第75話 バカでかいじゃない

『ラパン』


 三つ目の街でもある『ティーグル』を南西に移動し、エリアボスでもある樹砲殖虎タンク・タイガー二世を倒すと入れる四つ目の街。


 街と街を行き来するフィールドエリアでは様々な環境が独立している。ボスを倒し、先に進む道には明確な境界線がある。だから森林地帯でもある『異林暗波いりんあんは』は草木が生い茂る地面に対して、舗装が全くされていない石ころだらけの道、モクモクと吹き上がる煙。今も火山は稼働しているらしい。


 このいつマグマが流れ込むか分からない『火上加煙かじゅうかけ』に今でも湯気たっぷりに活気付いている街がある。それがここ『ラパン』となっている。







「温泉って、なんで気持ちいいのかな~」


 私、ユミナはヒノキ風呂に入りながら体が溶けていく感覚を味わっていた。実際には溶けないけど〜

 ヒノキの爽やかな香りとリラックス効果でくつろげるような気持ちになっている。


「そうですね、心が癒されます」


 右隣にはヴァルゴが湯船に浸かっていた。


「はぁ〜」


「どうかなさいましたか、お嬢様」


「な、なんでもないわよ」


 横目でヴァルゴを見入る。見ないようにと努力はしているんですが生憎、無視できない魔力が隣にあったからだ。

 本当に......何食ったらそうなるのよ。


 スイカ並の大きなものが二つ、水面に浮かんでいる。


「お顔が優れない様子ですね」


 ヴァルゴ......自分の胸に手を当てた方がいいわよ。九分九厘、正解がそこにあるから。


 不意に後ろから抱きしめられた。圧がヤバい......(はぁ〜)


「ちょ、ちょっと!?!?」


「暴れないでください!」


「急に抱きつかれて驚いただけ」


 見た目はスイカなのに、触れると柔らかいのはなんでだ。宇宙の神秘に触れた気がする。

 自分で言ってもよく分からないけど......


「これでどうですか?」


「まぁ、まあ〜 癒されるかな。ほんの少しだけね」


「......それは良かったです♡」



「ヴァルゴ、ユミナ様が嫌がっています。離れてください」


 私から左隣にいるのはアリエスだった。


「主を癒すのも従者としての務めです」


「そのようなスキンシップが仕事なら、貴方はとんだいやらしい従者ということですね」


「アリエスのは一生できない行為です。これなんてどうするか、できないでしょう?」


 コラァ!! いきなり首筋を舐めるなァアア!! 

 首にキスするなァアア!!




「......張り合いがありませんね。体調でも優れないのですか、アリエス」


「いくら外から見えないとはいえ、何かあってはユミナ様の格が落ちてしまいます」


「それもそうですね。では、私は先に出ますね」


「もう、出るの?」


「あまり長時間の入浴は合わなくて。それでは」


「私はもう少し入っているから!」


「かしこまりました」


 ヴァルゴの背中......綺麗だな〜



 腕を突かれた気がした。顔を向けると、顔を真っ赤にして潤んだ眼をしているアリエスが目の前にいた。余程我慢していたのか腕に抱きつき、私の肩にはアリエスの顔が乗っている状態となっていた。


「これで......二人きりですね♡」


「やっぱり、か......」


「ヴァルゴには申し訳ないですが、嵌る方がいけないのです」


「聖女にあるまじき行為」


「”元”なので問題ありません。それに、愛する人を独り占めするためなら如何なる方法も見つけます」


 私の腕をアリエスは体全体でガッチリ抱きしめた。


「それにしても、やっぱりんだね」


「タウロス様々です」


 アリエスが今着ているのは『潤幻霊服ミヅチ』って上下共有装備。仰々しい名前だけど唯の入浴用の衣服。実際に戦闘で装備しても初期の防具とそう大差ない代物。一点を除いて。


「不思議です、元からなかったみたい」


「これで安心して私たちと入浴できるね!!」


潤幻霊服ミヅチ』を装備することで外からは普通の素肌しか見えない。アリエスの体には聖なる呪いが刻み込まれている。私やヴァルゴ、タウロスは全然、気にしていない。しかしアリエス本人の心労はそうではない。そこでお化けモンスターたちから手に入れた素材でタウロスが作ってくれたのがこの『潤幻霊装ミズチ』。


