トワイライト(2)

 日が傾いてくると、にわかにコテージの外が騒がしくなってきた。


 外を見ればなるほど。缶ビールを片手に持ったパリピたちがBBQを楽しみ、奇声をあげている。察するに、パリピという生物は基本夜行性で、夜になると行動的になる習性があるのだろう。


<ウェーィ! ウェイウェイウェイ!!>


 夜の到来を告げるパリピの独特な鳴き声が聞こえてくる。

 そろそろロケットの打ち上げどきだろう。

 アルコールが十分に入っていれば、誰も打ち上げを気に留めないはずだ。


「……よし、今が頃合いだな。ロケットの打ち上げ準備をしよう」

「…………(こくこく)」


 俺はリンをマリアに任せ、ロケットが載ったリアカーをひき出した。


「どこか、適当に広い場所はないかな……お、あそこがよさそうだ」


 湖畔の一角に、火のついた花火を振り回しているパリピの一団がいる。


 ロケット花火みたいなのも打ち上げているようだし、あそこならロケットを持ち込んでも怪しまれないだろう。……たぶん。


「よーし! 出発!」

「…………!(えいえいおー!)」


 リアカーをひいてパリピたちの輪に近づく。

 花火をしていたパリピは俺に気づくと、怪訝な表情をしてみせた。


「なんだ、こんなとこ車なんか引いて、行商かぁ~?」

「坊や、ナニ売ってるの~?」


 酒精で赤くなった頬を花火の灯りでさらに赤くして、パリピたちは笑う。

 すっかり出来上がってるようだ。


「いえ、これは売り物じゃないんです。新作の花火のサンプルでして」


「へぇ~? 新作とか面白そうじゃん!!」

「その新作、なんてーの?」


「えーっと……ヒマワリ、ヒマワリっていいいます!」


 花火の名前なんか決めてなかった俺は、つい自分が知ってる人工衛星の名前を口走った。我ながら、ヒマワリは無いな……。


「キャハハ、ナニソレ~!!」

「にーちゃん、おもしれーセンスしてんな~」


「あ、ありがとうございます」


「リアカーに乗ってるのがそうか? 打ち上げてみろよ!」

「みたいみたーい!!」


「では、失礼しまして……」


 パリピの勢いに飲まれつつも俺はロケットの用意をする。


 しかし、強化栄養食の身体強化があっても、ロケットはかなり重たい。俺がリアカーからロケットを下ろそうと四苦八苦してると、金髪のパリピたちが手を貸してロケットを運ぶのを手伝ってくれた。


 見た目と行動はかなりアレだが、案外気の良いひとたちかもしれない。


「こりゃまたでっけー花火だな!」

「ヒューッ!」

「こんな大きな花火、みたことねぇな」


 湖畔に立ったロケットを見上げて、パリピはおおいに喜んでいた。

 みたこともない大きさの花火を前に、テンションMAX。バイブスはアゲアゲだ。

 しらんけど。


「では、打ち上げます! 危ないので離れてくださいね」


「「「ウェーイ!!!!」」」


 俺はロケットの横にあるパネルを操作して、打ち上げを指示する。

 十数秒後、ロケットは周囲に水しぶきをまき散らして空中におどり上がった。


 点火したのに水をまき散らすのは奇妙におもえる。しかし、これには理由がある。


 ロケットが地上でいきなり爆発的なエンジンスタートをしてしまえば周囲にいる人や物を破壊してしまう。それを防ぐための処置として、ロケットの打ち上げの最初にガスや水蒸気を使うことがある。これはコールドローンチという技術だ。


 こうしたコールドローンチが使われるのは、ロケットだけではない。核ミサイルや水上艦艇から発射されるミサイルでも使われる。


 本来、この技術はサイロやコンテナといった大掛かりな施設が必要だ。

 しかし未来のロケットでは、本体そのものにこの機能が備わっているらしい。


 さすがは未来の兵器だなぁ……。


 水蒸気の圧力で打ち上がったロケットは、空中でエンジンを点火。

 すると、俺たちの頭上でオレンジ色の花が咲いた。

 ロケットの炎は湖畔を照らし、轟音が次第に遠ざかっていく。


「お、弾けたぞ!」

「でも、地味じゃね? 音はスゲーけど!」


「いえいえ、ここからです。このまま空を見ていてください。今の時間はちょうど夜に入りかけの時刻です。確実に『アレ』が見れるはず……」


「「????」」


 天上をめがけ、夜の中に飛び込んでいくロケット。

 その光はか細いもので、いまにも消え去ってしまいそうだ。


「やっぱ地味……なっ?!」

「何あれ、キレイ!」


 ロケットが夜空に青く輝くヴェールを広げた。

 さながら、バケツの中に光り輝く絵の具を垂らしたような光景だ。


 鮮烈な輝きをもった光のカーテンが暗い夜空に広がる。

 実に幻想的な光景だ。


「すげぇ!! なんて花火だ!!!」

「おにーさんマジやるじゃん!」


「はは……喜んでいただけたようで何よりです」


「あんな花火初めて見たぜ。ゲージツってもんを感じるぜ~!」

「だな。俺、カンドーしちゃった」


『すごいねジロー様! ……でも、前ミアさんのところで打ち上げた時は、あんなの見えなかったよね。どうやったの?』


『あの時は深夜だったからね。あれを見るには時間が重要なんだ』


『どういうこと?』


 えーっと……どうやってマリアに説明したもんかな。


 種明かしをすると、あれは花火でもなんでもない。


 夜明け前、または夜には行ってすぐの時間帯にロケットを発射すると、夜行雲トワイライトという現象が発生するのだ。


 これらの時間帯は、地上は夜でも空の高い部分はまだ昼なので光がある。


 そのため、ロケットが夜空の高いところに上がると、太陽の光がロケットの出した煙にあたって、突然空が輝いて見えるのだ。


『まず、僕たちがいる星はボールのような形をしている。これはいいかな?』


『うん。』


『夜になるってことは、太陽が星の影に入ることだ。光は直線的に進むものだから、夜になってすぐのうちは空の高い場所にまだ昼の部分があるんだ』


 俺は地面にボールを描き、その右に太陽を描く。

 そして、ボールの円のフチから影になっている場所をしめす線をのばした。


『さて、僕たちはこの影になっている部分からロケットをうち上げた。こうやって空に向かっていくと……』


 俺は円の影になっている場所から、円の外に向かってロケットの軌道をしめす線を伸ばす。その線が伸びていくと、太陽の影を示す線と交差した。


『昼の部分に当たった!』


『うん。ロケットは見ての通り、大量の煙やガスを出してる。闇の中では光がないから目立たないけど、太陽の光を受ければ反射して輝く。あの青い光は太陽の光を受けて出たものなんだ』


『すごい! ジロー様、どうしてこんな事知ってるの?』


『ハハ、そんな大したことじゃないよ。元の世界じゃこういうのを見たり教えてくれる〝動画サイト〟っていうのがあるんだ。大半はとりとめもない娯楽だけど、たまにこうした雑学を教えてくれるものもあってね』


『ドーガサイト……?』


『なんて言ったらいいかな? いろんな人たちが自分たちが見たり聞いたりしたことを残している図書館、みたいなところかな?』


『へぇ……私も見てみたいな』


『この世界でも見れたら色々便利なんだけどね……まぁ、それはそれ。さっそく打ち上げた人口衛星を確認してみよう。このへんの状況を知れるはずだ』


『うん!!』



◆◇◆



※作者コメント※

ロケットや宇宙についての知識が学べるなんて

このラノベ(?)は実に教育的ですね(すっとぼけ

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