第114話 敗者は勝者の言いなり

リーナは目を開く。

青く、曇りのない青空。


「起きた?」


視界を奪ったのはさっきまで戦っていた女性。


「......負けました。完敗です」


「どうも〜」



起き上がり、私と対面するリーナ。


「数々の非礼、申し訳ありませんでした」


「許します」


「あの.....」


「うん?」


「わたくしは......ゆ、ユミナ様の元に行ってもいいですか?」


「......理由を聞いても?」


「見たいんです。いろんな事を。漠然とした言葉で申し訳ありませんが、それでもユミナ様と同じ景色を見たいんです。わたくしはもう少し......、いや、絶対に強くなりたいです」


「......」


「ダメですか......」


「いいよ!! ただし......私と同じ景色を見ただけでは強くはなれない。あくまで強くなるのはリーナ自身。常日頃から研鑽する様に、ね!!」


「わかりました。よろしくお願いします、ユミナ様」


「そういえば......敗者は勝者の言いなりになるんだっけ?」


ビクッと体を震わせるリーナ。


「覚悟はできています。何なりと御命令を」


「両手を広げて」


ハテナマークのリーナ。



分からないけど、やらないとっと腕を広げるリーナ。


「こ、これでいいですか?」


リーナは大きく両手を広げたままユミナを見る。

真剣な表情そのものだった。




「では......」


リーナに近づく私。

戦闘中には、気にする余裕はなかった。そばに来て改めて実感した。

やはり、マリアさんの娘だけあって美形だ。期待できる。美人の香り......いただきます!!


ゆっくりと優しく抱きしめる。


触り心地はいい、高級羽毛布団にくるまっている感覚。一度入れば抜け出せない魔力がある。

抱き合っただけではHPやMP、その他諸々のステータスは回復しない。でも、私自身は心の底から幸せに満ちている。


次は......


「リーナ、嗅がせてね」


「えっ!?」


首筋に鼻を当たる。

リーナの体は今、かつて無いほど熱くなっている。命令とはいえ、親族以外と肌が触れる機会がなかったリーナにとっては未知の感覚。自分と密着状態にいる女性は、先ほどまで死闘していた鬼気迫る女性と同一人物なのかとリーナは困惑していた。でも、不思議な感覚。誰かにギュッとされるとこんなにも幸せになれるなんて......


リーナの腰に置かれた手が剥がれる。


離れ、再び対面したリーナ達。リーナはユミナを見つめていた。


ユミナは泣いていた。


「だ、大丈夫ですか!?」




私は地面へ崩れ落ちた。


「ダメだった......」


「えっと......何がダメだったんですか?」


私は地面目掛けて大声を出した。


「嗅げなかったぁぁあああっ!!!!!!」


びっくり目になるリーナ。全部見ていた従者達は呆れの境地。


「なんでよ、どうして!? 姫ならきっと香りが実装されていると思ったのに。私の芳香療法への道は険しいって事か」


子どもの様に地面を転がっているユミナを見て、リーナはクスッっと笑う。


「面白いお方ですね」


それ以降、誰も何も言わなかった。ユミナに何か進言しても我が道を進むからだ。目的のためなら手段を選ばないのがユミナ。

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