第72話 秘め事にはナニかがある
「おーい、ユミナ。いるか〜」
ボルス城の玉座の間に響く幼いが年齢を感じさせる女性の声。
アリエス・イニティウム・シルヴァ・ティマンドラ・ルーナ。吸血鬼族の女王だったが、今は王位を別に継がせている。隠居生活中に出会った魔法使いのユミナにこの城、『ボルス城』を授けた。
「誰もいないようですね」
「外とか〜じゃないの」
アイリスの後ろにいるのは双子のメイド。本当の名前は彼女たちの種族でもある『星霊』の誓いにより契りを交わした者にしか知り得ない。メイドである以上、何かと指示を出さないといけない。名前を呼ばないと”おい”とか”お前”とかの熟年夫婦にしか分からない単語で会話するしかない。なので仮ではあるが名前を与えた。ましてや双子座でもあるジェミニは何の因果か就任したのも双子。
しっかり者の印象が強く青色の瞳は双子の姉でもある”ラグーン”、気だるそうな言葉遣いで赤色の瞳は妹の”ベイ”。本来の彼女たちの髪色は瞳と同じだった。しかし今は白髪。悪い意味ではなく妾と契約を結んだ結果の現れ。
『
自分が認めた者を吸血鬼の眷属にできる魔法。勿論、合意がないと魔法は消し去ってしまう。
ラグーンとベイは星霊以前に”時幻族”と呼ばれる希少で貴重な種族。時空間を移動できる能力を持つが故に多くの者たちから狙われている存在。永劫の時を生きている妾でも遭遇したことがあるのは双子を含めて五回。片手で数えるくらいにしか出会ったことがない。
色々あったが今はラグーンとベイは妾の眷属。流石にアリエス・イニティウム・シルヴァ・ティマンドラ・ルーナの眷属を奪おうなどと不逞を働く者はいない。それだけ妾の名前は知性ある多種族に広まっている。そうなんだと妾は偉いんだぞ。それなのに......
「どうして、誰もいないのじゃああああああああああ!!!!!!」
「主様、もう少し声を抑えた方がよろしいかと思われます。はしたないです」
「そうですよ〜 歳なんですから〜」
「相変わらず、お前たちは遠慮がないの......一応、お前たちの主だぞ。妾は......」
「申し訳ありません。こればかりは長年の習慣と言いますか」
「もう〜 これで定着しているので〜 すみません〜 あるじ〜」
「全く......妾は偉いんだぞ!! 何度も言うようだが」
「それは存じていますが」
「まぁ、良い。昔に比べればまだマシか」
「何かありましたっけ〜」
「妾は忘れぬぞ。石化から解放された途端に目の前にいた妾を殺そうとしたことを。眷属の合意まで戦争していたしな......」
「そういえばそんなこともありました」
「オフィとの戦闘中に石化したから、体がそうなっていただけですよ〜 あるじ〜」
「で、だ。ユミナたちはどこかの......」
入り口の門から玉座の間まで人の気配がしなかった。部屋数も多く、広い城だからどこかにはいると思うが......
「もしかして〜 寝ているんじゃないですか」
「でしたら、また日を改めてはどうでしょうか。主様」
「いや......行こう!」
ラグーンとベイがため息を出した。本当にこやつらは妾の眷属なのかと疑いたくなる。
「何じゃ、そのため息は」
「主様、流石にどうかと思いますが」
「そうですよ〜 失礼ですよ〜」
「ヴァルゴがいるのも関わらず、未だにここに来ないと言うことは」
「
自然と口角が上がる。
「ほほぉ!! では、ますます行かなくてはな」
「あるじだって〜 わたしたちとやっている時〜 警戒が疎かになっているじゃないですか〜」
「まぁ、結界があるので侵入者が入ってきたら一発ですが」
「ほれぇ、
目的地へ足を進める。向かう場所はこの城の王の寝室。別の部屋という可能性もあるが十人くらいが入っても大丈夫な広さがあるベットがあるのは一つだけ。しかし......ユミナよ。お主、可愛い顔してやることはやる奴だとは。恐れ入ったぞ!! 最中なら妾も混ざろう......
「あるじ〜 顔が下品ですよ〜」
「いくら隠居している身だとしても元女王なのですから。謹みを覚えてください」
「まずは二人が妾に対する言葉遣いから直す方が先じゃ」
「「それはちょっと......」」
長年放置はしていたが管理はさせている。玉座の間にある球体に魔力を注ぐだけだが。
それでも埃一つない廊下は実に気分が良い。自分の才能に惚れてしまいそうじゃ!!
静まり返った王宮の奥に向かって、広い廊下に三人の足音だけが響く。
妾たちが到着したのは一際大きい両開きの扉がある部屋。ここが目的地である王の寝室。
「いつ見ても良い扉じゃ!!」
「確か、廃墟だったこの城を主様が修復したんですよね」
「そうじゃ、人を使って直すのも良いが永劫の時を生きている者はいつだって時間がある。折角なら妾一人でやってみるのも一興かとな!!」
「その熱意は尊敬しますが......」
「あるじ〜 って時々、バカな行動をとりますよね〜 ここだって結局十年かかったわけですし〜」
「悠久の刻を過ごしている妾にとっては、十年など昨日みたいなもんじゃ」
やはり寝る場所は細部にまでこだわった。ただ、ドアノブだけが満足いかずに『リリクロス』大陸を駆けていたな。
「あるじが泣いている〜」
「ニンニクはここにはありませんが」
よく知っていたな、流石は妾の眷属。ニンニクを見ただけで泣いてしまうのが妾の体質。吸血鬼族には弱点が多い。何か一つでも克服してみたい欲が強くて色々無茶したの〜
「では行くぞ!!」
しかしやけに静かだな。もしかして本当に寝ているだけなのかの......
好奇心を抑えるのも限界に近い。
勢いよく扉を開ける。
「ユミナ、まぜてくれ........................うん?」
「「「最初は……グー!」」」
三つの拳を突き出す。また引っ込ませる。勢いよく拳が飛び出した。ある者はそのまま、またある者は拳を変形させた。
「「「ジャンケン、ポン!!!!」」」
ヴァルゴ:パー
アリエス:グー
タウロス:グー
「私の勝ちっ!!!!」
ヴァルゴは勝者の笑みを浮かべながら、拳を天に掲げていた。残るアリエスとタウロスは涙目になりつつ、四つん這い姿となっている。
「さぁ、お嬢様。これを着てみてください!!」
ヴァルゴが持っていたのはラグーン、ベイが着ているメイド服だった。いや、少し違うか......
「ちょっと!?!? 短いじゃない、却下」
スカートの丈があまりに短い。あれでは下着が確実に見える。ヴァルゴよ、お前、本当に妾と会わなかった間に何があったのじゃ......
「そんなこと言わずに、絶対に似合います!!」
「嫌だ!! これならまだタウロスの方がいい」
「ユミナ様。アタシのは......」
「アリエスのは絶対に却下。そんな水着、装備したくない。ほぼヒモじゃん!?!? 主に対して、何着させようとするのよ!!!!!!!」
「絶対に似合いますから!!」
メイド服を持つ女騎士。ヒモみたいな水着を持つ聖女。牛の被り物付きの服を持つ鍛治師。
そして三人から追いかけられているのは彼女たちの主人で妾の初めの用件があった、ユミナだった。
「「「「あっ、やっと来た!!」」」」
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