終わりは終わり
「うわぁ……」
まだたきする間にペンナックの周りは血の海になっていた。
人一人、人間の体の中にはこんなにたくさんの血が入っていたのか。
そう思わせるほどの大惨事だった。
「終わったわね」
「あの幽霊はルネさんが呼び出したんですか?」
「そうよ。
<ガタタタッ! ガランッ!>
音のしたほうを見ると、研究室の壁が崩れた音だった。
ペンナックの爆弾の炎が本棚に火をつけ、そこから火が広がっている。
「まずい。爆発の余波で研究室に火が……」
「ここを出ないといけないわね」
「…………(こくこく)」
「待ってください、イゾルデさんも連れて行かないと!」
「やさしいのね。でも、彼女は……」
「ルネさん、思い出してください。ペンナックに復讐した踊り子の中にイゾルデさんの姿はありましたか?」
「待って、それは……じゃあ――ッ!!」
「イゾルデさんはまだ死んでません。ほら――」
床で倒れているイゾルデさんは浅く息をしている。
どうやら間に合ったらしい。
俺は彼女に『なんでも治療薬』をつかってみたのだ。
イチかバチの賭けだったが、うまくいった。
「あなた、彼女に一体何をしたの? どう見ても致命傷だったのに……」
「くわしい説明は後です。とにかくここから逃げないと!」
「…………!(こくこく)」
俺は床のイゾルデさんを持ち上げる。しかし火の回りが早いな……アルコールでもあったのか、すでに火はかなり大きくなっている
「さあ、行きましょう!」
「待ちなさい、廊下をいったら煙に巻かれるのがオチよ」
「……それでも」
「諦めろとはってないわ。見てて――」
<しゃん、しゃん、しゃん!>
「一体何を……ッ!」
彼女がステップを踏むと、研究室の壁の一部が
「これが酒場を抜け出した秘密ですか。ルネさんって何でもできるんですね」
「何でもは無理よ。知ってることだけ」
「では……これも『禁書庫』から? 便利だなぁ」
「前もって仕込みが必要だけどね。建物の薄い壁くらいならこれで抜けられるわ」
「いきましょう」
「…………(こくこく)」
彼女の案内で、俺たちはゼペットの邸宅を脱出した。
すると、建物は俺たちが出ていくのを待っていたかのように崩れ落ちた。
<ゴォォォォッ!! ガラガラガラ……>
熱風と煙に襲われ、ゲホゲホと咳き込む俺とマリア。
しかし、ルネさんだけはちがった。
彼女は焼け落ちる邸宅をじっと見て、瞳に焼き付けるようにしていた。
「終わったわね」
「えぇ……まぁ、終わりは終わりですね」
「納得いかなそうね?」
「依頼人は死んじゃったし、ギルドになんて報告すれば良いのやら……」
「そういえば、あなたたちは冒険者だったわね。ま、大丈夫でしょ」
「そんな無責任な!?」
「人が行方知れずになることなんて、この街ではただの日常だし」
いやいや、どんだけ治安悪いの?!
『サイゾウさんに説明しないとなぁ……』
『ジロー様、きっと大丈夫だよ。ペンナックさんがしたこと、きっとサイゾウさんだって許さないとおもう』
『そうだね。ただ、問題は銃士隊だなぁ……問題のある連中だったとはいえ、身内がやられたことにそのうち気づくだろう。ごまかしきれるといいけど』
『サイゾウさんならきっとだいじょぶ』
『胃が弾け飛びそう』
「……これからどうされるんですか?」
「どうしようかしら。イゾルデの怪我も深いし……どこかに落ち着かないと」
「なら、ルネさん、イゾルデさんと一緒にスラムに来ませんか?」
「スラムに? そうか……その娘、さっきから喋らないと思ったけど、奴隷ね?」
「…………(こくり)」
「まぁ、色々事情があって冒険者をやってるんです」
「この街に住んでて事情がないやつなんていないけどね。まぁいいわ。せっかくのお誘いだもの。受けましょう」
「銃士隊が火事に気づいて集まる前に、ここを離れましょう」
俺たちはゼペットの邸宅をはなれ、スラムに向かうことにした。
道中、俺の背中のイゾルデさんにある変化が現れていた。
彼女の手に巻かれた汚れた包帯の中から白く細い指が出ている。
この指は先ほどまでは出てなかった。
うっすらと感じていたが、やはりそうなのか……。
「クアンタム・ハーモナイザー」、「シールドベルト」、そしてこの「なんでも治療薬」。ここまで来て、俺にはある確信がでてきた。
俺が使う創造魔法で出てくるものはオモチャなんかじゃない。
正真正銘の本物だ。
◆◇◆
※作者コメント※
もうちょっとだけエンドパートが続くんじゃ。
あ、何だかんだで異世界ファンタジーの週間ランキングで
120位台に食い込んでます。
皆様の応援、お恵みいただいた★のお陰でごぜぇます。へへへ…
今後ともよしなに!
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