空から見るとわかるもの

 ランスロットさんと話していると、ぼちぼち子どもたちが集まってきた。

 そろそろ授業の時間のようだ。


「ジロー殿、この話はまた今度にしましょう」


「はい、すみません」

「…………!(こくこく)」


 これ以上話し込んでいたら、授業のジャマになってしまう。

 俺とマリアは手をふり、ランスロットさんと別れることにした。


『しかしまぁ、問題続きだなぁ……いや、問題を起こしちゃってるのか』


『でも、みんながああして勉強できるのも、ジロー様のおかげだよ』


 マリアが指差す先には、色のついた石を並べて数を数える子どもたちがいた。

 ランスロットさんの出した算数の課題を解こうと格闘しているのだ。


『そうだね。そう何もかも悪くなってるわけでもないか』


『うん!』


『……どっちみち、シルニアをこのままにはしておけない。一度始めちゃったことは最後まで続けないとな』


 俺とマリアは授業の始まった広場をはなれ、塔の中に向かった。


 俺が行動したことで、シルニアは不安定になりつつある。

 だけど、そのの中身は、奴隷が奴隷のままでいることだ。

 国が不安定になることは全員の不幸を意味しない。


 人に苦しみや悩みを押し付けることでしてしまったら、それを安定と言っていいものだろうか。


 これは、答えの無い問いだ。

 一歩間違えればテロリズムの正当化になる。

 いや、すでになっているかも。


 俺はザックからヘルメットを出して被ると、UIを操作して人工衛星に接続した。

 すると、まもなく地上の様子がヘルメットに映し出された。


『さて、魔国との最前線の様子を見に行こうか』


『ランスロットおじさんの話だと、たくさんの銃士隊が集まってるらしいけど……。どうなってる、かな?』


『たしか魔国があるのは、ここから西だったね』


 俺は衛星に指示を出し、王都近くを映していたカメラを西に向けさせた。

 ミニチュアみたいな地図がゆっくりと左に向かってスクロールしていく。

 しばらくすると、荒野にいくつものテントが並んでいるのが見えた。


 テントは一様に同じ方向に向き、規則正しく並んでいる。

 まるで、さっきまで見ていた算数の授業で並べられた石のようだ。


『……なんて数のテントだ。いったいいくつあるんだ?』


 テントは一列あたり20個。

 それが10個の列を作っている。200個のテント……。

 サイズからすると、4人は入れそうだ。

 すると……ここにいる人の数は、ざっと800人くらいか?


 テントの周囲には土のうを積み上げた防壁があり、テントの群れを完全に囲んでいる。そして土のうの壁の間には、不規則にコブのようなものがある。


 よくよく見てみると、それは機関銃やロケットランチャーを据え付けられた簡易的なトーチカのようだった。


『ジロー様、これ、ほとんどが西に向いてる、かな?』


『え? ……あっ、ホントだ』


 キャンプを取り囲んでいるトーチカの武装。

 そのほとんどが西を向いている。


 武器を向けるということは、そちらにがいるということだ。

 だすると……これが魔国を攻めようとしてる軍隊のキャンプか?


『もう少し先を見てみよう……。――げッ!』


 衛星をさらに西に行かせた俺は、目にした光景に思わず悲鳴を上げてしまった。

 


 西にはさっきのキャンプと同じか、それ以上の拠点が連なって存在していた。

 ジグザグになった防壁がテントの周囲に張り巡らされ、2つ3つのテントの群れをまとめて取り囲んでいる。


 しかも、それぞれのキャンプは連携しているようだ。

 それぞれのテントの群れは、防壁の内側で道路でつながっている。道路は樹形になっていて、木の幹にあたる部分には道路と並んで、なんと鉄道まで設けられていた。


 キャンプの中央、心臓部には駅があり、大量の荷物が積み下ろしされている。

 この駅を中心にして、キャンプ全体に物資を配っているようだ。


『わ、おっきい……』

『うん。なんて規模なんだ……』


 キャンプをつなぐ鉄道網や、ジグザクになった防壁は一種の文様に見える。

 衛星からの視点だと、まるで巨大な地上絵を見ているようだった。


『すごい数だ。1万人……いや、それ以上の兵力がいるかもしれないな』


『本当に始まっちゃう、かも?』


『……その可能性が高いかな。この前線基地、ちょっとした街くらいの規模がある。ただ置いておくだけでも、大量の物資とお金を消耗するはずだ』


『魔国はどうしてるの、かな?』


『……たしかに、魔国の様子も気になるね。これだけ大規模なキャンプが目と鼻の先にあって、何もしないとは考えにくい。なにか行動を起こしてるはずだ』


 俺は要塞化したキャンプのさらに先に衛星を移動させた。

 ゆっくりとスクロールしていく衛星地図は、次第にその様相が変わっていった。


『えぇ……なんだこれ?』


 まず、色が違う。

 大地が紫色で、木々はピンク色をしている。

 ちょ、どういうこと……?!



★☆★



※作者コメント※

150話越えにしてようやく明かされそうな魔国の状況。

でも初手ゲーミングカラーってどういうこと?

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