第42話 「変態」なのか「変身」なのかを決めるのはその人の感性がモノを言う
時間は一週間と少し前、オフィュキュースとの戦いが終わった後まで遡る。
本来なら安全な場所でログアウトする予定だった。だけど朝日が昇っていることの意味を理解した瞬間、私ことユミナはなんとかしてログアウトしないといけなかった。流石に遅刻はまずい。私の父は非常に温厚な性格の持ち主。でも一度怒ると鬼の形相になる。最悪、VR機器を没収されるかもしれない。私の鬼気迫る表情にヴァルゴも察したのか半壊した古城へ戻る提案をしてくれた。まだ無事な部屋を見つけ、そこに置かれていたベットへ私を誘導した。
「よく私がベットを探しているって分かったわね?」
「お嬢様が寝ている間に情報収集していましたので......なんでも『冒険者』の皆様は一定時間、ベットで寝ないと睡眠とは別の生命の危機があるとか。今回のお嬢様はそれに該当しましたので......」
パーティーにいるNPCでも自由行動を取るんだと新たな発見をした私。
てか、ある程度情報を集めるために他人と会話をしているはず。大丈夫かな......主に相手の心配だけど。
女性にならきちんとした対応をすると思う。男性の場合は......まぁ、ヴァルゴが遅れを取ることなんて早々ないし......ゲス心満載の不埒な輩にはヴァルゴからの
「あ、ありがとう。でも、安全が......」
ヴァルゴは胸に手を置いた。
「お任せください。お嬢様は私が命に替えてもお守りしますので」
決意の目だった。前みたいな弱々しい雰囲気が綺麗に消えている。
「大袈裟だけどありがとう。数時間後......多分、戻ってくるから」
不安だったけど、一応ログアウトができた。そこからが大慌ての連続。昔の少女漫画の定番でもある女子高生がパンを咥えながら登校する格好をまさか自分がやるとは夢にも思わなかった。
なんとか
起きた時には夜の九時を回っていた。ヴァルゴとアシリアさんが心配で急いで『オニオン』へログインする。
さっきまで寝ていたのにまた寝る姿勢を取るとは、変な生活をする様になったと苦笑してしまう自分がいた。
「お嬢様......おはようございます!」
「もう、夜だけどね〜 おはよう!! ヴァルゴ、ありがとうね。数時間で戻ってくるって言ったのに」
「大丈夫です! 私は信じていましたので。お嬢様は必ず、起きて私に会いにくる事を......」
「えっ、好き!!」
なんて忠義的な騎士様なのかしら。めっちゃ惚れるんだけど!! 思わず『好き』なんて口走ったけど問題ないか。
突然の主からの告白にヴァルゴは奇妙な動きをしながら倒れ込む。
そんな仰け反りながら、リンボーダンスするなんて......ヴァルゴの準備運動は独特だな〜
変なヴァルゴが見れて笑顔を浮かべる私。
「さてと、人の住んでいる場所に行きますか」
流石に連続野宿はキツいものがある。それにアシリアさんをカトレアさんの所へ......あれ?
部屋にアシリアさんらしき人は何処にも居なかった。
「ねぇ、ヴァルゴ。アシリアさんは?」
「彼女なら......そこにいますよ」
ヴァルゴが顔を向けた方角に私も顔の向きを変えた。
そこには部屋の扉からひょっこり顔だけを出して部屋の中を見ているアシリアさんがいる。
とりあえず、動けるようで安心した。でも、何だろう......なんか......怯えてない?
「ヴァルゴ......貴方、何したの?」
「心外です、お嬢様は私をなんだと思っているんですか? アシリア様なら起きられてからあの様な状態です。何度もモンスターが襲ってきて大変でしたが......」
「それはゴメン。そして、守ってくれてありがとう。えっと......アシリアさん、平気ですか」
私の声に反応して嬉し涙を流しながら私に抱きつくアシリアさん。
「起きたらユミナ様はずっと寝ているし、ヴァルゴさんがどこにもいなくているのはそちらのお方だけ。襲ってくることはありませんでしたが......怖かったです」
その言葉である程度の予想ができた。
「ヴァルゴ......【形態変更(モデリング)】」
そう、今のヴァルゴはアシリアさんと『ヴァーシュ』で一緒にいた容姿ではない。
髪の毛は焼けたような髪質に変わっていて、顔・体は火傷や傷だらけで血が止まらずにいた。加えて、血が染み込んでいる包帯が全身に巻かれた姿。正体を知っている人以外からは今の状態が私の隣にいた麗しい女騎士と思うまい。
アシリアさんの心情も分からないでもない。でも、私は..................
ゆっくりと抱きついているアシリアさんを離す。ベットから降りて、ヴァルゴへ近づく。
下を向いているヴァルゴの手を握る私。
「手が汚れます......お嬢様」
「大丈夫。私は貴方を決して放さないから!!」
「..................分かりました」
【形態変更(モデリング)】を発動したヴァルゴ。煌めく光に包まれる。光が消えた時、アシリアさんの顔は驚愕そのものだった。そこにいたのは鎧を装備している乙女座の女騎士でもあるヴァルゴ。髪は青紫色へ。肢体は大人びた風格、誰もが魅了されてしまう容姿。どういう原理か不明だけど「乙女の星騎鎧」シリーズが復活していた。
「えっ......ヴァルゴ様」
「それにしても、凄いスキルだよね。私も習得したい!!」
「う〜〜ん、どうでしょう。星霊しか使っている所しか見ていないので、習得可能できるかなんとも言えません」
「そっか、残念。もし習得できるもんなら」
背伸びして、ヴァルゴの目線に合わせた私。
「ご褒美にヴァルゴの好きな姿になってあげれたのに」
「グハァ!」
四つん這えに倒れ込むヴァルゴ。口から血のエフェクトが排出された気がしたけど気のせいだろう。
「......お嬢様」
「うん?」
「み、見つけましょう!!!!! お嬢様が変態になれる方法を」
ヴァルゴの眼には熱く滾る炎が出ている様だった。
てか、待って欲しい事案が発生した。
「ねぇ、『変態』は訂正して」
「何故ですか? 今の自分から別の自分に変わる事を”変態”と言うのですよね」
「うん、間違っていないと言うべきか間違っていると言うべきか悩むな」
変にポンコツなのよね、ウチの女騎士さんは〜
「この際、それで問題ないわ。本当は『変身』とかの方が私はしっくりするけど。ヴァルゴ、これだけは覚えて欲しいわ......絶対に他の人がいる前で私の事を『変態』と言わないように」
「えっ、でも......」
「い・い・わ・ね」
私から放出された重圧に根負けしてうなづくヴァルゴ。
「はい、かしこまりました」
「よろしい」
危うくスパダリドS女騎士ヴァルゴ様に「変態」と罵られなる変態ドM魔法使いユミナちゃんの構図が出来上がってしまう所だった。
「ごめんね、アシリアさん」
置いてけぼりであるだろうのアシリアさんに説明をしないといけない。
マズイ情報以外は自分の身に何があったのか......眠っていた間のこととか......
「............えっ!?!?」
振り返った私。目線の先にはアシリアさんはいなかった。下と見ると......
床に膝を突いていたアシリアさんがいる。両手も床に押し当て、頭を深々と下げていた。
私とヴァルゴは呆然とした。そして、アシリアさんをただ見ることしかできずにいた。
「数々の非礼、お許しくださいヴァルゴ様。本当に申し訳ありませんでした」
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