シーズン2 二章 【海底都市編】

第44話 君に触れたい

「ねぇ。もういいよ、解放してくれない?」


 私は質問した。赤面も疲れているはずだから。なんせ、軽く一時間は経過しているから。


「嫌だ」


 頑なに抱きつきを辞めない白陽姫かすみちゃん。


「せつなは、ほっとくとを捕まえるから」


「しないよ。私をなんだと思っているのよ!?」


 お腹が締まる。内臓が出そう......


「白陽姫は悲しいよ。恋人せつなは、女なら手当たり次第、誘惑する魔性の女だったなんて」


 長時間のゲームはリアルの体には悪い。絶対に回避できない未来に突入するのは嫌だった。

 ログアウト後、私の動きを察知しているのか白陽姫ちゃんが部屋に入ってきて、今に至る。


「で、」


「『で』っとは?」


「どうやって、した?」


「あー、アリエスはね」


 両頬を引っ張られた。


「そっちじゃない」


 低い声だった。観念するしかないのか。


「えっと、アシリアさんとは「ヴァーシュ」で会いまして............」


「ふーん」


「迷子のアシリアさんを教会に案内したのが始まりで......です」


「それで、」


「色々、あって街中で買い物する仲になりました」


「ほほ〜ん」


「諸々を省くけど、アシリアさんを誘拐した奴を退治して、無事に救出した。そこからはあっていない。誓って信じてほしい」


「とりあえず、前に「ヴァーシュ」で起きた奇々怪界な事件は分かった。急に男性が地面とディープキスしていたことも、教会前で高らかない宣言していたおかしな魔法使いの女の子がせつなだって事も......分かった。はぁ〜」


「あの〜 白陽姫ちゃん?」


 私の肩に白陽姫ちゃんの顔が乗る。


「甘える」


「は?」


「今日はずっとせつなから離れない!!」


 いつもの凜とした姿はどこへやら。今の白陽姫ちゃんは、甘えが足りないと嘆く可愛らしい女の子。


 白陽姫ちゃんからキスされた。


「ち、ちょっと!?」


「せつなは私のモノだ!!!」


「きゃあ、やめてよ。てか、どこに手を突っ込んでいるの!!?!?!?!?」


「恋人の特権だ」


 いや、そうだけどさぁ〜 場所が場所だし......


「好きな人からのアプローチは最高だけど......」


「何か不満?」


「不満じゃないくて、色々疲れちゃって。”また”じゃだめ?」


 腰に置かれた手が抜ける。


「分かった......せつなも眠そうだし。今日の抱きつきはこれで終了にするよ」


「あ......ありがとう......」



「だけど、一つだけやりたいことがある」


「ん?」


「せつなのベットで一緒に寝たい」


 私は自分のベットに目を向ける。数秒のうち、白陽姫ちゃんを見る。


「え......あー......その」


 白陽姫ちゃんの手を握る。


「私も......一緒に寝たい......かな」


 白陽姫ちゃんの顔は満面の笑み一つだった。











「お嬢、頼みがある」


 ログインして、従者の超強力な拘束から脱出した私はタウロスに呼ばれて工房に来ていた。

 なんでも、大事な話があるとか......大丈夫だよね?


 工房にあった丸型の椅子に座る。

「それで、話って」


「じ、実はな......『待った!!』」


「えっ??」


「初めに言うけど、」


「お、おう......」


はまだ考えていないからね」


「......」


タウロスの顔を見る。まるでアホの子を見る大人のようだった。

哀れさが伝わってくる。


「あれ? タウロス?」


「なぁ〜 お嬢。何の話をしてるんだ?」


「違うの?」


「お嬢が驚いてどうするんだよ。そりゃあ、将来的にお嬢と婚姻は考えているけど。今はまだ......」


 脱力する私。


「良かったー.............」


「もしかして、アイツらか?」


「うん。さっきも死ぬところだったから」


 やれやれのタウロス。


「アイツららしいな。ま、アタイも似たようなもんか」


「えっ!?」


 タウロスのウラニアの指輪が復活していた。リーナの力を借りて、破壊される前の状態に戻った。嬉しさと悔しさがせめぎ合っている自分がいる。


「お嬢に言わず、勝手に実行したことはすまないと思っている」


「気にしないでよ。でも、私が解決したかったから。悔しいよ」


「穴埋めってわけじゃねえが、お嬢に託そうと決めた」


「『託す』?」


 タウロスが取り出したのは、錆びた剣だった。剣というか短剣寄りの武器。全長は30㎝くらいはある短剣。


「この剣は、アタイの親父があるお方に託された武器らしい」


「タウロスのお父さんも鍛治師なんだ」


「うん。アタイが知る限り、最高の鍛治師だ。で、親父が星霊に任命された直後に渡された。『お前が心の底から信頼できる者に渡せ』ってな」


「その言葉通りなら......」


 タウロスは、錆びた短剣を私の前に出した。


「あぁ、アタイは決めた。お嬢、この剣を使ってくれ」


「いいの?」



「アタイが惚れた相手が使うなら、鍛治冥利に尽きるってもんさ」


「ありがとう、使うよ!!」


「だがな、いくつか問題がある」


「問題って?」


「まずは......お嬢には『ムートン』に行ってほしい」


『ムートン』、八番目の街。生産職がメインで活動しているとされている巨大商業大都市。生産に必要なアイテムや素材が全て揃っているとか。しかも、大都市であって服だけでも事細かに分かれている。布でできた服も、男女別れていたり、用途によっても細分化されている。鉱石を扱う工業や採掘場、面白いのが盆栽アイテムまで扱っているお店がある。巨大なホームセンターって、前にカステラが言ってたっけ?


「『ムートン』で何するの?」


「酒を買ってくれ」


「お酒? 飲むためなら、ロベルティーナさんが来た時に貰ったのあるし......」


 フェーネの様子を見るために護衛なしでロベルティーナさんが来たことを思い出していた。

 あの時は大変だったよ。妖精の国の女王自ら、私に女王とは何かを講義や作法をレクチャーしていたんだから......


 フェーネもフェーネで、母親に会いたくないお年頃なのか速攻で、姿消したし。だから、余計に矛先が私に向けられた。

 ま、無事捕獲されたフェーネは母親から熱いお仕置きをされたので、ざまぁっと思った。



「あれは、中々な物だったよ。レオと二人でいただきよ。そうじゃなくて、鍛治の火力上げに必要な酒が必要なんだ」


アイテムの素材と言う意味か。


「鍛治は料理じゃないよ......」


「アタイにとっては、料理と同じだ。鍛治は」


「了解。知り合いにも聞いてみるよ。あとは?」



「最先端の技術と膨大な魔力」


「魔力は何となく、わかるけど。『最先端の技術』?」


タウロス曰く、正確にいえば、最先端の前時代の神大技術が必要とのこと。


再起不能の短剣を何度か打ち直しして分かった。通常の修復では絶対に直せない事実に。タウロスの父親は鍛治に関しては愚直までに素直だった。だから、何でも打ち直しで解決すると考えていた。それでも、腕はいいからな、気づいていなかっただろうし、考えもしなかったと。実際、タウロスもその考えしかなかった



「じゃあ、今は考えがあるんだ」



「お嬢と契約したドラゴンの翼を見て、ある答えが出た。この剣、所々にドラゴンと同じ物質が使われている」


「それで、最先端の技術ってわけか」



「どれも、難しいと思うが......」


「このユミナ様に任せなさい!! 必ず全部、入手するから」


「頼むぜ、お嬢」


「といっても、三個のうち二個は完遂してるし」


「うん? それって」

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