みしめていく音は、春の突風が公園の木々の間を駆け抜けていく音によく似ていた。


『ジロー様、ドライアド……いっちゃったね』


『うん。あとは――あっちもどうにかしないとな』


『あっち?』


『あぁ。トラックに見捨てられて、逃げ遅れた連中がまだいるだろ?』


『あっ、そっか』


 シュラウトが姿を消した森の反対側に俺は振り返る。

 するとそこでは、いまだ黒煙を上げて炎上している戦車が並んでいた。


 視界に浮かぶミニマップをみると、戦車の残骸の影にいくつかの光点があった。


 逃げ遅れた銃士たちだ。自分たちを見捨てたトラックが戻ってくることに望みをかけ、じっと隠れて助けを待っているのだろう。


『何でこんなことをしたのか、誰の指図だったのか、ヤツらに話を聞こう』


『うん!』


 俺は視界に表示されているミニマップを、上からの視点に切り替えた。


 上から見ると、戦車に隠れている光点は戦車の後方、燃え上がるエンジンルームの後ろに固まっている。俺とマリアは戦車の前方で左右に分かれ、回り込むようにして光点にせまった。


 一応、近づく前に反撃に備えて武器を抜く。

 追い詰められた連中は何をするかわからないからな。


 俺はゆっくりと足を運び、忍び足で戦車の側面を進む。


 俺の頭上にはエンジンルームから立ち上る炎があり、地面をあぶっている。しかし、車体そのものが炎の光をさえぎっているせいで、明かりとしてはまるで役に立っていない。むしろ、車体が地面に落とす影を一層深くしていた。


 あと数歩土を踏みしめれば、連中の姿が見える所まで来た。

 光点の数は4つ。

 この戦車の乗員だとすると、妥当な数だな。


「武器を持っていたら捨ててこっちに来い。お前たちは囲まれているぞ」


 俺は影に向かって脅すように強い言葉を投げかけた。

 すると、影の向こうでヒソヒソと何か言い合うような声が聞こえた。

 ふーむ……。もう一押ししてみるか。


「抵抗しようとしても無駄だ。お前たちの兵器では身を守れない。降り注いだ星々がお前たちの戦車を貫き、焼き尽くしたのを見ただろう?」


 サテライトキャノンのことを言って脅すと、ガチャガチャと金属質なものが地面に落とされる音が聞こえる。どうやら銃を捨てたようだな。よし――


「全員手を上げろ、こちらに手のひらが見えるように並ぶんだ!」


「待ってくれ、もう十分だ! 降伏する!!」


 俺は影から飛び立し、ショートソードを向けて銃士に怒鳴ると、銃士たちは悲鳴にも似た、懇願するような声をあげた。完全に戦意を失っている。


 剣を向けると、おどおどした銃士は恐怖ににごった瞳を向けてくる。

 完全に心が折れているな。


 さて、インタビューという名の尋問の時間だが……。

 当然のことながら、ただの高校生の俺に尋問の経験なんてない。


 尋問ってどうすれば良いんだろう。

 うーん……とりあえずさっきみたいに、映画とか漫画のマネをしてみようか?


「持っている武器はそれで全部か?」


 俺は地面に落ちているピストルを剣を持っていない方の手で示す。

 すると、汗を浮かべたヒゲの銃士が必死そうに頷いた。


「あぁそうだ、それで全部だ! もう何も無い!」


「よーしいい子だ。お前たちが無事に家に帰れるかどうかは質問の答え次第だ」

「…………!(ふんす!)」


「わ、わかった……何でも言う、だから!」


「まず聞きたいのは、お前たちが『ここに何をしに来たのか』だ。」


「モンスターを倒しに……」


「そんなことはわかっている。兄弟、こっちが知りたいのはもっと具体的なことだ。シュラウトたちを倒すことで、何をやろうとしていた?」


「転移者たちのレベル上げだ。この間のスラムでのが良くなかったっていうんで、王女様の指示で、モンスターを狩りに出たんだ。」


「……!」


「……なるほど。王女の指示でシュラウトを狙ったのか。王女はなぜそこまで転移者のレベルにこだわるんだ?」


「へへ……そりゃもちろん、魔国を攻めるためだ。転移者のスキルは俺たちの世界のそれとは違う。そして、スキルはLV50を超えれば、世界を変えちまうようなとんでもない威力のモンが出てくる。無理矢理にでもそうした連中を揃えれば……」


