第46話 絶世の美女がドレスを着たら
状況を一旦、整理しよう。
今私たちがいるのは、『ムートン』最大級のカジノ場。高級ホテルを思わせるグランドカジノを中央に『ムートン』のひと区画は深夜を超えても明かりが消えることはない。
入り口から大理石の床と目が眩むほどの光源、巨大なシャンデリアが人々を驚かせる。黒服のゴッツイNPCが会場内を監視、揉め事を処理するために従事していた。
一般プレイヤーは一階〜三階までは自由に出入りが可能。四階から上には、低階層のディーラーNPCのクエストもしくは、献上金(カジノ内ではコインが該当する)を奉納すれば上がれるシステムとなっていた。
私が無心でプレイしていたのは、一階にある、東京ドーム二個分だとかの敷地面積には数えきれないゲーム台の一つでもあるスロットマシーン。他にもカードゲーム、スロットゲーム、ルーレット、さまざまな賭け事が行われている。
人は楽しみ、また賭けに負け、惨敗する人。一攫千金を夢見る人たちがひしめき合っている。
タウロスのお使いで、鍛治に必要な材料集めに入った私たちは、景品内に目当てのアイテムを発見した。
『デリシャス・メイブリー』こそ、私たちが欲しいお酒。ただ、必要コインの枚数が、1億枚とアホ運営と言いたくなる量だった。まー、その数も私の輝く剛腕のおかげで無事に目標量にまで到達した。
ここまでは整理した。問題はその後だ。
振り返った私の視界にはヴァルゴがいた。うん、当たり前のこと。私の一番の従者なのだから。
「どうかしましたか、お嬢様?」
ふっと笑みを浮かべるヴァルゴ。何度も見ているヴァルゴの笑みなのにいつにも増してドキドキしている自分がいる。
ヴァルゴの笑みに当てられ、カジノ会場は華やかな雰囲気に彩られる。加えて私の動向を知ろうと周りにいたプレイヤーは、ヴァルゴの美しさに全員、惚けていた。
「ヴァ......ヴァルゴ。あ、あんた......」
立っていたヴァルゴに、狼狽し、わずかな言葉を絞り出すしかできなかった。
「なんちゅう、格好してるのよ!?!?!??!」
今のヴァルゴは、鎧姿ではない。
◆
胸元が大きく露出した銀色のスパゲッティストラップのドレスに、高価なネックレスをつけて美しく着飾っている。
大胆なドレスでカジノ会場に現れた美女。暴力的な胸と美脚を露出するドレスに私含めて周りの人々の目を釘付けにした。
ヴァルゴが着ているシルバーのロングスカートのドレスは、極めて露出が高く、おそらく一歩動くたびに魅惑な肢体がずれて見えてしまう。防御面で考えれば、これほど頼りないものは存在しない。
ある一人の最愛に凝視させるためにものすごい自己主張をしている胸部。
高いヒールを履いたことでただでさえ、等身が高いヴァルゴはさらに高く遠くからもはっきりと個人を特定できる。青紫色の髪が、今日に限って一段とキラキラしている。シルバーのドレスはゴージャスさ100億点。
う〜〜ん。ドレスって言っていいのか正直わからない。肌色多めの背中開き、魅惑のウェスト、見えてしまうヒップ。脚の脇に入っている深いスリットは、太腿どころかウエスト付近まで切れ上がっている。そのせいで余計にヴァルゴの美脚が眩しい。ドレスの構造的に、あれ……絶対に穿いていないよね??
ハリウッド女優や高級クラブのホステスが霞むレベルの美しさが私の前に立っている。
ヴァルゴのドレス姿を目撃したプレイヤーは幸運に恵まれているのだろう。人々は歓喜し、倒れる者まで出現していた。実際、カジノ会場はちょっとした騒ぎになっている。
セクシーの権化のようなオーラが人を惹きつけている。
まー……今までの事を考えると、周りなんてどうでもいいのが私のヴァルゴだ。
ギリギリ危ないパーティードレスを着ても、男女問わず息が荒くても気にしない。
「色々、言いたいけど……まずは。何故、そんなドレスを着たの?」
「お嬢様に見せたくて♡ 好きな人に、少しでも綺麗に姿を見せたいと思うのは女として、当然です。私の場合は......最愛の人が同じ女性だった、ですが......」
「や、やめてよ......恥ずかしい」
頬を染めながら言い放ったヴァルゴの言葉に、耐えきれなくなり、視線を外してしまった。
「うん、綺麗だよ。私のためにありがとう!! でもさ、過激じゃない?」
私がわざと周囲を見る。つられてヴァルゴも見たが……
「うん? そうですか? 私は至って普通のドレスだと思いますが」
ドレスが舞う。やめて、お願い。運営から修正が入るから......
意味がわからないって顔で悩むヴァルゴ。自分の服装がやばい格好って、なぜ、分からないのか頭を抱える私。
私を覗き込む表情は魅力的だ。私がいる場所まで手に持っているグラスに入っているお酒を飲んだのか。ほんのり頬が赤く染まっていた。ドレスの前面からとび出した豊満で圧倒的存在感がある胸が至近距離にあった。
いつも見慣れているのに、今日は無性に吸い寄せられる。だが、私とて、人だ。流石に公衆の面前で
困惑している私に、ヴァルゴがフッと笑う。
「戸惑うお嬢様、可愛いですね!」
「と、戸惑っていないし!? 勘違いしないでよ」
自分の行動が最愛の人をドキドキさせたのが余程、嬉しかったのか。はたまた作戦成功への勝利なのか、私を見ているヴァルゴの笑みは悪戯っぽかった。
「もぉ〜 コイン、落ちていますよ」
突然の魅惑的な美女の登場で、足元に置いていたカジノコインが床に散らばっていた。一応、システム上落ちているコインは全て私のもの。誰かが拾っても自分のものにはできない。
コインを一枚、一枚拾い上げるヴァルゴ。
「ち、ちょっと!?」
「はい?」
私は思わず、動揺した。
コインをしゃがんで拾っているヴァルゴ。しゃがんだ態勢なので、胸元に注意がいく。私と同様にヴァルゴの体勢に目を奪われ、見惚れているプレイヤーたちがいた。死角があったらどんなに良かったことか。現状、私とヴァルゴの周りには遮蔽物はない。だからなのか、人々が注目の的でもある私たちを無意識に見てしまうのは仕方がない。それが人の性ってもの。
でも......
「大事な物なんですから......」
「あ、ありがとう......」
コインをストレージに全て入れ終えた私。
顔を上げ、ヴァルゴを見る。私の真剣な表情にヴァルゴは畏れていた。
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