第73話 強者蔓延るフィールドで性欲なんて起きないよ......

「なるほど......すまん。忘れておった!!!」


 場所を移し、玉座の間。

 中央で床に座り談笑をする私たち。一人だけゲラゲラ笑っているのはアイリスだった。


「ほんとうですよ」


「まさか、戻れなくなるとはさすがに想定外でした」


「ジェミニたちも言ってくれよ」


 タウロスの言葉に目を逸らすジェミニたち。


「忘れてました......」


「なんか忘れていた気がします〜」


 アイリスからボルス城を譲り受けたのは良かったけど、まさか戻れなくなるとは思わなかった。

 しかも橋を渡った先にいたフィールド。名前は烙戦強兵らくせんきょうへい深森しんしん。出現したモンスターは100オーバーのレベルを有していた。


 やっと50レベルまで行った私ではまるで歯がたたない強敵たちだった。ヴァルゴたちは現役よりパワーダウンしているとはいえ遅れはしていないが完封とは行かなかった。


 未知のフィールドを駆けるのもありだ。弱肉強食の烙戦強兵らくせんきょうへい深森しんしん。フィールドはまだ早いと思い、アイリスたちが来るまで城から出ないことにした。初めは城にある庭園や温泉を楽しんでいたし、初めての釣りも体験していた。釣ったのが鮭だったのは驚いたな〜 生息地的な意味と雷を口から飛ばす意味で仰天していた。倒して得た経験値が美味しかったけど......


「で、暇になって着せ替えをしていたと」


「タウロスの工房も手に入ったし、慣らしがてら装備品を作ってもらっていたの」


「鍛治師に過激な服を作らすとはユミナよ。なかなかやるの!」


「いや......タウロスのお願いで」


「アタイの『お願い』だしな」


「アタシとヴァルゴは完了しました。タウロスだけまだでしたので『お願い』を」


「アタイ個人は何も思いつかなくてな。アクイローネからの助言もあったし」


「暇でしたので......お嬢様の着せ替えをやっていたんです」


 手に入れた素材がほぼお化けモンスター。追加でヴァルゴがサイコロステーキにした獣系や昆虫モンスターの合わせた結果、モドキ衣装が大量にできた。


 ・ビスチェ      

 ・ビキニ鎧      

 ・ひも 

 ・水着

 ・ドレス  

 ・ボンテージ

 ・ウエディングドレス     

 ・クノイチ      

 ・浴衣(丈が短い)

 ・チアガール

 ・ポリス服

 ・バニー

 ・ネコパジャマ

 ・軍服ロリータ

 ・チャイナドレス

 ・メイド服

 ・花魁着物

 ・キョンシー

 ・ナース服

 ・女教師

 ・CA

 ・ウサギ

 ・羊

 ・犬

 ・牛

 ・鮭

 ・蜂


 ハロウィンはまだまだ先なのに......先取りしすぎだな。


 私が提示した特徴を話しただけで完成させてしまうとは。タウロスたちのAIが凄くて怖い気分にもなっていた。


 さすがに現実にある本物? とは色合いが全然違った。作ってくれた装備品はレアモノみたいでアリだった。


 しかも性能も今、私が装備している幽天深綺のファンタズマ魅姫・ドレス:【劫力白双シャイニング】と同じ。フィールドの条件次第では上をいく装備も多数あった。ほんとうにタウロス様々だよ!!


「ユミナよ......予想の斜めをいく行為をしていたな」


「『予想の斜め』?」


「ユミナよ、お主。性欲はないのか」


「何、ドストレートにセクハラ発言しているのよ!?!?!??」


「いや、玉座の間にいなくて。寝室にずっといるなんて......第三者からすれば卑猥な出来事と考えると思うが」


 私たちは高速でアイリスから目を逸らした。


「もしかして......お主たち」


「ナニもしていませんよ」


「おいっ! アリエス、含みのある言い方すると勝手な想像させちまうじゃねえか」


「タウロス......貴女もお口チャックしてくれない。誤解を招くから」


「アイリス、相談があるのですが。遥か年上には魅力がないのでしょうか。誘っても行動がなくて」


「ヴァルゴ......そろそろ本気で怒るよ」


 ヴァルゴに後ろから抱きつかれ、体を触らせている。

 ヴァルゴの行為に加わるアリエスとタウロス。おしくらまんじゅう状態になっている。私はいつから餡子になったのかしら......



