第38話 反省しています......

 見ていられない空気とは、きっとこの時にあると言っても過言ではない。


 衝撃の真実と、無意識に発した絶叫の影響で「シュヴァル」の街には居られなかった。


「変な視線だね......」


「いいじゃないか。今の私達には好都合」


 黙って歩を進める。向かっているのは、クイーンさん。いや、クイーン白陽姫ちゃんが選んでくれたクエストを受注しにいく。

 内容は依頼主が求めるアイテムを採取する系統のクエスト。


 ただ、一般の採取クエストとは違い、取得条件が異なる。


「まさか、女性二人じゃないと受けれないなんて」


「他にもカップル限定クエストもあるよ」


「そっちは行かないの?」


「早く終われば、行けるけど......ユミナも見ただろう。「シュヴァル」にいるのは殆どカップル」


「イチャイチャするためにクエスト受注するけど、道中が混む......」


「正解。討伐系クエだと、邪魔でな」



「あー......なんとなくわかる」










 依頼主のNPCとの会話が終わり、目的地に進む。


「人気ないのかな〜」


「いや、報酬のイヤリングの効果もいい。目的地付近の風景も綺麗で見惚れるレベル。何時でもいても飽きない場所なんだ」


「じゃあ、難しいとか?」


「採取する薬草を独占しているMobが厄介だし......特殊モーションが苦手ってプレイヤーが多くてね」


「『苦手』......嫌な予感する」


「それでも、ユミナに見せたかったんだ」


 クイーンの顔が直視できず、眼を逸らす。


「......わかった」


「これで少しは威厳が保てるかな」


「あはは。さっきのクイーン、酷い顔だったね」


 やられっぱなしは性に合わないので反撃のターンに移る。


 私のニヤニヤ顔を見て、キョどり始めるクイーン。


「し、仕方がないだろううううう。を本本本本人の、、、、目目目目の前で......ば、ば、暴露するなんてててて」



「いったん、落ち着いてよ」


 まーわかる。かすみちゃんでこれだ。話をわざと逸らしたけど、私自身もなかなかに恥ずかしいことを口走ってしまった。ここがゲーム内で心底、よかった。リアルなら数日は恋人の目も見れない有り様。


「クイーン、はい」


 レオライオンの背に乗っているフェンリルを模した私の使い魔を手渡した。心を落ち着かせるためだ。


「ユミナ。いつの間に使い魔なんて高等技術手に入れたんだ」


「クイーンのおかげ!!」


「そ、そうだったな。かわいい......」


 クイーンはウルウルが大変気に入ったのか、抱き締めながら歩き始めた。


 吹雪は一旦止んだ。それでも、見渡す限り白一面に覆われた氷原には変わりない。地図を見るに、端から端まで山と森とちょっとした湖しかない。視認できる光景も寒々しい白い景色がどこまでも広がっている。太陽の光を浴びて、氷が輝いているように見える。



「これは、フェンリルなのか??」


「らしいけど、小さいしウルフの方が私にはあっているから、ウルウルにした」


 私の発言に戸惑い、抱っこしているウルウルの頭を撫でるクイーン。


「......おまえ、強くなれよ」


「ウーン!!」





◇◆


 雲一つもない澄み渡った空の下。


 目的地に到着した。


「道中助かったよ......えっと、」


「レオでいい。ユミナを守るためだからな。これくらいはしないと剣闘士が廃る」


「ライオンも剣闘士になる時代なのか......」


「俺のしょうにあっているからな。戦うのに飢えているんだ」


 レオの変貌に驚くクイーン。


「大きいな。それに......」




?」


「いや、私は全然気にしない。それだけ修羅場を潜ってきた証拠だ。敬意を送るよ」


「ユミナといい、おまえといい。不思議なやつらだな」


「そういえば、ユミナのことなんだが」


「あん? 今まで何やっていたか知りてえって顔だな」


「うん。会うたびにユミナは私の想像を越えた速度で成長していっている」


「............」


「だから、こわいんだ。もしも、私は」


「まぁ、わかるぜ。その気持ち。ライバルや想い人が自分から遠ざかるのは歯がゆい。でも、簡単なはなしだ。おまえがさらに進めば問題なんじゃねえのか」


「えっ??」


「愛する者のために自分を研鑽するのは、おれは素直に好きだぜ」



(ユミナの従者は、本当に表情豊かだな。こちらの悩みに自分の考えをまとめて私に話してくれる。他のNPCも大概、プレイヤーと流暢に会話が成立するが、ユミナの従者は頭三つは越えている思考ルーチンを備えている。ユミナとの出会いでAIが学習したのか。それが答えなら、本当に私の彼女は最高だな)