「いつかは、これを着ることなくみんなと入浴したいです」


「楽しみだね!」


「それに......」


「『それに』?」


「直にユミナ様に触れたいのです。布越しだとユミナを満足させることができませんので」


「やっぱり、そのままでいいかな」


 これ以上密着度が上がると私の理性が崩壊するかもしれない。

 白い湯気が立ち上がる露天風呂。露天風呂付きの部屋で私たちは温泉を楽しんでいた。












「それにしても......何処にもなかったね」


『ラパン』の宿屋は全て旅館仕様となっていて、現実に存在する旅館と類似している部分が多々ある。

 部屋に入れば人数分の浴衣装備が置かれていたり、プレイヤーがログアウトするのはベットではなく布団が用意されていたりと再現率が高い。


 防御力なんて皆無に等しい幾何学模様が入っている浴衣を装備した私はテーブルに頬杖をつきながらため息を付いていた。





『ティーグル』の街中にも、旅館に入る前に周りの施設を探してみたが石像は一つもなかった。


 ヴァルゴやアリエスのように街に一体の石像がある仮説はなくなった。タウロスやジェミニたちの場合は古城や遺跡の中などヒントがないと到底発見が困難な場所に置かれていた。そういうことも考え『ラパン』周辺をマップで確認したけど、それらしい建築物は見当たらなかった。また情報集めからの再スタートとなる。NPCだけならここ一ヶ月くらいの成果で会話をすることに抵抗は無くなったが、問題はプレイヤー。MMORPGというゲームに於いては不特定多数の人間が遊んでいる。この『オニキス・オンライン』も例外ではない。中には好意的なプレイヤーもいれば異林暗波いりんあんはで遭遇したプレイヤーキラーのようなプレイヤーもいる。



「私、一人だけなら......」


 やっぱりまだまだ人見知りなんだと苦笑いをする。


 NPCは優秀なAIを搭載されているので受け答えも人間的。そこから頭二つ分くらい抜きんでいるのがヴァルゴたちのような女型ユニークNPC。私の言葉を理解した上で喜怒哀楽を加えた会話をしてくれる。でも、この世界にログインしているプレイヤーはそれぞれの思惑で行動している。接客のフローチャートにプラスαしたのがこのゲームのNPCで、完全にフローチャートから逸脱した会話をするのがプレイヤーって解釈で合っているかな。


 まぁ、色々頭を悩ませているけど......このゲームをやっている目的の一つはそれを少しでも良くしていこうでプレイしている。なら、答えは単純明快だね!!



「良しっ!! そうと決まれば......二人とも。私一人で街中を散策してくるね」


「かしこまりました、お嬢様」


「お気をつけくださいませ、ユミナ様」


 私と同じく浴衣を着ているヴァルゴとアリエスが会釈してくれた。


 浴衣装備を解装して幽天深綺のファンタズマ魅姫・ドレスを装備した。もうすぐ夕方だけど太陽が昇っているので【劫力白双シャイニング】のまま。外でも動きやすい純白のウエディングドレスのイメージでもある【劫力白双シャイニング】モード。私は見慣れているけどこれに頭装備でもある純白の霊奏シルク・ヴェールを装備したら完全に花嫁衣装になってしまう。気恥ずかしいけど性能面で選んでいます。


「行ってくるね〜」


 足装備でもある『バードラン』をタウロスが強化してくれたことで新たに生まれ変わった。ブーツの見た目はなくなり、白と赤を基調としたハイヒールとなった。全体的な色は白色だけど、元々かかとに付いていや鳥の羽が赤色に染まっている。


「ハイヒールはやっぱり慣れないな〜 」


 ハイヒールから発生する音を出さないように慎重に宿屋前の赤い橋を渡き、街に繰り出す。




 〜装備欄〜

 頭:純白の霊奏シルク・ヴェール(CHR:400)(VIT:100)

 上半身:幽天深綺のファンタズマ魅姫・ドレス劫力白双シャイニング

 下半身:幽天深綺のファンタズマ魅姫・ドレス(MAT:500)(CHR:1000)

 足:炎削の鷺ドリューエン(AGI:200)(CHR:200)

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