第74話 アイリスさまとユミナ様

「ありがとう、アイリス」


「ドアノブはちゃんと持っているな」


 私とタウロスのストレージ。ヴァルゴとアリエスはウラニアの指輪に、アイリスから貰った上質な木材で出来たドアノブが入っている。



 ・異空間転送の把手安住の地へ



「ちゃんと持ってます!」


叫棺きょうかんの洋館』に着いてすぐにアイリスから渡された『異空間転送の把手安住の地へ』。ドアノブを平面の所に置くと扉が生成される。扉をくぐるといつでも気軽にボルス城の城内に移動できるらしい。いつでも、いかなる場所でも速攻家に戻れる意味合いで”安住の地へ”と命名したとか。


「じゃぁね、アイリス。ラグーン、ベイ!!」


「ユミナ様、ありがとうございました。三人もまた会いましょう!」


「ユミナ様〜 ありがとうね〜 またね、三人とも〜!」


 私たちは手を振り、三人と別れた。



 私たちは次なる街の四つ目の街である『ラパン』に向かう。情報通りなら『ラパン』は温泉街となっている。なのでいったん、『ラパン』に滞在して英気を養おうプラス鍛治師が多くいるとかをタウロスと話していたら「ぜひ行こう!!」と目をキラキラさせていた。タウロスもなんだかんだで可愛い所あるじゃん!





「なぁ、ラグーン、ベイ。二人に聞きたいことがあるのだが」


「はい、何でしょうか?」


「お前たち......ユミナには心からの敬称呼びなのに、なぜ妾の場合は仕方がなくの敬称呼びなのか聞きたいのじゃが」


「それはですね、あんな三人を私たちは見たことがなかったからです」


「タウロスは性格が大らか。でも、あそこまで楽しげな姿はあまり見ませんでした」


「いったい何があったのじゃ、ベイ。急に気だるさの言葉づかいがなくなったぞ!?!? 真っ当な喋り方しておる......」



「アリエスも体の過去もあって少々、塞ぎ気味でした。アリエスの笑顔を見れば、ユミナ様は事情を聞いても変わらぬ接し方をしているのでしょう。それだけで私たちは嬉しいです」


「一番の変化は......ヴァルゴですね。私たちに対しても冷酷一直線だったのに......ヴァルゴの笑顔なんて初めて見ました。少々ユミナ様に対して過激ですが。良かったね、お姉」


「えぇ、ユミナ様には尊敬の念があります」


「お前たちの旧友の心を溶かしたのは大した者だと思うぞ。ただな......主でもある妾にももう少し、だな」


「「そうですね、考えます」」


「はぁ、お前たちは......もしもだぞ。二人はユミナの所に行きたいか」


 しばしの静寂が漂う。


「全く心外ですね〜 あるじは〜」


「全くです。確かにユミナ様の元に行けば私たちも楽しめるでしょう。でも......」


「私たちのあるじ〜 はアイリスだけだよ〜!!」


 ラグーンとベイの言葉を聞いたアイリスは二人に背中を見せる。


「主様......ニンニクでもあったんですか」


「............そうかもな」



 ......


 ............


 ........................



「質問〜 あるじ〜」


「なんじゃ、ベイ」


「ユミナ様〜 の用事は終わったんですか?」


「あっ!?!?!? 完全に忘れておった......でも、近いうちにまた妾の元に来るだろう。なぜだか確信が持てるのじゃ」


「「遂にボケました」ね〜」









 なんだか久しぶりの気分。


「知っている場所に来るって、謎の安心感があるよ」


「ユミナ様、こんな陰湿な場所に居心地の良さを抱いてはダメだと思いますよ」


 異林暗波いりんあんはを進む私たち。アイリスと双子座ジェミニのラグーンとベイたちの協力でなんとか人がいる大陸に戻れた。

 ラグーンとベイのスキルでもある【時翔ポルックス】であっという間に移動ができた。アイリスのサラッとした爆弾発言のおかげで私の城でもあるボルス城が未開大陸『リリクロス』にあることが分かった。爆弾発言には驚愕したけど、もっとおかしかったのは『スラカイト』と『リリクロス』の大陸間の大移動もコンビニに行ってくる。いや自室からリビングに行く気軽さで転送された事実かな。






「しばらくは人混みの中にいるのも悪くはないか〜」



 もうね、烙戦強兵らくせんきょうへい深森しんしんなんて魔境よ。人類が踏み入ってはいけない場所。強者が跋扈する場所に嬉々として進む者なんて余程の阿呆か生粋の戦闘狂くらい。


 蜂の大群が擬態して待ち構えているわ、地面から巨大ミミズが這い上がってくるわ、火炎ビームを発射するモグラが巨大ミミズが暴れたせいで地面から出現するわ、天候も急速に変化するし、散々な目にあった。


 自然界怖い。あの大陸では人間なんてピラミッドの最下層の最下層。もしかしたら道に落ちている石ころ以下かもしれない。あの大陸を生き抜く方法は基本が家の中に篭ること。籠城生活をしないとあの大陸では生きていけない。


「経験値や素材は美味しいんだけど......ステージが違いすぎる」


「アタイもごめんだな。生産職には厳しいものがある。レベルがなかったらどうなっていたことか」


「私は中々、歯応えがあるモンスターたちと戦えて満足です!!」


「基準をヴァルゴに合わせると大変な目に遭います......」


「まぁ、あっちはボチボチ攻略していこう。多分、もう少しかな......エリアボスがいるフィールドは」


 随分前に購入した地図を広げて確認した。このまま真っ直ぐに進めばエリアボスが居る場所に辿り着く。エリアボスの名前は......調べたけど、名称から攻略の糸を掴むことができなかったはず。



「そういえば、タウロス」


「うん?」


「ラグーンとベイと何を話していたんですか?」


「相変わらずだな......ヴァルゴ。何処に目が付いているんだよ。いやなぁ、ラグーンとベイの協力があればアタイのウラニアの指輪を直せないかなって」


「確かありましたよね、対象のモノの時間を巻き戻すことができるスキルが。【遡時の狭針タイム・コール】でしたっけ」


「使用はできるらしいが、問題は経過した時間だ。今のラグーンとベイは最大一ヶ月前までしか戻せないって言われちまった」


「そうですか、タウロスの指輪が破損したのは......軽く百年は超えていますから」


「だから、修復のヒントでも掴めればいいと思ってよ。これから行く温泉街が楽しみなんだ!!」


「そうですね、温泉か......どうしましょう」


「お嬢様、街に着いたら早速、温泉に入りましょう! 体を洗って差し上げます」


「良いよ......恥ずかしいから」


「そんなこと言わずに!! 一緒に身も心も温まりましょう!!!」


 きっとピンク一色の脳みそになっているヴァルゴに腕を取られながら先に進むのだった。

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