第38話 反省しています......
見ていられない空気とは、きっとこの時にあると言っても過言ではない。
衝撃の真実と、無意識に発した絶叫の影響で「シュヴァル」の街には居られなかった。
「変な視線だね......」
「いいじゃないか。今の私達には好都合」
黙って歩を進める。向かっているのは、クイーンさん。いや、
内容は依頼主が求めるアイテムを採取する系統のクエスト。
ただ、一般の採取クエストとは違い、取得条件が異なる。
「まさか、女性二人じゃないと受けれないなんて」
「他にもカップル限定クエストもあるよ」
「そっちは行かないの?」
「早く終われば、行けるけど......ユミナも見ただろう。「シュヴァル」にいるのは殆どカップル」
「イチャイチャするためにクエスト受注するけど、道中が混む......」
「正解。討伐系クエだと、邪魔でな」
「あー......なんとなくわかる」
◇
依頼主のNPCとの会話が終わり、目的地に進む。
「人気ないのかな〜」
「いや、報酬のイヤリングの効果もいい。目的地付近の風景も綺麗で見惚れるレベル。何時でもいても飽きない場所なんだ」
「じゃあ、難しいとか?」
「採取する薬草を独占しているMobが厄介だし......特殊モーションが苦手ってプレイヤーが多くてね」
「『苦手』......嫌な予感する」
「それでも、ユミナに見せたかったんだ」
クイーンの顔が直視できず、眼を逸らす。
「......わかった」
「これで少しは威厳が保てるかな」
「あはは。さっきのクイーン、酷い顔だったね」
やられっぱなしは性に合わないので反撃のターンに移る。
私のニヤニヤ顔を見て、キョどり始めるクイーン。
「し、仕方がないだろううううう。
「いったん、落ち着いてよ」
まーわかる。かすみちゃんでこれだ。話をわざと逸らしたけど、私自身もなかなかに恥ずかしいことを口走ってしまった。ここがゲーム内で心底、よかった。リアルなら数日は恋人の目も見れない有り様。
「クイーン、はい」
「ユミナ。いつの間に使い魔なんて高等技術手に入れたんだ」
「クイーンのおかげ!!」
「そ、そうだったな。かわいい......」
クイーンはウルウルが大変気に入ったのか、抱き締めながら歩き始めた。
吹雪は一旦止んだ。それでも、見渡す限り白一面に覆われた氷原には変わりない。地図を見るに、端から端まで山と森とちょっとした湖しかない。視認できる光景も寒々しい白い景色がどこまでも広がっている。太陽の光を浴びて、氷が輝いているように見える。
「これは、フェンリルなのか??」
「らしいけど、小さいしウルフの方が私にはあっているから、ウルウルにした」
私の発言に戸惑い、抱っこしているウルウルの頭を撫でるクイーン。
「......おまえ、強くなれよ」
「ウーン!!」
◇◆
雲一つもない澄み渡った空の下。
目的地に到着した。
「道中助かったよ......えっと、」
「レオでいい。ユミナを守るためだからな。これくらいはしないと剣闘士が廃る」
「ライオンも剣闘士になる時代なのか......」
「俺のしょうにあっているからな。戦うのに飢えているんだ」
レオの変貌に驚くクイーン。
「大きいな。それに......」
「
「いや、私は全然気にしない。それだけ修羅場を潜ってきた証拠だ。敬意を送るよ」
「ユミナといい、おまえといい。不思議なやつらだな」
「そういえば、ユミナのことなんだが」
「あん? 今まで何やっていたか知りてえって顔だな」
「うん。会うたびにユミナは私の想像を越えた速度で成長していっている」
「............」
「だから、こわいんだ。もしも、私は」
「まぁ、わかるぜ。その気持ち。ライバルや想い人が自分から遠ざかるのは歯がゆい。でも、簡単なはなしだ。おまえがさらに進めば問題なんじゃねえのか」
