第86話 カラフルあやしはバレ、魔剤は降り立つ

「も〜う、ごめんって」


 学園の敷地内、風を感じながら木の下でカプリコーンの髪を優しく触っている私。


「あ、あんな......」


 自分が体験したのが事実だと認識し、私の膝で縮こまっている。


「もう二度とおやめください」


「なんでよ、もっと触りたかったのに」


「い、いくら......ご主人様の命令でも......私は......」


 カプリコーンの耳元で囁く。


「そうやって強情だと、この先......やらないわよ」




「えっ、えっと......」


 顔が赤い。体は正直ね、ふふう〜

 チョロいわね!!


「まぁ、それは後々考えるとして〜」


「ほ、ほんとうに......やっ、やってくださらないのですか」


「だって、嫌なんでしょう? じゃあ、やらない〜」


「いえ、でも......」


「ハッキリ言わないと、従者の中で存在感がなくなるよ」


「と......き......」


「うん? 聞こえないよ〜」


「時々でいいので......お願いします」


 私は両手を合わせた。にっこりとした笑みをカプリコーンに見せる。


「はい、よくできました!!」


「......どうして、あのヴァルゴがあのような姿になったのかわかった気がします」


「そりゃあ、ヴァルゴは私の従者第一号だからね」



 思い出深い口調で喋りながらカプリコーンの髪を触っていると誰かが私たちの方へ向かってくる。


「敵? でも、学園内は戦闘は禁じられている」


「許可アリで周りの施設を壊さなければ戦闘は問題なく行えるはずです」


「私、許可していないんだけど......あれ?」


 見覚えのある女性だった。





「やっと、見つけたぁあああ!!!!」


 猛ダッシュしてきたのは、以前私が屋根を壊し、弁償でお金とお化け素材を提供したプレイヤー。

 名前は確か......


「カステラ......?? どうしてここに?」


 スキルとスタミナをフルに使ったのか疲労感が全身から溢れている。手を膝に置き、肩で息をしていた。

 いつの間にか膝枕していたカプリコーンはいなくなり、座っている私の後ろに立っていた!? 気づかなかった......


「ようやく、見つけた......ユミナ」


「いくつか聞きたいことがあるけど......また、会えて嬉しいよ」


「それは私も同意見。で、質問がある。ユミナがくれた素材、やばい」



「あれ、やばいよね」


 お化けたちが着ていた布がそのまま布切れとして素材になった。布素材を乱獲した結果、私の装備品は布系が多い。

 布は見た目や防御力が鎧系の装備品に対して大したことがないと見られがち。だけど、そこはウチの鍛治師タウロスが最高の腕で鎧装備にも太刀打ちできる布装備を作ってくれた。




「ユミナが装備しているのも......やばい?」


 カステラの語彙力が低下しているのがわかる。もう『やばい』を強調しながら喋っていた。


「いや、これは学園限定装備」




 〜装備欄〜

 頭:リーリエの魔法使いの帽子【月白】

 上半身:ヴィクトール制服のローブ【洋紅】

 下半身:ヴィクトール制服のスカート【洋紅】

 足:マリアーヌ製の安全革靴【白練】


 右武器:熱火の魔法棒

 左武器:


 装飾品

 ①:白のマリアーヌ製革手袋




『熱火の魔法棒』はタウロスが作成してくれた細長い棒、演奏で指揮者が使うタクトに似ている。深みのある真っ赤な紅色の杖。通常呪文は勿論、使用可能。『熱火の魔法棒』の効果は『火属性呪文の威力アップ』が付与されている魔法杖。


 防具品はヴィクトール魔法学園で購入した限定アイテム。


 今までの装備品では、追いかけられる案件。逃げの一手という手段でもあるが、せっかくの限定装備。ヴィクトール魔法学園以外では購入ができない、ある意味希少性の高いアイテム。人は”限定”という言葉に非常に弱い。私もその一人。


 しかも面白いのが自分だけの装備品を作れる点。ヴィクトール魔法学園で購入できるアイテムや『セルパン』の鍛治師・繊維師に依頼した生産品全てがカラーチェンジ可能。全部同じ色、一部だけ変色など装備品を自分色に染める。

 これは『セルパン』を出てからも適用されるのでプレイヤーから注目される者もいる。






 ヴィクトール魔法学園はエンドコンテンツでもある。『リリクロス』が解放される前までは魔法使いの職業を取得しているプレイヤーがこぞって入学していた。リアルみたいに授業を受ける必要はなく、学園を自由に過ごすことができる。


 だが、リアル時間で一ヶ月に一度。永住試験なるヴィクトール魔法学園のクエストが存在し、合格点を取らないと一発で学園を退学させられる。そして、二度と入学ができない仕様となっているらしい。


 初期職業を魔法使いにしていたプレイヤーは『セルパン』に来るまで魔法を使用してきたのでヴィクトール魔法学園での魔法の訓練も容易くこなせる。


 だが、恩恵の価値を知り、仮初の魔法使いになったプレイヤーは入学するための初めの試験で必ず不合格を喰らう。


 一度入れば恩恵を受け続けられる、そんな甘い世界ではない。ちゃんと魔法を向上させた優秀な魔法使いだけが華やかになれる、と攻略wikiに記されていた。




「ユミナ......聞いたよ、入学テストクエ。派手にやったって〜」


 私は遠い目をした。天気いいな〜


「はぁ〜 忘れてよ」


 私が『星刻の錫杖アストロ・ワンド』ではなく、『熱火の魔法棒』を装備している理由の大部分は最初の入学テストクエスト《ヴィクトール魔法学園:入学テスト、魔法使い技能試験》が原因だ。



