第47話 美しい姿には必ず何かが隠れてる

「お、お嬢様……??」


 ストレージから黒色のマントを取り出した。


 マントに覆われたヴァルゴはキョトンとした表情。


「……え、えっと」


「ダメだよ」


 自分の胸に手を置く。カジノ会場に私の声が響く。




「ヴァルゴは私のもの、なんだから!!!!!」




 私の言葉に、周りにいた人々は目をパチクリしていた。

 それは、ヴァルゴも同様だった。



「あ、はい。そうですが……?」


「ヴァルゴ......私のために、綺麗なドレスを着て、私のために告白をしてくれたことは......嬉しいし、私には勿体無い従者だって痛感させられた。こんなに誰かに愛されることがなかったから」


「お、お嬢様......」


の事を誰よりも見ていたのは、ヴァルゴだった。長く一緒に過ごしてきた相手だから、本人が満足しているなら、と言わなかったけど......一回、ちゃんと言おうと思う」



 一歩前に出て上目遣いでヴァルゴを見た。


「私以外の人に、肌を見せないで」


「............っ」


「ヴァルゴの行動は全て、私のためのもの。ヴァルゴが周りに興味ない素振りを見せて、目の前の私に自分を魅せつける行為は、徐々にエスカレートしていっている。それがダメだとは私は一切思わないし、咎める気もしない。でも......嫌なの。ヴァルゴの体を誰かに見られるのは……嫌なの。貴方の全ては私のモノ。だから、私と貴女だけしかいない場所で魅せてよ。お願いだから......」


 必死の叫びが通じたのか涙を流すヴァルゴ。


「......わかりました。お嬢様」


「ヴァルゴ......」


「私は焦っていました。アシリアがお嬢様に、直接的ではないとはいえ、結婚の宣言をしてしまった。あの時......自分の心が張り裂けそうな勢いでした。このままだと、私はお嬢様から見放されると感じて......自分の体を使って......誘惑しました。お嬢様に振り向いてもらえるなら、この体も安いものだと。でも、違ったんですね。考えすぎでした。お嬢様はちゃんと、私を観てくれていた。それが分かっただけど、安心です!!」



 黒いマントが宙を漂う。視線は次第に上から下へ。即座に着替えたヴァルゴ。いつもの騎士の鎧だった。


「行きましょうか、お嬢様」


 手を出された。私はヴァルゴの手のひらに、自分の手を置く。

 握った手は徐々に、移動する。指と指が交差し、恋人つなぎへと変わる。


「ドラン、みんな!! 行くよ!」


 私の声に反応した、使い魔たち。床に転がっている生きる屍を超えて、私たちの元へ駆け寄ってくた。





 肌を見せないことには成功したが、かえって状況が悪化したといえる。



 私の腕に抱きつき、縋るような掴み方をしてきた。潤んだ瞳のヴァルゴは、自分がなのだと実感している。


 私は、空いている左手で頬を掻きながら、苦笑していた。


 さっきまでの大人な女性はどこへやら。実際にあの場で、迫られたら抗えなかっただろう。それほどまでに大胆なドレスのヴァルゴは魅力的だった。今回は色気全開すぎて、危なかった。何はともあれ、私にだけ魅せる口実ができたのは嬉しい事。私の従者たちや仲良くさせてもらっているフレンドまでなら多少の露出した姿は全然、良いけど。有象無象のプレイヤーに見せてあげるほど、お人好しではない。



 カジノ会場を歩く私たち。


「それにしても、お嬢様」


 私の耳元にヴァルゴの唇が近づく。


「ち、ちょっと!!?」


 戸惑う私を尻目に、囁く声を出すヴァルゴ。


「独占欲、強いですね!」


「はっ? 誰のせいよ」


「従者に責任を負わせるとは、とんだ御主様ですね」


「......これ、私が殴っても許されるよね?」


「でも、ありがとうございました」


 唇にキスをされた。再び、カジノ会場が静寂へ包まれる。

 ヴァルゴの両肩を掴んで、密着した体同士を離した。



「い、いきなり……何を!?!?」


 人差し指を私の唇にそえる。


「何も言わないでください。しっー、ですよ。ユミナ様♡」


 しばし放心状態。前を歩く美しい従者は、色っぽい笑みを浮かべていた。



「ヴァ……」


 大きく息を吸って、声量とともに吐き出した。


「ヴァルゴのバカっ!!!!!!!!」


 私の大音量の叫び声を物ともしないヴァルゴは前へ歩き出していた。


「あっ、待ってよ。主を置いていくな!!!!!!!」

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