第58話 【魔魂封醒《フリーダム》】:【撃朱の剣《インパクト》】

「............将軍、一つアドバイスします。防御に全力を注いでください」


「何っ?」


魔魂封醒フリーダム————————起動」


 私の音声に反応した裁紅の短剣ピュニ・レガ。紅色の部分は血液の如く流動的に脈を打つ。空気が一変する。離散していく風は【裁紅の短剣】ピュニ・レガの柄に集約される。


 裁紅の短剣ピュニ・レガを構える。足に力を込めた。



 地面を蹴り、駆ける。加速する体。自分の体は『薔薇襲の荊乙姫ブラック・ローズの花びら盾で守られているにしても、安全ではない。周囲に漂う風圧をかき集め、【魔魂封醒フリーダム】に転用している。バランスを崩れば、顔面から地面へディープキスする危険性がある。意識をしっかり持つ。尚も加速していく体。裁紅の短剣ピュニ・レガの剣先をグッダグ将軍へ。



「————————【撃朱の剣インパクト】」



 瞬間風速がいくらか主観的なことはわからない。視認できる状況では、地面が抉れていることだけ。

 引っ込めた裁紅の短剣ピュニ・レガを前へ突く。まとわりついていた風は一気に裁紅の短剣ピュニ・レガの剣先に集まり、ロケット発射のように放出された。膨大なエネルギーは一気に地面も巻き込まれ、兵器のパーツとなる。全てを飲み込む。



魔魂封醒フリーダム】:【撃朱の剣インパクト】は突撃技。敵に向かって突撃をすることで、周囲に大爆発と破壊された物を吸収し、エネルギーへ変換される。自身のダメージの総量で刀身にエネルギーが溜まる。裁紅の短剣ピュニ・レガ装備時からエネルギーが蓄積されるシステムとなっている。


 もう一つ、【撃朱の剣インパクト】発動に必要なトリガーがある。それは、対象との距離。攻撃対象とどれだけ離れているかで【撃朱の剣インパクト】の破壊力も変動する。距離を間違えると自身も消滅してしまう超強力エネルギーの塊。


 建物も餌食になる大爆発。



 裁紅の短剣ピュニ・レガから光がなくなり、灰色に変色した。【魔魂封醒フリーダム】と最大出力によるエネルギー枯渇。形が保たれているところから、修理すれば再活用ができる。こんな破壊しか生まない武器。今度も使って良いのか不安になる。


 私は周りを見渡す。グッダグ将軍と十五メートルしか離れていないのに、この有様。破壊の権化、崩壊の一途。目の前に建っていた建物は建物としての機能はなくなり、瓦礫と化した。隣接するいくつかの建物は壁やガラスに亀裂があるくらいのダメージ。もう少し距離を離していたら、どうなっていたのか。試したいようなしたくないような複雑な感情を抱えてしまった。


 徐々に視界を遮る砂埃がなくなる。目の前で防御の構えをとっていたグッダグ将軍。彼の鎧は半壊。持っていた三叉槍は穂先から崩れてしまう。地面に膝をつき、脱力顔。もうグッダグ将軍に戦いの意思は見えなかった。残ったいるのは私を刺す鋭い眼差しのみ。


「貴様、ワザと外したな」


「私は、元々、貴方の命を刈り取る予定はありません。時間稼ぎだけが目的ですので〜」


「『時間稼ぎ』だと......」


(もう、そろそろかな......キタッ!!)


 地面に灰色の破片が落ちてきた。色合いと材質、上から落ちてきた。それらを考えた結果、安心感が優った。


 裁紅の短剣ピュニ・レガを解除する。


「武装を解除するとは......」


「生憎、私の目的は貴方を倒すことではありません」


 上から次々、破片が落ちてくる。グッダグ将軍の周りにも破片が落下してきて、見上げる。


「貴様......何をした」


 役目を終えた星刻の錫杖アストロ・ワンドが私の元へ戻ってきた。


「私の杖って、特殊で」


 剥がれたことで生まれた巨大な衣。海底都市の地に降り立ったことで、煙が周囲を覆う。

 幸運値はそこまで、上げていない。これは、リアルラックなのか、と私の内心はよっしゃー、ラッキー!!