「”G”と”V”まで強化された呪文。ユミナのMPがいくつか知らないけど、無尽蔵での連発使用。周りにいたプレイヤーがドン引きしていたらしいじゃん!!!」


「だって、教官NPCが『君の全力の魔法を見せてもらう』なんて言うから、つい」


「『つい』で、試験用のゴーレムが復元不可能なレベルまでのダメージ。変なフラグを踏んだのか誤作動なのか、控えの試験用のゴーレム100体がユミナに迫り、全てを一人で倒した。加えて、一連の行動をハイテンションでやったのに、『つい』は通用しないよ〜!!」




 向かってくる方が悪い。カステラの言う通りで、変なスイッチが入った試験用のゴーレムが約100体迫ってきた。試験官が静止の呪文を発動しても全く効かなかった。周りのプレイヤーには目もくれず私を標的にしていた。


 逃げの一手は私がジリ貧で倒される。仮に倒されたら入学クエが未達成になって入学もできないかもしれない。そう考えた私は迎撃しにいった。隣にいたカプリコーンには傍観をお願いしてから。



「......はいはい、私が全部やりました」








「それにしても、鍛治師のカステラが何で魔法学園にいるの?」


 学園内の草原で寝そべっているカステラ。


「布素材を集めるため」


「あっ、すごくシンプルな理由。さすがは生産職」


「『ムートン』でも同じ素材はある。でも、『ムートン』だとかなり高額でね。魔法使いが使っているローブやマント類の装備品に使われている素材は『セルパン』で集めた方が早いんだ〜 三ヶ月いても素材集めは飽きないよ」


 カステラが言った『ムートン』は八番目の街。別名、生産職の街。生産職の職業を所持しているプレイヤーが活動拠点にしている街。巨大な商業都市となっているらしい。



「学園の試験ってむずいって聞いたよ」


「気合いと根性」


「何という熱量......」


「そういうユミナは?」


「私は魔法使いの職業を進化させるのが目的」


「な〜るほどね!!」



 ヴィクトール魔法学園では魔法使いへの手厚いサポートがある。その一つとして魔法使い専用の職業クエストを受注できる。


 依頼者によって、取得できる職業が異なる。イカつい筋肉質の男性NPCからは”魔筋師”。魔法を操れる武闘家と表現した方が早いかな。他には魔法の効果が付与されている剣を使う”魔剣師”、私の現状の目的でもある”魔術師”など多種多様な魔法使いの職業を取得できる。


「カステラは上級職、手に入れた?」


「”魔薬師”と”魔鍛師”かな」


「......本当にやりこんでいるんだね」


「ここの先輩としてアドバイスするね。”魔防師”と”魔結師”だけはオススメしない」


「何で?」


「受注してくれる教師NPCが鬼畜の所業の化身みたいな人たちだから」


「そんな大袈裟な......」


「”魔防師”は防御魔法を向上させ、タンク並の耐久力が手に入る。でも、イノシシや猛牛などの気性の荒い魔法モンスターから突進攻撃を受け続けないとクエスト完了できないんだ」


「はぁ!?」


「”魔結師”も似た内容。”魔防師”と違うのは結界魔法を出した状態で魔法モンスターの突進や魔法攻撃を受け続け、結界にヒビがなければクエストクリア。一つでもヒビがあればお仕置きとしてフルコースの魔法攻撃を貰える」



「......わかった。やらないことにするよ」


 何で真凪まながヴィクトール魔法学園をドMの巣窟だって言ったのが少しわかった気がする。一つの魔法使い系統の職業を取得するのに大変な工程があったのか......まぁ、”魔法使い”より上級なので価値はあると思っている。



「さてと、行きますか」


 立ち上がるカステラ。


古今道材ここんとうざい古森ふるもりに行かないと」


 古今道材ここんとうざい古森ふるもりは魔法使いに必要な素材をドロップするモンスターがいたり、素材が多く採取できる。生産職としてはワクワクするフィールドなのだろう。


「クリーント先生のクエストを完了しないと......」


「頑張って!」


「ユミナも......そうだ!!」


 カステラが渡したのは青色の液体が入っている瓶。




 ・覚正する集中薬エナジー・ハワイアン

 青の液力は眠りすら打ち消し、自身を奮闘せす。byカステラ


 一定時間、視界系スキルの持続時間が上昇。

 再度、服用するには二時間経過するべし。

 もし、連続使用した場合、【睡眠】のバッドスータスが半日続く。


 ※多用はオススメしない。







「......これって、もしかしてエナ○ー○リンク?」


「そう、○ナジード○○ク。薬草素材で作ったら、できた!!」


「50個も貰っていいの?」


「いいよいいよ、覚正する集中薬エナジー・ハワイアンを渡してもユミナから貰った素材に比べれば大したことはない」


「......あれって、そんな価値があったんだ」


「じゃあね!!」


 カステラは草原を駆け、古今道材ここんとうざい古森ふるもりがある方角へ走り出した。


「カプリコーン、私たちも行こうか!」


「かしこまりました、ご主人様」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る