鋼の嵐

 ――次の日。


 オールドフォートに戻った俺たちは、作戦会議をしていた。

 会議のメンバーはランスロットさんを始めとして、ワルター、ルネさんたち。

 議題はもちろん、昨日遭遇したレベル上げ部隊についてだ。


「……というわけで、王女は転移者のレベルを上げるのにやっきみたいです」


 俺が昨日の夜に遭遇した出来事を説明し終わると、ランスロットさんは難しい顔をして「うぅむ」と、喉の奥でうなった。


「シルニアの森を守ってきたシュラウトを敵に回すとは……。まるで後先を考えていない行動には、めまいすら感じますね」


「同感です。もうすこしで王都の周りが死の大地になるところでした」


「ジロー殿の力で銃士を撃退できたのは喜ばしいことです。しかし、同時に困ったことになったかもしれません」


「困ったこと?」


「はい。当然のことながら、銃士隊は別の獲物えものを狙うことになるでしょう」


「それについては僕も考えました。スラムの人たちが襲われるかもって……」


「ふむ。スラムを襲うことは少し考えにくいですね。ついこの間、騒乱が起きたばかりですから。奴隷の反乱が続けば王家の権威と評判に傷がつきますし、王都の治安にも影響が出るでしょう。しばらく間を置くはずです」


「なるほど。それを聞いて安心しました」

「…………(こくこく)」


「とはいえ、油断してもいいことにはなりません。

 スラムを出入りする銃士は、私とワルターが監視しましょう」


「お願いします」


「あぁ、任せとけ。むしろ気をつけないといけないのは、お前さんらの方だな」


「というと?」


「連中が大規模な討伐に失敗したなら、次は細かい討伐に手を出すはずだ。つまり、冒険者がやるような案件に手を出してくる可能性が高い」


「げー……」

「…………?(かしげっ?)」


「あら、それっておかしくない? 冒険者って銃士隊が相手にできないようなモンスターを倒すのが仕事じゃないの?」


 マリアが首をかしげるのを見たルネさんが彼女を代弁するようにワルターに言う。

 しかし、彼女の指摘に対しワルターは首を横に振った。


「たしかに冒険者が相手にしているモンスターは、ゴーストを始めとして基本的に現代兵器が効かん相手だ。だが、方法によっちゃ戦えんこともない」


「えぇ、まさにワルターがそうですね。銀の弾丸を使えばゴーストや吸血鬼の相手は可能ですし、被害を顧みなければ戦えないこともないでしょう」


「金勘定が合わないってだけで、やろうとすればできるからな」


「なりふり構わなければ、できないことはないってことですか?」


「そういうことだな。がまさにそうだった」


「前の戦争……帝国との戦争ですか?」


「そうだ。現代兵器はたしかに強力だ。だが、それ以上に強力なスキルがなかったわけじゃない。機関銃は一人で百人を打ち倒すが、スキルは一人で千人を倒す」


「なら、どうやって勝ったっていうんです」


「単純なことだ。千人の兵士が倒されても、千一人目が殺せばいい。」


「……!」


「スキルはその人間しか持ち得ないが、現代兵器は誰でも使える。現代兵器はスキルを持たないものでも戦力にできる。この違いが戦争の勝敗を分けたんだ。全てのものが戦いに参加し、鋼の嵐が帝国を押しつぶしたんだ」


「スキルがいくら強力でも、それが使えるのは一個人にすぎません。食べもすれば眠りもするし、病気にもなります。攻め立て続ければ英雄といえども破れます」


「なるほど。……あれ、それっておかしくないですか? なら、魔国も帝国と同じよう攻めればいいじゃないですか。なんで転移者のスキルにこだわるんです?」


「そういや、ちゃんと説明していなかった気がするな。簡単にいうと魔国には原初の魔法を使う魔女ヘクセンどもがいる。シルニアが魔国に手をだしかねてるのは、主にこいつらのせいだ」


