星降る夜

『報告:1番、2番、射撃位置に移動中。3番、すでに射撃位置。

 阻止砲火を実行します』


『ああ、やってくれ』


 俺が促すと、見ている地図の上に白いリングがいくつも出てきた。

 このマーカーは、衛星砲の狙う先を示しているのだろう。


 リングは戦車の砲塔の後ろ、エンジン部分に狙いを合わせた。


 いくら強力な衛星砲でも、たったの3基。

 目標となる戦車は10台で、衛星の3倍以上の数がある。


『なるほど。弱点を狙い、エネルギーを節約するつもりか?』


『肯定:出力を4分割して一斉射を行います。射撃開始――』


 戦車に重なったリングの中に、次々と白い点が生まれる。

 次の瞬間、光が弾け、戦車の背中からオレンジ色の炎がほとばしった。


<ゴゥッ!>


 またたくまに4台の戦車が炎に包まれる。

 そのうちの1台は爆炎をあげて、砲塔がびっくり箱ジャック・イン・ザ・ボックスのように直上に吹き飛んだ。


 現地の音声データを示す波形が激しく上下に振れる。

 戦いの勝利に酔っていた銃士たちは混乱し、戦車の列から逃げ出し始めた。


『よし、あわてて逃げ出し始めたぞ』


 銃士たちは戦車の背後にあったトラックにわれ先に入り込む。

 この場から逃げ出そうというのだろう。

 

 残った6台の戦車は砲塔を左右に回している。

 僚車を倒した敵を探しているようだ。


『いくら地べたを探しても見つからないぞ。空の上にいるんだからな』


『報告:1番、2番、射撃位置に到着。1番、照準します』


『いいぞ、撃て!』


 俺の指示を受け、サテライトキャノンは続いて4つの戦車を破壊した。

 10両あった戦車も、残りはたった2両となった。


 戦車に乗っていた連中は、ここでついに自分たちの状況に気づいたらしい。

 ハッチを開けて戦車を乗り捨てると、トラックに向かって走った。


 しかし、トラックは戦車兵を待たずに走り出してしまった。


 サテライトキャノンで戦車を狙い撃ちにしたから、それに乗っていた戦車兵を乗せたら、自分たちも撃たれると思ったのかも知れない。


 戦車兵は少しの間走っていたが、トラックが止まる様子をみせない。

 見捨てられたことを悟り、地面に崩れ落ちてその場で倒れ伏した。


『かわいそう……』


『トラックの奴ら、あっさり見捨てていったな……』


 森の間で黒煙を風でのばしながら燃える戦車と、その後ろで横たわるシュラウトたち。間に点々と倒れているのは、爆撃の余波を食らって倒れた銃士たちだろうか。


 熱狂的な暴力が吹き荒れた後の光景は、どこかもの悲しいものがあった。


『痛み分け……ってところかな?』


 シュラウトたちは危うく全滅するところだったが、俺の介入で敗北は免れた。


 だが、王国に勝利したかというとそうではない。

 シュラウトたちはボロボロだし、王国もまだ予備の戦力をもっているはずだ。


 森の精霊たちにとっては、負け寄りの引き分けだ。


『シュラウトたちの様子を見に行こう。治療もしなきゃいけない。木の精霊だから、できるかわかんないけど……』


『うん!』


 俺は創造魔法を使ってレコン・スーツを出すことにした。

 以前使っていたスーツは要塞に置いてきてしまっていた。

 まさか使うとは思ってもみなかったからな。


『クリエイト・アーマー!』


 俺とマリアの体が光に包まれ、白い軽鎧が現れる。

 見ようによっては変身ヒーローみたいだな。


『わ、すごい!』


『よし、ジェットを使ってあそこに行くよ!』


『う、うん、できるかな……』


『大丈夫、失敗しそうになったらレコンヘルメットが何とかしてくれるさ。こいつ、けっこうお節介焼きだからな』


『肯定:ジロー、マリア、両名の姿勢制御システムを支援します』


『ほらね?』


『うん、ヘルメットさん、おねがい!』


『湖の上を飛ぶと目立つ。だから森の中を行く。できるか?』


『肯定:本機の自動衝突回避システムなら可能です』


『よし、行こう!』


 俺たちはレコン・スーツのジェットを使い、森の中を飛んで戦場に向かった。

 ものすごい勢いで木の幹が迫ってきては左右を通り過ぎていく。

 ジェットコースターなんか目じゃないスリルだ。何度も心臓がヒュッとなる。


『見えてきた……!』


 森を北に進み、十分もしないうちにオレンジ色の炎が見えてきた。

 黒煙が炎に照らされ、空に向かって立ち上る姿は遠くからでもよく見える。


『わ! っとと!』


 ジェットの勢いを殺しきれす、よろけながら地面に降りたつ。

 ヘルメットの支援があってもまだ慣れないな……。

 ジェットを使いこなすには、もうすこし練習が必要そうだ。


『さて……これまたすごい大きさだな』


『うん。お家くらいあるね』


 直に目にしてみると、シュラウトの体はかなり大きい。

 横たわっているにもかかわらず、その胴体の高さは3メートルほどあった。

 自動車くらいなら、まるまる腹の中に収まってしまうだろう。


『これが突進してきたら、生きた心地がしないだろうなぁ……』


『昔の人が「森に手を出しちゃいけない」って言うのもわかる、かな?』


『だね。この巨体の突進をまともに食らったら、戦車だってひっくり返るだろうね。こんな生物(?)がいたなんて……』


 精霊に俺たちの言葉が伝わるかどうかはわからないが、ものは試しだ。

 俺は横たわっているシュラウトに近づきながら声をかけてみた。


 精霊は牡鹿の形をとっていて、頭には勇壮な角が生えている。しかし角の片方は戦車の一撃で半ばから折れ、その断面から琥珀色の液体を流していた。


「精霊さん、敵はやっつけたからもう大丈夫です。いま助けます」


 とはいったものの、どうすればいいんだろう?

 地雷を踏んだ足はヒザまで派手に吹き飛んだ上に、先が炭化している。

 この傷になんでも治療薬……効くかなぁ?


<メキメキ……バキバキッ!>


「え?」


 俺がシュラウトの前で首をかしげていると、100本の枝を束ねて一気にへし折ったような木の割れる音が聞こえてきた。


 何事かと思って見上げると、分厚い樹皮で覆われたシュラウトの体が流水に手を入れたかのように裂けていく。


 呆然として立ちつくしていると、精霊の背中から人が出てくる。その人は木の葉とツタで織られた服に身を包んで、顔は木で作った仮面で隠されていた。


「え、えぇぇぇぇ?!」

「…………!!(ぎょぎょっ!)」


 あまりにも意外すぎる展開に、俺とマリアは二人してのけぞった。

 シュラウトって……乗り物だったの?!!



◆◇◆



※作者コメント※

シュラウト、森の精霊かと思いきや、まさかのモ◯ルスーツ、だと……?

ふぅむ。原理にもよるが、ということは……(いつもの悪い企み

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