第39話 悶々とする者

「洞窟は、また一段と寒い」


 クエストの目的地でもある洞窟に辿りつき、入り口付近で焚き火していた。


 寒さが続くのは気分的にも滅入る。それに、急ぐクエストでもない。早く終わるとクイーンと過ごす時間も減る。ま、ログアウトして時間を共有できる。でも、やっぱり、こうして一つの焚き火を一緒に眺めながら抱きつくのはリアルでは早々できない。だから、一旦休憩しているのが現状です。



 寒いのが苦手なレオは火が毛に当たらないギリギリの距離にいて、お酒を飲んでいる。


「なぁ、ユミナ」


 クイーンに抱きつかれている私はレオに視線を向ける。


「何?」


「旺盛なのはわかるが、もう少し自重した方がいいぜ」


「旺盛って?」


「そうです。もう少し、自重してください」


「ヴァルゴ、どうしてむくれてるの?」


「知りません」


 レオのお腹に顔を突っ伏し、叫び嘆くヴァルゴ。


「一体......何なのよ」



 寄り添って座りくつろいでいる私たち。

 私も、私を抱きしめているクイーンもハテナマークしか出なかった。

 何を言ってるんだ? 私たちはいつも通りの行動をとっているのに?


 持っているブランデーを一気の飲み干す。空の瓶をウラニアの指輪に放り込み、別の度数が高い酒を取り出し、また飲んでいる。


「潰れても知らないよ」


「心配するな、酒が入れば強くなる」


「そういうものなのかな〜」


「俺のことはいい。ユミナのことが先だ」


「なんか、掘り返すことある?」


「その状態だよ」


「なんか変?」




「さっきいた街にいたカップルよりもイチャイチャしているぞ」


 後ろからの抱きつきをやめ、今の私とクイーンの体勢は、肩をくっつけている状態。

 焚き火で暖かい感覚を体験している。前しか暖をとっていない状況。背中は防具を装備しているとはいえ、若干の寒さを感じる。


 クイーンは気を利かせてブランケットをストレージから取り出し、自分と私に被せてくれた。ブランケットから抜け出さないようにクイーンが私の体を自分の体に引き寄せる。私の肩を抱くクイーンの手は優しかった。安心してクイーンに体を預けれる。



「無自覚ってやつか」


「どういう意味よ!?」


(火......綺麗だな)








 受注したのは、女性二人限定クエスト。《氷月の零薬を探してくれ》。


 ククール洞窟には難病に効く薬草が生えている。不安定な天候と洞窟に棲まうMobが凶悪すぎて入手が困難な状況。私たちが受けるNPCはアクセサリー職人のニーデルさん。彼には寝たきりの奥さんがいる。奥さんの病を治すには『氷月草』が必要となる。なので一定数を採取するのが今回のクエスト。



「『氷月草』だけなら、すぐに見つかる。ほら!」


 クイーンの指差す方角に氷の花びらの植物が咲いていた。


「簡単だね......」


 今まで経験したクエストに比べれば楽。しかも報酬のアクセサリーも雪フィールド限定ではあるが性能もいいとか。


「NPC目線だと難しい。ここまできたプレイヤーは、レベルも高いし装備も充実している。だから......」


 クイーンは大怪盗の短剣ラウールを鞘にしまう。落ちているドロップ品を回収し始めた。


 レオも自分の指輪内にドロップ品を放り投げている。


「この洞窟には小物しかいないのか......歯応えがない」


 私の背後はポリゴンの光だらけ。洞窟なのに光源が入らないなんて。


「私はもう、あんなヌメヌメしたモンスターと戦いたくない」


「ユミナは酷い目に遭っていたな。ほれ、タオル」


「レオ、ありがとう」





 洞窟を進むと、分かれ道に到着した。


「クイーン、どっちに行く?」


「あぁ、それは『私と貴方はこっちへ行きます』」


 クイーンの腕を掴み、ヴァルゴが右の道へ。


レオと暫く視線を交わした。声が漏れたのは同時だった。


「「嘘でしょう!?!!??!」」


ヴァルゴは急に行動を起こしたのには何か理由があるはず。追いかけて訳を聞きたいが......



「ユミナ。俺たちはこっちだ」


レオが残った左の道を指差す。


「えっ、でも......」


「気にするな。多分、大丈夫だ」


まぁ、レオが言うなら信じるけど。


「それじゃあ、レオ。左行く?」


「了解」


 ヴァルゴの突然の行動に呆気に取られた。何もなければいいけど......



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