 ジィ~~~~~



「おっと、いけねえ」


「どうした??」


「実はな、俺を送ってくれた奴らがな。ユミナの表情を逐一見とけって」


 レオの視線を追うクイーン。移るのはジト目のユミナだった。


「あー......はい」


「初めはなんでそこまで深刻そうな顔をだしてるんだ、こいつらはって鼻で笑っていたが......」


 ユミナに近づくクイーン。その足は雪に阻まれも相まって重い足取りだった。


「えっと、ユミナ」


 レオはやれやれっと顔を出す。


「ようやく言っていた意味を理解したぜ。あのヴァルゴが青ざめた顔を出した理由にも納得がいくぜ」


「ユミナ......その.....」


 目の前の恋人が私の従者を仲良く会話している。お互いが打ち解けたと喜ぶ一方で、私の中の押さえきれない感情が湧き出てきた。


 空気に触れ、私の体を黒いモヤとして覆う。これは嫉妬なんだろう。


 クイーンと楽しく会話したいし、従者に成り立てのレオともじゃれあいたい。


 クイーンが他の誰かと。しかも女性と会話しているのがたまらなく、いやだった。それにレオに何か言われて、暗い顔が一気に晴れていた。


 クイーンの何かが吹っ切れたのかもしれない。レオに悪気がない。クイーンの質問に親身になって応えた。それは私の中でレオを好印象としてとらえている。


 でも、クイーンを励ますのは......彼女でもある私の役目。


 誰かにその役目をとられるのは......なんかすごい嫌。これは一種の独占欲なのか。


 世の中の恋人同士があんなに外で見せつけているのか少しだけど、理解した。


 自分の愛する相手としゃべっていいのは愛し、結ばれた者の特権。愛した相手が楽しいなら、遠くを見るのもアリなのかもしれない。


 だが、余裕の持つとは。経験からできる行動で、遭遇していないと得られず、感じ取れない想い。


「ねぇ、クイーン」



 ピンと姿勢を正すクイーン。


「あのね、私は......ちゃんと聞くから」


「えっ?」


「どんな内容でも、クイーンの悩みもちゃんと聞く。だから......」


 クイーンを抱き締める。


 上目使いでクイーンを見つめる。


「あまり、他の人と喋ってほしくない、です」


「はふぅ~ よかった。大丈夫、その時はちゃんと言うから。私はユミナの恋人だからね」


「ありがとう。そして、ごめんなさい。気持ち悪かったよね」


「まぁ、あれはあれでレアな光景だった。それに、それだけ私を大切に想ってくれているんだなって。嬉しかった。」


「ありがとう」


「だけど、」


「はい......」


「このゲームはMMOなんだから、大勢のプレイヤーを話す機会が多いんだぞ。肩の荷を下ろさないと心が持たないぞ」


「善処します」


「ま、ゆっくりでいいよ。まだ始まったばかりだし」


「うん!!」








「なぁ、俺たちは何をみせられているんだ???」


 レオの背に戻る妖狐とモンスターとの戦闘を終え、戻ってきたフェンリルが呆れは表情を出す。


 人の言葉は使い魔は話せない。それでも、発言者の意図を組むことはできる。そうでなければ召喚者の使い魔が務まらない。


 召喚者のユミナの事も、ユミナの従者の事もわかっていないと業務に支障をきたす。だが、使い魔とて万能ではない。


 ましてや、主人の愛情なんて理解はできない。使い魔はただ主の手助けをする存在なのだから。

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