 私たちのいつも通りのやりとりを仰天顔で見ている影が二つ。


「ねぇ、お姉〜」


「何かしら?」


「なんて言うか〜」


「言いたい言葉は理解できるわ。初めは気づかなかったけど......」


「「ユミナ様を抱きしめている女騎士......誰????」」









「ところでアリエスが城に来た理由はなんですか」


「うん? あぁ、妾の用事の前にお主たちの状況を解決しないとな」


 アイリスの誘導の元、城の権利の譲渡作業に使った白い球体に向かう。

「ユミナ、手をかざすのだ」


「......分かったよ」


 手を置いた。以前出現した権利書のウィンドウとは別のウィンドウが出た。



 《ボルス城:移動可能エリア》


 ・『リリクロス』:ボルス城

 ・『リリクロス』:烙戦強兵らくせんきょうへい深森しんしん

 ・???? ......






 表示されているのは現在地のボルス城と『烙戦強兵らくせんきょうへい深森しんしん』のみ。下にスクロールしても全てハテナだらけ。


「アリエス......説明を求む?」


「実はな、ボルス城が移動できるエリアの項目リストなのだよ」


「『移動できる』? お城がですが......?」


「直接、城を移動できる。城の権利者の身一つだけを転送もアリじゃ」


「初めはただの城だったんだ。ラグーンとベイが眷属になってくれた。で、面白い機能をひらめいた。早速、組み込んでみた結果じゃ。ボルス城は......」


 ボルス城の持ち主。つまり私、ユミナが行った場所が転送可能リストに表示される。ボルス城は今、建っているのでボルス城をタッチしても反応はない。でも、一個下にある『烙戦強兵らくせんきょうへい深森しんしん』。


烙戦強兵らくせんきょうへい深森しんしん』フィールドはボルス城の橋を渡ってすぐのエリア。経験値や素材が美味しいが遭遇するのは凶悪な100レベルオーバーモンスターが跋扈している。


「地図に足跡......」


烙戦強兵らくせんきょうへい深森しんしん』を試しにタッチする。地形がわかる簡易的な地図が表示され、足跡が付いている部分だけがオートマッピングされていた。


「足跡を触ると、ボルス城かユミナが触った場所に移動できるのじゃ」


 危ない危ない......早く言ってよ。危うく強敵モンスターたちが棲みつく場所に家を瞬間移動させる所だった。


「私が足を踏み入れた場所が転送可能リストに表示されるんですよね」


「正解じゃが」


「なら、『叫棺きょうかんの洋館』とか表示されないの?」


 アイリスたちと出会った『叫棺きょうかんの洋館』。『叫棺きょうかんの洋館』に着くまでに入っていた『異林暗波いりんあんは』。私が過去に実際、立ち寄っている場所。なのにリストにはない。理屈はなんだ??


「......ボルス城の移動可能なリストが出るのは、妾たちが譲渡した瞬間に適用されるのじゃ」


「......わかりました」


 ため息しか出なかった。賃貸アパートを管理している会社の方が入る前にキッチリ説明があるのに。後手後手の後出し説明は非常に困る。



「ラグーンとベイのスキルでもう一回、『叫棺きょうかんの洋館』に入る。結果、いつでも『スラカイト』と『リリクロス』を行き来できるのじゃ」


「では、早速おねが......うん?? 今なんて言いました?」


「『行き来できる』と言ったか」


「......もう少し前です」


「『スラカイト』と『リリクロス』」


 数秒考え、ゆっくり口を開いた。


「アイリス、ボルス城がある場所って......『リリクロス』?」


「何を今更、言ってるのだ。今、妾たちがいるのは、お主たち冒険者が言っている未開大陸『リリクロス』。同胞でもある他吸血鬼族もリリクロス大陸に住んでいるぞ」



「先に言えぇぇええええ!!!!」




 VRMMORPG『オニキス・オンライン』。最新アップデートで解放された未開大陸『リリクロス』。リリクロス大陸に足を踏み入れた者は到達するまでの過酷さゆえに今まで誰も到着していない。今までは......


「もしかして......私が初めて!?!?!」


「大丈夫か、ユミナよ......」







⭐︎

ボルス城

アイリスの謎のパッションと双子座の城に移動機能がつくのかの興味が偶然にも重なって生まれた被害城。


烙戦強兵らくせんきょうへい深森しんしんの湖に浮かんでいる島に建っているお城。

玉座の間に設置されている”所有者の証”という球体を動かすことで、城の所有者がこれまで行った場所に行ける。

転送場所へは所有者(パーティー含む)だけか城ごと移動の選択肢がある。

城ごと転送された場合、その地に急に巨大な城が生まれてしまい地形を変化させてしまう。(城がなくなれば元に戻るシステムとなる)


出歩く場合、城には所有者が認めた者以外は入れない。いかなる場合でも決して。

所有者だけが転送された場合、異空間転送の把手安住の地へというアイテムを使えば、いつでも城内に戻れる。

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