第44話 乙女座のバニーガールはやはり目に毒だった

『ヴァーシュ』の宿屋に入る私とヴァルゴ。

 部屋に入るなら、私は頭に被っていたウサギの被り物を取り、装備を変更した。


「視界が狭い以外......何とも使いづらい頭装備だった」


 私は手をうちわ代わりにして仰いでいた。


 籠った声のぬしはヴァルゴ。ヴァルゴからは呆れたような感じが滲み出ていた。


「でしたら、着けなければよろしかったと思うのですが?」


「仕方がないでしょう。ここはあの教会から近いのよ」


 何かを思い出したかのように手のひらを合わせるヴァルゴ。

「あぁ〜 お嬢様が高らかにアシリア様を助ける宣言した。あの教会ですか」



 ベットの上で項垂れる私。


「それを言わないでよ......ヴァルゴのいじわるぅ!」


「ふふ、私はカッコよかったと思いますよ」


 自分の瞼を手で広げ、目を見開くポーズを取っているヴァルゴ。


「お嬢様のご有志は私の眼にしっかり記憶していますので、安心してください!!」


「安心できるかぁああ!! 主を気遣おうとするなら、その黒歴史を記憶から抹消してくれるかしら」


「それは、置いといて......お嬢様」


「置くな!! 最優先事項で実行してください。で、何?」


「私のこの見た目......お嬢様は私をどうしたいのですか?」


「いやぁ、似合っているわよ」


 私の前に立っていたのは大きな灰色ウサギの頭部を被るバニーガールのヴァルゴだった。




『ヴァーシュ』の街に再び入った私たちは何故か追われていた。私もだったけど、八割くらいはヴァルゴが目当てだった雰囲気。それも全員、女性ときた。宿屋までまだ距離があったが、包囲網を掻い潜る為に無い頭から絞り出した回答が変装だった。謎のプライドから『乙女の星騎鎧』以外は装備したくない。だけど、今の状況は私にとって死活問題。

 目を細め、いいから変装用装備を着けなさいと無言の圧力アピールした私にヴァルゴは渋々、従うのであった。


 色違いのウサギの被り物。名前は『ウサギのかぶり物』と『ウサギの着ぐるみ』。

 直球すぎる名前に反せず、装備した私はまるで人間大の白いウサギになっていた。

 氷属性の攻撃を軽減できる効果が付与されているけど、現状使う機会がない。例え使う機会があったとしても多用はできない。『ウサギのかぶり物』を装備すると、ウサギの目の部分しか外界の情報が入ってこない。その目の部分も非常に狭く、正面くらいしかハッキリ見えない仕様になっている。なので、あまり使いたくない装備となった。


 因みにヴァルゴの方は少々......ヘンテコな格好になった。

 頭は私と同じ『ウサギのかぶり物』を装備している。白の私に対してヴァルゴは灰色の『ウサギのかぶり物』だった。

 だけど、『ウサギの着ぐるみ』は一つしかなかったので......この機会に着せ替えを行うことにした!!


 未来の自分は過去の自分を置いていく。ごめんなさい......過去の私。




 灰色の『ウサギの被り物』と『魅惑の燕尾服バニースーツ』......『魅惑のヒール』。

 ウサギの頭だけど、首から下は定番の黒色のバニースーツで、少々アンバランスな格好のバニーガールになっていた。


『魅惑のヒール』は艶のある黒色のハイヒール。『魅惑の燕尾服バニースーツ』は防具装備欄の上半身と下半身両方、共有扱いらしい。なのでヴァルゴに装備させてあげたことで判明した事実。ヴァルゴの肌が透けて見える黒のストッキングが装備されていた。


 まぁ、ストッキングだけならまだ何とか私の理性を保つことができる。


「間違えたかもしれない」


 『魅惑の燕尾服バニースーツ』は黒のレオタードに似ている服。『魅惑の燕尾服バニースーツ』から見えるヴァルゴの暴力的な体は肌色が非常に多く、特に隠していないあの部分はかなり出ている。その場にいた私を含めてプレイヤーにはあまりに毒だった。


 ある者は自分で作ったアバターの姿なのに、胸に手を置いたり......

 ある者は完全敗北の表情で逃亡したり......

 ある者は前を歩いていた厳ついプレイヤーにぶつかってしまい男性同士の戦いが繰り広げられていたり......

 ある者は隣にパートナーがいるのにも関わらず鼻の下を伸ばして、現在も修羅場モードになっていたり......


 顔が見えないことがダメだったのか溢れる色気が半端なかった。更に本人が周りの人間はどうでも良いの姿勢で颯爽と歩いているからそれが余計に魅力的に見えてしまった。


 誰もが視線を吸い寄せるヴァルゴの見た目に若干の後悔が出てしまった。イタズラ心だったけど、有象無象にヴァルゴの体を見せてしまった。これが独占欲と理解したのはそう遠くはなかった。


「被り物のせいで周りが上手く見えませんでしたが、多くの人が倒れたと思ったのですが?」


「気のせいよ、気のせい......」


 ヴァルゴの見た目なのか、変なインパクトがあった『ウサギの被り物』のお陰?

