ゲンダイヘイキ(1)
「花火の打ち上げはうまくいったみたいですね」
「スゲーな兄ちゃん! ヒマワリだっけか? 売り出したら教えてくれよ!」
「バーカ、あんなデカくて上等そうな花火、俺らに買えるわけ無いだろ」
「そーそー。あんなのは大体、王様とかが使うもんでしょ~?」
「はは……まぁ、量産できなくもないはずなので、考えておきます」
「そーかー? 期待してるぜ!!」
さて、あとは打ち上げた人工衛星と通信しないとな。
俺とマリアはさよならの挨拶をしてパリピたちと別れた。
『ジロー様……笑ってる?』
『うん。なんだろう……見た目はともかく、そんな悪い人たちじゃなかったなって』
俺がそう答えると、マリアは眉を下げる。
その不満げな様子に俺は首を傾げたが、彼女の返事でハッとなった。
『でも、王国の人たちだよ? あの人たちが来ている服も、飲んだり食べたりしているものも、ぜんぶ……』
『あ……』
そうか、俺はこの世界で起きていることをすっかり忘れていた。
パリピたちはBBQの最中〝缶ビール〟を手にしていた。あれはもともとこの世界にあったものじゃない。転移者が作った工場に由来する製品のはずだ。
俺が元いた世界に由来しているそうした食べ物や、彼らが着ているアロハシャツなんかは、帝国人の奴隷から奪ったエーテルでできている。
うかつだった。
『……きっと、彼らは知らないだけだよ。あの人たちはロケットを打ち上げるのを手伝ってくれたし、花火のことをバカにもしなかった。王国には、困ってる人を助けようとする人もいるんだ。あの人たちも本当のことを知ればきっと……』
『……本当にそう、かな』
『えっ?』
『あの人たちは、なによりも自分たちの楽しみに正直。そのために生きてる。それを無くしてでも助けようとする、かな』
『それは……』
真実を知ったところで、王国の人びとはこれまでの行いを改めるだろうか。
いや、彼らの世界はあまりにも変わりすぎた。
それに加えて、転移者が現れてから20年もの歳月が経っている。
もとのシルニアを知らない人だっているだろう。
彼らにとっては今の形のほうが「あるがまま」の姿だ。
はい、そうですかと言って、今の生活を手放すとは思えない。
むしろ、激しく抵抗するだろう。
俺だってそうだ。元の世界でいきなり電気やネットが奪われたら、自分の持ちうるすべての時間やパワーをそれを取り戻すことに費やすだろう。
つまりそれは……戦うってことだ。
そうだ。直接的な対決はお互いの破滅になる。
だから冒険者レベルを上げて、逃避という道を選んだんじゃなかったか?
『ごめんマリア。僕は自分が何をしようとしているのか、それを忘れてたみたいだ』
『ううん、いいの。私も変なこと言っちゃった。あの人たちのこと、何も知らないのに……』
『そうだね………』
これ以上マリアに何といったものか。
時間だけがすぎていくその時、落ち着いた中性的な声が聞こえてくる。
レコンヘルメットからだ。
どうやら、衛星に装備された人工知能からの通信のようだ。
「衛星からだ! マリア、ヘルメットをつけて」
「…………(こくこく)」
ヘルメットを被ると、衛星からの報告が流れてきた。
『報告:目標とする軌道に到達しました。現在の位置は北緯XX.X度、東経XX.X度。システムに異常なし、全センサーは正常に起動中です。待機モードに移行します』
『わ!』
『えーっと……報告ありがとう。そうだ、僕がいる周囲の状況を空から見たいんだけど、できるかな?』
『了解:指定されたエリアの情報を収集します。エリアは北緯XX.X度からXX.X度、東経XX.X度からXX.X度です。データを収集中……データリンクを開始します』
リンクが開始されると、視界に表示されているUIに新しいアイコンが追加された。
アイコンは、パラボラアンテナがついた筒にソーラーパネルがついたものだ。
察するに、人工衛星を示したものだろう。
アイコンに視線を送ると、白く光って俺の視界に丸い地図が表示される。
衛星からみた地上の風景をリアルタイムに送ってきているようだ。
地図の範囲はかなり広い。地図の中心には俺たちがいる湖が映っているが、豆粒のようなサイズだ。湖を取り囲んでいる広大な森林も、それに続く王都も親指一本に収まり切るくらいの大きさしか無い。
『えーっと……拡大と縮小は多分、こうかな?』
俺は地図の前できゅっと何かをつまむような仕草をする。
すると、地図が小さくなり、湖がぐっと近づいてきた。
よしよし、地図はジェスチャー操作で拡大と縮小が可能なようだ。
表示されている地図には、湖らしき影のまわりに、焚き火の灯りが点々とみえる。
これはまた……思った以上に鮮明だ。監視衛星としてはバッチリだな。
マリアも俺の真似をして地図を操作している。
すると突然、彼女はすこし興奮気味に弾んだ声を上げた。
『すごい! ね、湖のそばにある2つの白いの、これってもしかして……空から見た私たち?』
『え? あ、そうだね』
湖の近くを見ると、マリアが言うように白い点がふたつ並んでいる。
レコンヘルメットの白が映り込んだ俺たちだ。
さすが未来の人工衛星。あのサイズでものすごい解像度だな……。
『マリア、上をみて手をふってごらん。もしこれが僕たちなら、手をふるはずだよ』
『本当?』
マリアは空に向かって両手を振る。すると、視界に映っていた白い点の片方がこちらを見て、両手を振り回した。
映像とのタイムラグはほとんど無い。
ほぼリアルタイムで送受信できているようだ。
『わぁ……なんか不思議な感じ』
マリアは驚きのあまり、声にならない声を上げた。
『だね。これを使えば、この辺りで起きていることがまるっとお見通しになる。いままでは足をつかって直接行かないと行けなかったけど、これからは事前に空から相手の様子を知ることができる』
『すごいね……』
俺とマリアは夢中になって地図を見ていた。
元の世界にもこうした衛星画像を使った「グルグル・マップ」というサービスがあるが、それを使ったときのことを思い出すな。
グルグル・マップの存在を初めて知った時、俺は夢中になった。
これから一生行くこともないだろう海外の土地を調べたっけ……。
『あれっ?』
『どうしたのマリア?』
『ジロー様、ここから北の方ですごい数の軍隊が集まってるみたい』
『えっ?』
俺は丸い地図をスワイプして、北に視点を映す。
すると、森を前にしたひらけた平原で、たくさんの戦車が横一列になっていた。
その後ろには、トラックが列を作り、青い服を着た兵士たちが団子になっている。
『まさか魔国との戦争が始まったのか?』
『ううん、ちがうと思う。魔国はこんな近いところにないし……』
マリアによると、魔国は王国のずっと西にあるらしい。
軍隊のいる場所は森を越えた北。
たしかに魔国が相手だとするとおかしい。となると……モンスター狩りか?
『モンスターを相手にするにしてもすごい装備だな。一体なにが相手なんだ?』
俺はじっと地図を見て、次の動きを待つ。
そして――それは始まった。
◆◇◆
※作者コメント※
作者はこれまでの設定を生贄にシリアス=サンをアドバンスド召喚。
そしてフィールド魔法カード「なんかいやな雰囲気」を発動だ!
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