「えっ??」
「愛する者のために自分を研鑽するのは、おれは素直に好きだぜ」
(ユミナの従者は、本当に表情豊かだな。こちらの悩みに自分の考えをまとめて私に話してくれる。他のNPCも大概、プレイヤーと流暢に会話が成立するが、ユミナの従者は頭三つは越えている思考ルーチンを備えている。ユミナとの出会いでAIが学習したのか。それが答えなら、本当に私の彼女は最高だな)
ジィ~~~~~
「おっと、いけねえ」
「どうした??」
「実はな、俺を送ってくれた奴らがな。ユミナの表情を逐一見とけって」
レオの視線を追うクイーン。移るのはジト目のユミナだった。
「あー......はい」
「初めはなんでそこまで深刻そうな顔をだしてるんだ、こいつらはって鼻で笑っていたが......」
ユミナに近づくクイーン。その足は雪に阻まれも相まって重い足取りだった。
「えっと、ユミナ」
レオはやれやれっと顔を出す。
「ようやく言っていた意味を理解したぜ。あのヴァルゴが青ざめた顔を出した理由にも納得がいくぜ」
「ユミナ......その.....」
目の前の恋人が私の従者を仲良く会話している。お互いが打ち解けたと喜ぶ一方で、私の中の押さえきれない感情が湧き出てきた。
空気に触れ、私の体を黒いモヤとして覆う。これは嫉妬なんだろう。
クイーンと楽しく会話したいし、従者に成り立てのレオともじゃれあいたい。
クイーンが他の誰かと。しかも女性と会話しているのがたまらなく、いやだった。それにレオに何か言われて、暗い顔が一気に晴れていた。
クイーンの何かが吹っ切れたのかもしれない。レオに悪気がない。クイーンの質問に親身になって応えた。それは私の中でレオを好印象としてとらえている。
でも、クイーンを励ますのは......彼女でもある私の役目。
誰かにその役目をとられるのは......なんかすごい嫌。これは一種の独占欲なのか。
世の中の恋人同士があんなに外で見せつけているのか少しだけど、理解した。
自分の愛する相手としゃべっていいのは愛し、結ばれた者の特権。愛した相手が楽しいなら、遠くを見るのもアリなのかもしれない。
だが、余裕の持つとは。経験からできる行動で、遭遇していないと得られず、感じ取れない想い。
「ねぇ、クイーン」
ピンと姿勢を正すクイーン。
「あのね、私は......ちゃんと聞くから」
「えっ?」
「どんな内容でも、クイーンの悩みもちゃんと聞く。だから......」
クイーンを抱き締める。
上目使いでクイーンを見つめる。
「あまり、他の人と喋ってほしくない、です」
「はふぅ~ よかった。大丈夫、その時はちゃんと言うから。私はユミナの恋人だからね」
「ありがとう。そして、ごめんなさい。気持ち悪かったよね」
「まぁ、あれはあれでレアな光景だった。それに、それだけ私を大切に想ってくれているんだなって。嬉しかった。」
「ありがとう」
「だけど、」
「はい......」
「このゲームはMMOなんだから、大勢のプレイヤーを話す機会が多いんだぞ。肩の荷を下ろさないと心が持たないぞ」
「善処します」
「ま、ゆっくりでいいよ。まだ始まったばかりだし」
「うん!!」
「なぁ、俺たちは何をみせられているんだ???」
レオの背に戻る妖狐とモンスターとの戦闘を終え、戻ってきたフェンリルが呆れは表情を出す。
人の言葉は使い魔は話せない。それでも、発言者の意図を組むことはできる。そうでなければ召喚者の使い魔が務まらない。
召喚者のユミナの事も、ユミナの従者の事もわかっていないと業務に支障をきたす。だが、使い魔とて万能ではない。
ましてや、主人の愛情なんて理解はできない。使い魔はただ主の手助けをする存在なのだから。
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