「魔女……お菓子の家に住んで、子供をさらうあの魔女ですか?」


「おおむねそんな感じだ。気に入らない村人をカエルにしちまうその魔女さ」


「魔女くらいなら、現代兵器でなんとかなりそうな気がしますけど……」


「すくなくとも俺は試す気にはならんな。魔女の魔法は運命を嘲笑あざわらい、理屈を捻じ曲げる。スキルの魔法もどきとは、その性質が完全に異なる」


「えぇ。彼ら魔女が使う魔法は〝本物の魔法〟ですからね」


「……どういうことです?」


「小僧、俺たちが使うスキルは火をつけたり、氷を出したりするよな?」


「えぇ。スキルというか、魔法ってそういうものでは? なにも無いところから何かを出す……そうしたものですよね」


「だが、魔女が使う魔法はそうじゃないんだ。まるで理屈が通らない。いや、連中の中では道理が通ってるのかもしれんが……」


「うーん?」

「…………?(かしげっ?)」


「例えば、魔女の魔法には『不運』というものがありますね。これをかけられると、何もかもがうまくいかなくなる。ヒゲをあたれば必ず血を吹き、剣を抜けば鞘にひっかかり、銃を背負えば引き金が小枝にかかって暴発する。といったものです」


「地味にイヤだ……でも、それくらいなら……」


「ジロー殿、『不運』は魔女が薬草の代金を支払わなかった村人をこらしめるために使うものです。敵対者にかける魔法はそれとは完全に異なります」


「え?」


「魔女が戦いで使う魔法で代表的なものは『魅了』ですね。この魔法は文字通り、敵を魅了して味方にします。さて、機関銃を持った銃士がこの魔法をかけられたらどうなるか。それは、火を見るよりも明らかでしょう」


「あー……手当たり次第に乱射して、ハチャメチャに?」


「その通りです。剣と弓を使う以前の戦い方であれば、魅了された仲間を網で捕らえて棍棒で叩いて気絶させたものですが、今はそうはいきませんからね」


「なかなかバイオレンスな対策ですね……味方にすることかなぁ」


「魅了された仲間は〝元〟仲間ですから。遠慮すると怖いですよ」


「ひぇっ……」


 ランスロットさんも魔女も、どっちも怖いよ!!


「ま、ようするに魔女を真っ向から相手にした場合、兵士の数はあまり頼りにならんってことだ。後方の弾薬庫の警備員を魅了して、火薬に火をつけさせれば……」


「ドカーン、またのお越しをってわけね」


「ってことだな」


「ゆえに、王女はその打開策として転移者を求めたのでしょう。選別されてレベルを上げている転移者は、魔女に対抗できるとされたスキルを持っているはず」


「なるほど……たしか捕虜にした銃士から聞いたスキルは、石油王、爆弾魔、融合の3つでしたね。彼らのスキルには、僕の知らない秘密があるってことか……」


「えぇ。冒険者として活動していれば、彼らと運命を交えることも珍しくないはず。気をつけるに越したことはないでしょう」


「……はい。ひとまずは銃士隊の動きに注意をはらいつつ、これまで通り冒険者として依頼をこなしていこうと思います」


「下手にこちらから手を出すよりは、相手の動きを見たほうが良いだろうな」


 作戦会議の結果は、情報共有しながら現状維持となった。

 あまりかんばしい結果ではないが、相手が動かなければこちらもやりようがない。

 ひとまず、今日も冒険者ギルドにいってみるか。


「……?」


「みゃーん♪」


「あれ、リン、それどうしたの?」


 俺の足にすり寄ってきたリンの首もとに見慣れない飾り布がついている。布は色とりどりの糸で紡がれ、ガラスの玉をボタン代わりにして留めてあった。


 どうやらコテージにいた間に、誰かからリボンをもらったらしい。


『わ、キレイ!』


「これ、どこかで見た記憶が……あ!」


 リンがしているリボンの柄は、狼人族の着ていた服に似ている。

 どうやらあの人(?)がマリアが案内したお礼に結んでくれたんだろうか。


 今度見かけたら、お礼を言わなきゃだな。



◆◇◆



※作者コメント※

魔女(原作準拠)またなんか新しくヤバそうなのが出てきた。

おとぎ話の魔法ってトンデモ効果が多いから、あまり戦いたくない相手じゃのう。

ふとおもったけど、魔女ってマリアたちの沈黙の呪い、解呪できるんじゃ(


40万字近くになるとさすがに初期の設定とのズレ、ロアブレイクが発生するとおもわれるので、もしお気づきの点があればご指摘お願いします!

作者の脳、よぼよぼにつき…!


寝坊につき、8月29日の更新はスキップして、30日朝の更新に変わります。

す、すまねぇ…

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