 私たちに声をかける勇気あるプレイヤーはいなかった。

 何とか無事に、宿屋に入ることができた。




「本当にそれしか着ないんだね」


 速攻でバニーガール姿を解除して、『乙女の星騎鎧』を装備していた。残念......だな〜


「あ、当たり前です。あのようなお姿はお嬢様の圧に負けたので......仕方がなく実行しただけです」


「そっか〜 じゃあ、今度からその『圧』を出し続けようかしら」


「はぁ〜 勘弁してください、お嬢様」


「話は変わるんだけど......少し長い時間眠ることにするわ。しばらくお暇を与えます」


「色々ありましたし、お嬢様もお疲れでしょう。かしこまりました」


 ログアウトする前にやることをする。


「と、ヴァルゴ。石像を出して!」


 ヴァルゴの右側の空間が歪む。歪んだ場所に手を伸ばし、目的のモノを取り出してくれた。


「流石にそろそろ石化を解かないといけないし、ね!!」








「それじゃあ、お休み」


「はい。お休みなさいませ、お嬢様」


 眠ったユミナを見た後、ヴァルゴは後ろにある二つのベットに視線を移す。

 ユミナの【清浄なる世界へヴィム・エブリエント】とヴァルゴの『リカバリー』で気持ちよく寝ている二人の星霊。ヴァルゴの表情は、薄らと浮かべる笑みで柔らかった。


 羊の耳に華奢な体。腰まで届く長いストレートの金髪で純白の布地で構成されている修道服。

 人間大の牛体。上は牛柄ビキニ、下は鍛治職が着てそうなズボンの服装となっている。


「お帰りなさい......アリエス、タウロス」














 何でヴァルゴに長時間ログインできない風な言葉を言ったのか。それは......私の本業が魔法使いではなく、高校二年生であること。高校に限らず、学校では生徒の最大の敵と言っても過言ではないラスボス級の存在がいる。


 それは......定期テストだ。






 そこから時間が進み、夏休み前の最後の授業。

 私は教室の一角で正座していた。


 お昼の時間帯でも、今日も今日で天気は快晴。雲1つない空模様となっている。

 外がこんな陽気な天気だが、私の頭の中は絶賛異常気象に見舞われている。

 大量の汗が流れるように雷は常時降り続け、大雨が荒く降り、今にも涙が出そうとなっている。

 だが、それでも時間は過ぎていく。

 今この時も......






 遡ること数時間前。


 夏休み前の定期テストの結果は学園の学生棟一階入口付近に学年ごとに張り出される。

 張り出されると言っても一学年から上位百人しかの合計点数と名前が掲示されるだけ。載っている人もいれば載っていない人も当然いる。なぜなら一応、私の通っているみいうら学園は生徒数千五百人を超えており一学年五百名ほど在籍しており、マンモス学園なのだ。


 時々思う。人が多いと......


 テスト用紙自体は教室で各教科の担当教師から返却される。しかしやはり好奇心旺盛な高校生。

 自分がどの位置にいるのか確認したくなるのがサガである。

 で、人が多いこの学園では毎回定期テストの順位の時には入り口ではちょっとしたおしくらまんじゅう状態へとなる。上から見たらきっと人が◯ミのようだと思われるかもしれない。


 一階の端では結果を知れた者たちがいた。喜んでいる者、四つんばいになっている者、同志と撮った順位の見せ合いっこしている者等、様々な表情を全面に出していた。


 テスト結果を知った人から抜け出ている筈なのに一向に生徒の数が減っている様子がない。

 もうねぇ〜 人の混み具合は異次元レベルとなっている。


 核故、私、弓永ゆみながせつなも人の波に巻き込まれた一人であった。

 私と共に順位を確認するために集った友人たちとは離れ離れになる。

 今日一不思議だったのが、私の友人の一人。新藤しんどう真凪まなだった。

 いつもはこんな阿鼻叫喚な場所には「嫌だ」、「汗かく」とかで行かない真凪まなが真っ先に行動していた。

 それを目撃していた私とみはるちゃん、かなでは変なモンでも食べたんじゃないかと疑ってしまう位だった。



 結局、真凪まな以外は自分の順位を確認できず何とも時間の無駄な昼休みを過ごしてしまった。




 そして、夏休み前最後の授業。と、言っても勉学内容ではなく。夏休みに羽目を外すな等の注意事項が主なだった。



 話が終わり、一学期の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。担任の先生が教室から退去した。


「終わったぁぁぁぁっぁぁ!!」


「しゃぁあっぁっぁぁぁ!」


 教室に、歓声の爆音が上がった。きっと他教室でも同様のことが起きている筈。

 まぁ、何はともあれ私たち高校生は狭い牢獄から一時的に出所を迎えたのだ。

 ............一ヶ月しかないけど。もっと休みがあっても良いと思うんだけど......世界は無情だ〜







「で、何で私は真凪まなの前で正座させられているの?」


「これより、処刑を決行する」


 仁王立ちの格好している悪友真凪まなが意味わからないことを口走るのだった。

 

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