3章 時へのパスポート:上

第71話 図書館には魔女を、旅には愛を

 大陸『スラカイト』、「セルパン」。

 山脈に囲まれた街。山々の真ん中は円形状に人工的にくり抜かれており、人々はそこで文明を築いていた。


 ヴィクトール魔法学園の敷地内を西側に進むと、何百年以上もその地に建っている建築物がある。

 ヴィクトール大図書館は、古めかしい石造りの外観と街一番の高さを誇っている。図書館は学園の図書館にも存在するが大図書館にはに選ばれた者だけが入れる。


 円筒状の大図書館に入ると真っ先に壁一面にびっしりはめられている書棚。中央は吹き抜けのホールとなっていて天井にはステンドグラスがはめられているので陽の光が差し込むことで大図書館を彩る。


 同じフロアにある本を探すのは容易だ。円をぐるりと回れば良いだけ。一つ上の階にある本を探すには中央に設置された迷路のような、木の階段を登らなくてはならない。毎回決められた時間に階段が動くのが地味にめんどくさい。

 本も本で豪華な装飾が施されているカバーや一部が消え掛かっているなどあり、そのどれもが魔法使いに必要な書物ばかりとなっている。


 そんなヴィクトール大図書館の中を歩いている者がいた。

 ヴィクトール魔法学園専用の装備。見た目は真っ赤な丈の長いローブ。色は変更できるがさして性能が変わるわけではない。頭には真っ赤なトンガリ帽子。どこからどう見ても魔法使いって風貌。着なくても問題はないが雰囲気というものはある。敷地内には魔法学で使用されるモンスター以外は出現しないので防御力があまりない装備品を着ていても大丈夫となっている。



「えっと......『浮遊魔術』は......」


 この大陸の言語はスラカイト語。生粋の日本生まれ日本育ちの私にとっては読むことすら困難。プレイヤーはスラカイト語を読めるように予め設定されている。読むことが困難な言語がでた時は、必ず何かのフラグと思われている。大抵はノーヒントなので諦めるプレイヤーが多い。



「ほれ、これだわさ」


 半透明の指が差ししめす方向に目的の本がある。


「ありがとう! ってか読みたいのはケンバーじゃん......」


「ユミナよ、何度言えば分かるのだわさ。わたしは......」


「はいはい、そんな老婆よりもあれとってよ。小娘ちゃん」


「なんか......カビてない? タイトルは......『ヘビの生態:Ⅰ』ってアンタやっぱり変温動物だったのね」


「何言ってるのよ、危なっかしいアンタのために知恵を授けてあげようって良心からきているのに。心外だわ」


に良心なんてものがあるのは怖いんだけど......」


「それよく見たら、『Ⅰ』じゃない。私が読みたいのは『Ⅲ』。上かしらね。っホラ、行くわよ」


 私の前を分厚い本が二冊。開いた状態で飛んでいる。開かれたページの上にはビスクドール人形くらいの大きさの半透明な人物が立っていた。


「二人は塔内で自由に飛べるけど、私はあの動く階段を待たないと移動できないのよ。あと持ってよ、この本たちを」


 蝶のように羽ばたく二冊は上へ。まるで知識という名の蜜を探しているみたいに。


「本当に......なれるのかな。段々心配になってきたよ」


 学園に入るのは簡単だった。大図書館に入るのも......まぁ、楽勝だった。なのにここ数日は毎日、本と階段を睨めっこしている。だけど、ここで諦めては......私の目指す目標が遠のいてしまう。もしもになれなかった時にはこの大図書館を燃やそうとまで考えている。


「二人とも待ってよ......」


 初めは険悪な雰囲気の二人だったけど、今は少しではあるが楽しそうな雰囲気を出している。



 高級な木材を贅沢に使っている階段に足をかける瞬間に、ヴィクトール魔法学園の鐘の音が鳴り響く。盛大な鐘の音響に鳥たちは驚き、翼を広げ空へ舞い上がっていた。


 その様子を窓から見ていた私は両手で抱えていた読み終わるのに時間がかかってしまう分厚い数冊の本を真下に落下させてしまい足のつま先にダメージが発生した。


 自分のステータス変化による突発的な痛みを口にだしながら、ため息をついた。


「......痛いっ。はぁ〜 何やってるんだろう......私」

















 ◆



「せつな......」


「か、白陽姫ちゃん......」


 私の布団に潜り込み、上に跨る白陽姫ちゃん。

 体を起こしたことで布団は私の足しかかかっていない状態となっている。

 白陽姫ちゃんの美しい黒色の長い髪の毛が私の顔に垂れ下がってきた。


「もう......我慢ができないんだ」


「ダ、ダメだよ。ここは旅館内だから他の客もいるし......それに隣の部屋にはお父さんたちがいることだし」


「大丈夫、もう深夜だ。ちょっとの物音じゃ起きないさ。それとも私では不服なのか......」


「ち、違うよ。でも、ここじゃ、マズいから......」


 月明かりに照らされた白陽姫ちゃんは扇情的だった。普段の凛とした佇まいの彼女からは想像もできない姿。白陽姫ちゃんの行動の一つ一つから目が離さずにはいられない。


 はだけた浴衣のまま白陽姫ちゃんは私に抱きつく。

 恋人繋ぎになっている手、体全体からも白陽姫ちゃんの温もりを感じる。


「私は今が良いんだ......」


 私の耳元に白陽姫ちゃんの悪魔の囁きが。


「せつな......今日、私を......」

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