第113話 規格外のKICK!!

 身体強化が大幅にかかっている今の私にはリーナの太刀筋がスローモーションのように見える。


 覇銀の襟飾ヴァイセ・エーゲンを引き抜いた事で顕現した真祖の力。


 正式名称は『戰麗アドバンス


 強く、美しく前に進むと言う意味を持つ。真祖封印アイテムにはいくつかの種類が存在する。私の場合は造花状態のブローチだった。マリアさんの場合はサークレット。リーナの場合は歯車型のネックレス。他にもロザリオや釘、果ては獣の爪まで多岐に渡る。


 覇銀の襟飾ヴァイセ・エーゲンはいわゆるパワーアップアイテム。私が譲り受けた覇銀の襟飾ヴァイセ・エーゲン、『戰麗アドバンス』モードは装備者を効果を十二分に発揮できる体へと変化させる。


戰麗アドバンス』は魔法攻撃力、足技の威力倍増、移動速度上昇、時間経過でMPの自動充填の効果を持っている。


 白銀の光を纏う事で私は真祖と同等の力を得られる。もちろんデメリットも存在する。使用時間が決まっている特殊モード。時間は180秒。過ぎると『戰麗アドバンス』は解除され、造花のブローチへ戻る。二十四時間経たないと再使用ができない。


 さらに一定時間、スタミナと俊敏値にデバフがかかる仕様となっている。覇銀の襟飾ヴァイセ・エーゲンの効果テキストに記されていたが、スタミナと俊敏値へのデバフは状態異常回復では直せない。時間経過しないと解除されないモノとなっていた。


 短期決戦も良いところ。本来なら慣れるまで特訓過程があると思うが生憎ぶっつけ実践をしたため、戸惑いを見せている。


 通常なら速度の乗った攻撃なのだろうが、切先が私に届くモーションが遅く流れているため動作がやや大きく見えてしまう。後方へ回避も容易い。だが、リーナもまた同じ特殊状態。後ろに避ければ、次行動を許してしまう。


 踏み込む、首だけを回避行動に移し最小限動作でかわす。回収した星刻の錫杖アストロ・ワンドの先端をリーナの胴へ当てる。



「『フレイム』!!」


 星刻の錫杖アストロ・ワンドを延ばし、槍の突きを。真っ直ぐ水平に星刻の錫杖アストロ・ワンドを投擲、放つタイミングで『フレイム』を使用。『戰麗アドバンス』で魔法攻撃力が上がっている。高速突きと特大火炎魔法でリーナは後ろへ吹っ飛ぶ。

 強烈な攻撃を喰らったことでくの字形になりながら空中を移動。



 地面を踏み、強く穿つ。移動速度が上昇しているので一歩前に進むと、第三者からすれば私の姿が消えたように見えている。


 水平に飛ぶ星刻の錫杖アストロ・ワンドを移動中に回収したかったが、途中で飛距離が失われ、地面に落ちる。

 拾うために速度を緩めるとせっかくのチャンスが無駄になる。後で回収すると頭で覚え、ウィンドウ操作で武器を変更。熱火の魔法棒を装備し、距離を詰める。「 譲渡変化ギフト」は継続しているのでコーちゃんの能力がまだ、熱火の魔法棒に宿っていた。


 コーちゃんの超音波は私の魔法として使うことができるらしい。


「『ソニック』!?」


 超音波魔法の『ソニック』の攻撃を受けたリーナは錯乱状態になるはずだった。






「足癖悪くない!?」


 右足で熱火の魔法棒は上空へ。


「魔法がダメなら拳よ!!!」


 鬼蜂の拳キラー・スティンガーを装備。


「【ボンバーザック】」


【ボンバーザック】はパンチ力が向上する補正が入る、拳武器専用攻撃系統スキル。

 鬼蜂の拳キラー・スティンガーで相手への打撃を繰り出すために、力一杯に握り、拳を伸ばした。


「テレポート......」


 鬼蜂の拳キラー・スティンガーは虚空を殴る。


 背筋が凍る。


「【血の妖クリムゾン】」


 体を捻り、鬼蜂の拳キラー・スティンガーを盾代わりにして、攻撃をガード。

 前に危うく全損仕掛けた攻撃。【牙城のガーディアンズ幻影・ファントム】で耐久値は減らずに済んだ。


「真祖になった事で時幻族の力が使える様ね」


 拳で剣攻撃を弾き続けた。


 限定的で、を付けた方がいいわね。そして、『戰麗アドバンス』になった事でリーナのモーションも視えた。

 右手にはめている手袋。甲部分に付いている砂時計。初めは飾りだとばかり思っていた。まさか、砂時計を180度回転で瞬間移動していたとは......


 砂が落ちている間はノータイムで発動できる瞬間移動ができる。でも、無制限ではない。砂が全て落ちてから幾分か待たないと再使用はできないらしい。


 砂はまだ落ちている。落ち切るまで待つ時間は私にはない。もうすぐ『戰麗アドバンス』が切れるからだ。


「ここでデカい一発を......」


 魔法は使えない。杖二本ともフィールドのどこか。星刻の錫杖アストロ・ワンドを所持していないから【煌めくシューティング・流星スター】は事実上、使用不可。リーナが接近した所を、鬼蜂の拳キラー・スティンガーで......ダメだ。拳スキル、【衝撃拳】と【烈闘】ではどうしても威力が足りない。


 あっ!? 確か......『戰麗アドバンス』の効果に......



「こんだけ近いから、痛いわよ!!!」


【霧風】起動。蹴りスキル、足に風を纏わせる。命中時、貫通力向上、敵の攻撃をキャンセルできる。


 炎削の鷺ドリューエンで足刀蹴り。ハイヒールだからと侮ってはいけない。ヒールの特性上、かかとの力が圧倒的に高い。殺意マシマシのかかとでの攻撃。同程度の破壊力と貫通力を『戰麗アドバンス』やスキル使用で獲得できる。当たれば、痛みでは済まない。胴体への攻撃がリーナに効き、衝撃で折り曲がる。さらに前に出ていた勢いの反動で、後方へ弾け飛ぶ。うめき、呼吸ができない状態になっているリーナ。


「残り......十秒」


戰麗アドバンス』の疾さで一瞬にして、距離を詰める。


 左足を踏み込み、右足を振るう。


「【印能量マイティー】、発動!!」


 顔面目掛けて、回し蹴りを炸裂。


 銀色の軌跡が、宙へ美しく弧を描く。

 直撃。強化蹴りの攻撃が内側にまで到達し、叩き込まれた。




 リーナは地面に崩れ落ち、私は足を地面に着けた。


戰麗アドバンス』が解除される。白銀の光はなくなり、黒のブローチへ形が戻る。







⭐︎⭐︎⭐︎

リーナの手袋

吸血姫は遡るブラド・タイム


甲部分にある砂時計を回転させることで、砂が落ちている間は瞬間移動を可能にする。

砂が落ち切ると体に負担がかかり一定時間、動けなくなる。

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