第48話 赤い支配人

 カジノ会場での騒動を終えた私たち。

 本来なら、景品と交換して速攻でボルス城に帰る予定だったが......



「見つからないね」


「そうですね」


 私とヴァルゴは、ベンチでボケーっとしていた。これにはちゃんと訳がある。カジノ会場を後にした私と極めてご満悦のヴァルゴは二人仲良く歩いていた。


 目的のアイテムも無事にゲットしたのは良かったが、別で動いているはずのレオとアリエスがいない。広大な商業都市でもある『ムートン』。


 街の詳細が事細かに記されている専用の地図がないと迷うくらいに道が入り組んでいる。加えて、生産職の最大の拠点だ。生産職のプレイヤーはもちろん、生産職に依頼するプレイヤーで街は栄えている。


 当然、どこも人が多いので更に合流が困難な状況となっている。人気テーマパークを思わせる盛況ぶり......


「コーちゃん! ドラン!」


 飛行能力持ちの蝙蝠を模した使い魔のコーちゃんと、SFチックな翼を有しているドラゴンこと、ドラン。二人には空からレオをアリエスを捜索してもらった。


 コーちゃんは肩に、ドランは私の頭にそれぞれ着地した。


「二人、いた?」


 私の言葉を理解できるが、人語を発せられないコーちゃんは首を横に振る。


「いなかったぞ。人が多すぎる......」


 ドランもまた、上空から地上を見ていたが、二人を発見することは叶わなかった。


「さて、困ったぞ......」


 カジノ会場の一件はすでに、広まっていることだろう。無断スクショはマナー違反なので、掲示板に載っていないことは確認済み。でも、それが悪かったのか......書き込んだスレ民が自分の想像力を文章に起こし、それを掲示板に書き込んだことで、事の事情を知らない他プレイヤーたちは興奮しかしていなかった。


 盛った獣がいる動物園か何かなのかっと少しだけ掲示板を拝見した私の率直な感想だ。


「見つけれる方法はある。でも、それをやると......」


 短絡的に考えると、答えは簡単に導ける。その場限りは、円滑に事が進むが、後々に響いてくる。


 考え込む私に向かう影が三つ。


「ユミナ〜!!」


 聞き覚えのある声。顔をあげるとそこには......


「あれ? ニッカ、カトリナ、ナーデン? どうして?」


 クイーンと一緒にプレイした仲でもある三人のプレイヤーが近づいてきた。


「私たちは、近くの造船所に。完成した船を見にね」


 私と同じく職業:魔術師を持つニッカが質問に答えた。


 さすがは商業都市。モノづくりの施設ならなんでもあるってか。


「てか、ユミナ。会わないうちに随分、やっているね」


 剣士のナーデンが、豪快に笑っていた。

 三人は先ほどの出来事を知ってる顔だった。


「......若気の至りってやつですよ」


「ユミナが、遠い目をしている」


 武闘家のカトリナの心配をよそに、空を見続ける私。


「まーそれは置いといて。ユミナはここで何やっているの?」


 そうだ、もしかして......この三人なら。


「ニッカ、実は......」


 私は今、置かれている状況を三人に伝えた。








 しばらくして、口を開いたのはナーデンだった。


「なるほどね。従者と逸れたと。『ムートン』なら、仕方がないけどさ......」


「で、お願いなんだけど」


「捜索の手伝いだろ! 良いよ!」


「本当っ!! ありがとう」


「ユミナには恩があるしね!!」


「念の為に、私たちのフレンドにも声をかけておくね」


 カトリナは手際良くウィンドウ操作をしていた。


「これで、見つかると良いんだけど」


「ユミナ。実はこっちにもお願いがあるんだけど?」


「うん? 『お願い』って、ニッカ?」


「船は完成して、これから試運転するんだけど、一緒に同行して欲しいの」


「戦力としてですか?」


「それも、あるんだけど......」


 ニッカの目は、ヴァルゴを捉えていた。なるほど......


「ヴァルゴ!!」


「どうかしましたか、愛しき主様」


「いつもの、でお願い」


「ぶー。かしこまりました、お嬢様」


「三人と一緒に、船に乗ることになってね。ヴァルゴも」


「ぜひ、お供します」


「す、すごい気迫......ありがとう! ニッカ、OK出たよ」


「ユミナ......いくら、払えばいい?」


「お金より素材類が欲しいかな〜」


「任せて、魚類素材、ありったけ集めてくるから!!!!」


 燃えているニッカ。


「ねぇ、ナーデン。ニッカって......」


「ユミナの従者でもあるヴァルゴ様が推しだって。ニッカだけじゃなくて、知り合いの女性プレイヤー全員がヴァルゴ様のファンだよ」


「そ、そうなんだ......」


 これ、どうやっても収拾つかないな〜


「それじゃあ、行こっか」


 私の合図でみんな、歩き出した瞬間————



 周囲を囲まれた。五十人以上はいるだろう、騎士の鎧をきたNPCと黒服のNPCだった。騎士の方は剣先を私たちに向けている。全員がいつでも前に出て、私たちと戦闘準備ができている証拠。


「お嬢様......」


 彼岸の星剣ノヴァ・ブラッドを装備し、構えるヴァルゴ。目の前に騎士団に睨んでいた。

 いつの間にか私の後ろに隠れている三人、私も星刻の錫杖アストロ・ワンドを構えた。


「三人とも......一応、聞くけど、何かした?」


 目線だけ後ろに向ける。三人は私の質問に首を横に振ったり、手を左右にあおっていた。どうやら、本当に身に覚えがないらしい。


 となれば、私かな?


 でもな、『ムートン』に来てからカジノ三昧だったし、獲得したカジノコインも正規の方法で入手したアイテム。騎士団が来る要素はない......


 考えている私の前にいる騎士たちが左右に移動し始める。開いた道から、赤髪の女性が颯爽と歩いてきた。


「見つけました」


 黒いドレスの美女が、笑顔を私たちに向けてきた。金色の大きな鳥の羽根をうねられた鍔びろの帽子をなまめかしく傾けてかぶっていた。肘まで覆っているのは生地が薄い黒の手袋。背中に刺青? が入っていても白い肌が眩しい。


「えっと......どちら様?」


「これは失礼しました。私は、カジノオーナーのヴェラ・モヘングと申します。ユミナ様」


「どうして、私の名前を」


 NPCたちの情報網があるのか。私の名前は広く知れ渡っているらしい。


「細かい話は私の部屋でいたしましょう」


「拒否したら?」


 ヴェラは指をパチンと鳴らした。


 合図に従う強面の黒服たち。


「はいはい。わかりました。ヴァルゴ行きましょう」


「かしこまりました、お嬢様」


 武器を外し、三人に謝罪後、ヴェラについていくことにした。

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