 状態。ちょうど背後に落ちてきた落下物。横目で見ても当たれば即死級の落下物。落下したことで微ダメージは発生したものの、実害はそれほどない。瓦礫は残るシステムではなく、霧散していくのは知っている。ただ、霧散エフェクトが光色に位置しているから、地面に写る私の影がでっかい。



「どんな呪いも解呪できるのよ」


 いや、嘘をつきました。アリエスの呪い、未だに解呪できない。不甲斐ない主ですみません。



 空中? 翼を展開して最後の兵士を片付けたカプリコーン。彼女だけは少し口角を上げている。それ以外の、ミランダやアリス、周りの兵士たちも絶句。


 カプリコーンが私の隣に着地した。同時に【接触禁止ミカエル】もリキャストタイムに入った。


「成功ですね、ご主人様」


 カプリコーンはウェーブがかかったライムグリーンの髪の毛を見て、嬉しさが滲み出ていた。


「将軍さん」


 私の声に反応したグッダグ将軍。彼もまた今起こっている現象に絶句していた一人。槍だった棒状を下に向けていた。


「貴様は初めから......」


「神様の声、聞きたくありませんか?」


 石像から生きた人魚が出てきた。それだけでも驚愕の事実。加えて、巨大な人魚の容姿は、最古の文献の一部に記載されていたものと似ていた。上半身は女性の体、艶かしい鱗を帯びた下半身は魚の尾鰭となっている。緑がかかった豊かな髪に、白い肌、赤い瞳。胸につけているのは加工された貝殻なのだろう。


 ユミナとカプリコーン以外、言葉を失っていた。眠りから覚めた美女は、薄暗い海底都市に彩りを与えた。人魚を上位互換とも言える美女は、人魚の中の人魚。女王に相応しい肢体と引きつける魅力を持っていた。


 一同が、人魚姫に第一声を聴こうとする。石化が解かれた瞬間は、海棲人たちの歓声が上がっていたが、今はしっーんとしている。


「ちょっと、私も興味があるんだ」


 私が零した言葉に耳打ちをするカプリコーン。


「先に言っておきます、ご主人様。あまり、期待しないでください」


「えっ!?」


 台座から飛び出し、浮いている人魚。

 体を伸ばし、気だるそうな声を発した。


「はァ〜 よく寝た!! もう一回、寝よ」


 やれやれと額に手を置くカプリコーン以外、口を開き、微動だにしなかった。


「なんか、下が騒がしい。あれ?」


 人魚は首を曲げ、下を向く。昔、属していた懐かしい種族が変化していたことへの不安と、盟友の元気な姿に涙を流す。


「カ、カ、!!」


 巨大な人魚の涙は普通の人間サイズには、死に直結する大きさ。カプリコーンはユミナを抱え込み、地面に落ちる水塊を回避した。安全な場所にユミナを降ろし、盟友と顔を合わせた。


「お久しぶりです、アクエリアス。それと、私はカプちゃんではありません」





★★★

裁紅の短剣ピュニ・レガ

片手剣系統:分類:ナイフ


魔魂封醒フリーダム】:【撃朱の剣インパクト


自身が受けたダメージでエネルギーがチャージされる。満タンになると『FULL CHARGE』と表示される。


魔魂封醒フリーダム起動後、チャージしたエネルギーを放つことができる。ただ、装備者自身も撃朱の剣インパクトの攻撃を受けながら、突撃する仕様なので、ダメージ軽減、もしくは回避手段を用意しないと自滅してしまう。撃朱の剣インパクト使用後、裁紅の短剣ピュニ・レガはくすんだ色になり再使用まで時間がかかる。


音声認識で使用可能になる魔魂封醒フリーダム。起動時、相手はターゲットされる。ターゲットされた相手(敵)との距離の差で撃朱の剣インパクトの威力が変動する。



0メートルから5メートル:不発

十五メートル:目の前の建物一つが崩れる。周りの建物が亀裂入る。

二十メートル:15平方キロメートルの地がクレーター&周囲は焼け野原。

二十五メートル:245 平方キロメートルが焼け野原

三十メートル:7777平方キロメートルが焼け野原

(お手軽核攻撃...)






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