第41話 戸惑う牡羊座と牡牛座

自分達のことに全神経を使っていたため、部屋の角で小槌が叩く音に気づかないでいた。

 ほどなくして、音はなくなる。音を出していた者はメンテナンスが完了した物に不備がないかの確認をした。


 アイテムを修理する場合、鍛冶職の者の前には修理までかかる時間や破損箇所が一目で分かるようにステータス画面と類似した半透明な画面が表示される。鍛冶職の者はそれを見つつ行動を行う。

 しかし、その者は過去の習慣で無意識に目視でアイテムを見渡していた。


 問題ない顔を見せたその者は隣にいる金髪の少女に手渡しをする。


「ほい、修理完了!!」


「ありがとう! 。いつも良い仕事するわね」


「なぁ~ あたいはアイテムを修理や製作するのは楽しいからあまりこう言いたくないんだけど」


「うん?」


「そのメガネ......また壊れるぞ」


「そしたらまた修理してね!」


「いや、そうじゃなくて......」


「気遣いは嬉しいけど、あたしはこれを手元に持っておきたいのよ。あたしが聖女から星霊に就任するときに、育ての司教からいただいた大切なメガネだから、口煩かったけど......もうこの世にはいない、鬼で鬼畜だったけど......それでも忘れたくなくて、背後から冷たい視線が来るかもしれないし......」


「なぁ、それって本当に尊敬しているのか?」






 ニッコリ笑う元聖女でもあるアリエスを見て、鍛冶職のタウロスは肩で呼吸した。


「分かったよ、いつでもいいな。完璧に直してやるから」


「頼りにしているわ。ところで......この夢はいつ終わるのかしら?」


「どうして夢と思うんだ?」


「あたしの話、聞いていなかったわね」


「うん? 何か言ってたか? アイテムを扱うときはそっちに注意を向けてしまうから聞いていなかったぜ」


「そうでしょうね。明らかに空返事だったし......じゃあ、もう一度言うわね」


 アリエスは指を指した。

 それに釣られて、タウロスは示された方角の光景を目撃する。


「タウロス。夢だよね、これ」









『大体、急に私を襲おうなんて。誇り高い騎士道精神が泣くわよ』


『お嬢......ユ、ユミナ様がいけないのでしょう。不意打ちに私の唇を奪うんですから......それはこの攻めには、別の目的もありますけど』


『だから、その別の目的を教えなさいって何度言えば分かるのよ。いい加減に喋りなさい、命令よ!』


『いくらユミナ様でもそれは出来ない相談です』


『また私に秘密?』


『こ、今回は本当にダメなんです。言うなれば女と女の友情です』


『私とは、友情ではないと......』


『ユミナ様の場合は、主と従者です......いえ、この際ハッキリ言います。ユミナ様の一番になりたいんです』


『何を今更なことを言っているのよ』


『それは......OKと認識しても良いのでしょうか』


『当たり前でしょう。ヴァルゴは私の一番のなんだから......』


『わ、分かってないじゃないですかぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』


『て、蠱惑的な顔で何舌なめずりをしているのよ。怖いんだけど......』


『ユミナ様にはわからせる必要があります。私は心を鬼にして実行します』


『欲望のままに行うの間違えじゃないのかしら。急に手つきが、いやらしい......離してよ』


『ユミナ様がいけないのです。乙女の純情を弄んで......反省してください』


『サカっている奴に何、言われても説得力ないからね』









 目を点にしたタウロスとアリエス。お互いがお互いの顔を見ていた。


「アリエスの言う通りだな。あたいたちは夢を見ている」


「そうでしょう。あのくそ真面目で融通が効かないヴァルゴが、あんな姿を晒すなんて」


「だな。周りには一切隙を作らなかったあのヴァルゴが、実は裏で色欲まみれなことをしていたとか想像できないわぁ~」


「あたしたちは無意識にヴァルゴをそういう風で、いて欲しいと考えていたのかもしれないわね」


 タウロスとアリエスはそのまま体をベットに預けた。


「まぁ、短い時間だったけどこうしてまたアリエスと話ができて、あたいは嬉しかったよ」


「あたしもタウロスと会話できて楽しかった。元に戻ったらまた石化状態になっているけど、諦めずに時を待ちましょう」


「それまでくたばるなよ」


「そっちこそ。それじゃあ......」






「「お休み」」


 タウロスとアリエスは再び眠り始める。目が覚めたときには苦しい虚無の時間が待っている。でも、諦めない。だって、自分以外の星霊も頑張っているんだから。怖いものなんて何もない。


 だが、そんな心配をする必要はなかった。


「アリエス、タウロス。二人とも、助けて......」


 呼ばれた気がした。体を起こし、声のする方へ目を向ける。

 青紫髪の女性に跨がられ、自分たちに助けを求めている桃髪の女の子。


「「もしかして......これって、現実!?!?!?!?」」


 目の前のありえない光景に衝撃を受ける牡羊座と牡牛座だった。

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