「魔国攻めはなる、と。そういうことか。」


 ヒゲの銃士はこくこくと頷く。なるほど。モンスターとの戦いをマリアに頼っていた俺と同じように、王女側も転移者のレベルを力づくで上げているってことか。


「王女様は転移者のなかでも数名をりすぐって、レベルアップのためにモンスターを倒させている。俺たち戦車隊はそれを手伝うために呼ばれたんだ。なのに……クソッ」


「運がなかったな。それには同情するよ。で、転移者のレベルは今いくつくらいだ? 大体でいい。それとスキルの内容も知っているか?」


「えっと……今の転移者のレベルは30くらいだ。でも、スキルの内容はよくしらない。俺たちはスキルの名前くらいしか聞いてないんだ」


「それでいい。なんていうスキルだ」


「転移者のスキルは〝石油王〟〝爆弾魔〟――そして〝融合〟。この3人だ。」


 石油王、爆弾魔、融合か……。

 前の2つはヤバそうな匂いがプンプンするな。


「この中でその転移者がスキルを使うところを見たことあるやつは?

 本当に誰も知らないのか?」


 問い詰めると、ひとりの銃士が自信なさげに手を上げた。


「そこのお前、話せ」


「は、はい! 俺は宿営地キャンプで石油王と爆弾魔がスキルを使うところを見ました。石油王は手から燃える水を出せます。爆弾魔はそれに火をつけることができるみたいです。二人のスキルは相性が良いらしく、よくつるんでるみたいです」


「なるほど。融合は?」


「よ、よくわかりません。宿営地でオモチャをつくってるところは見ましたが……」


「オモチャ?」


「その……〝融合〟のスキルを持つ転移者は、体は大人みたいですが、頭は子供みたいなんです。宿営地で使わなくなったガラクタや廃品をもらっては、それをくっつけて動き回るオモチャをつくったりしてるんです」


 ふーむ……? 聞く限りだと、あまり戦闘向きではなさそうなスキルだ。


 銃士の証言が確かなら、「融合」のスキルをもった転移者は、宿営地でオモチャを作ってるだけだ。なんで王女はそんな転移者を育成枠に入れたんだ?


 俺もオモチャを出したことで追放されたんだけど???

 なんでそっちがよくて、こっちがダメなんだ……解せぬ。


「……わかった。もういい」


「じゃ、じゃあ……」


「帰って良い。だが最後にひとつ――」


「「?」」


「我は星の守護者、輝ける兄妹シャイニング・ワンズだ。夜空に輝く星がある限り、いつでもお前たちを見ている。またシュラウトに――いや、森に危害を加えるようなことがあれば、今度はお前たちの街に燃え盛る星々が降り注ぐことになるぞ」


「ひっ! わ、わかりました!!」

「お許しください、星の守護者様……!」


 俺が「行け」と示すと、銃士たちはほうほうの体で逃げ帰っていった。


 勢いでドライアドにもらった二つ名で名乗りを上げちゃったけど、なんかやらかした気がする……。 ま、いっか!!



◆◇◆



※作者コメント※

剣と魔法とサテライトキャノン、30万PVありがとうございます! わーい!

細々と続けられているのも、応援してくださる皆様のおかげです。げへへ…。


うっかりスキルの名前間違えてたので修正しました。

 合成(誤) 融合(正) です!!!

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