第69話 湖上のおとぎ城
「ヴァルゴの笑顔を見れたことだし、妾から褒美を与えよう」
「いえいえ、そんなのいただけません」
「気にするな!! 物など妾は腐るほど持っているからな」
「…………それじゃあ、お言葉に甘えて。それで何を頂けるんですか」
「お主......ユミナが決めろ!」
「えっ!? そんな急に言われても......そうだな」
プレゼントイベントがあるなら先に決めておくべきだった。しかし何を貰うのが良いのか。正直分からない。NPCのクエストで貰ったのはどれも素朴な物ばかり。それもありがたいが今回は目の前にいる高貴な吸血鬼からだ。多分言えば揃えてくれるだろう。
アイテム、装備品。いや、これらはタウロスがいることだし。あっ、でも、タウロスにも作れないものがあるとか言っていたな。アーティファクト? なんかかなり古い時代に存在していたアイテムをそう呼ぶらしい。それを貰おうかな......いや、いつかは欲しいと思うけど現状の装備品で満足している。
天井を見て考える。ダメだ思いつかない。親にお菓子買ってあげると言われて永遠と考えてしまう子どもの気分。
金......まだまだ換金していない素材などがまだ沢山あるから今回はパス。でもなぁ〜金か......タウロスの生産品を作る上で必要になるし。作る、造る、創る。そういえば鍛冶場どうしようかな。
今のタウロスには時間がかかってもアイテムは作ってくれる。だけど、アイテムの量産にかかる時間短縮や強化などはちゃんとした工房が必要になるとか......
「あっ!?」
「何するか決めたか」
「もしも、ですよ。工房付きの家を......貰うことは可能でしょうか」
「家......?」
「すみません、流石に......」
「良いぞ!」
「えっ!?」
「ユミナにプレゼントするのは”家”に決定だ」
「あの、言った手前申し訳ないんですが......大丈夫なんですか?」
「気にするでない。それに......安らぐ場所が一つでもあるだけで、心が軽くなるぞ」
「は、はぁ......」
「そうと決まれば」
アイリスは立てかけられている二つ棺を開けた。
「双子......?」
「起きろ、お前たち」
閉じていた目が開眼する。
白髪で片方が紅花で染めような濃い紅赤色の瞳、もう一方が明るく澄んだ秋の空のような薄い青色の瞳を宿し、ミニスカタイプのメイド服を着ていた。
赤目の子が三つ編みで青目の子がお団子状、それぞれ髪のタイプが異なっていた。
彼女たちは辺りを見渡している。
「おはようございます、主様」
「おはよう〜 あるじ〜」
しっかりな姉と気だるそうな妹の雰囲気だった。
「お前たちの力を借りるぞ!」
「はい、かしこまりました」
「は〜いい、どこにしますぅ〜?」
「そうじゃな......『ボルス』はどうだ」
「え〜〜、あそこ遠いですよ」
「我儘言わないの......これも主人の......あれ?」
「どうしたの〜 お姉ぇ......あれ?」
静寂が長かった。
「「ウソッ..................」」
震えていた声の双子は私を見ている? いや、双子少女のメイドが見ているのは私の後ろ。後ろって確か......
振り返った私は三人が口を大きく開いたり、手で押さえたり、泣いている姿を目撃した。
三人は一直線に双子に駆け寄っていく。そのまま双子に飛び付く。体格差が圧倒的なのでアイリスで耐えた双子は突っ込んできたヴァルゴとタウロスの重さに負け、倒れ下敷きになっていた。
「みんなに会えたね、お姉」
「えぇ、幻覚じゃないのよね」
「二人ともご無事で」
「なんでメイドなんかやっているんだよ」
「本当に......会えた、『ジェミニ』たちに」
「そうか、『ラグーン』と『ベイ』は星霊だったの」
忘れてたんかい、とツッコミを入れたくなった。
アイリスによると青色の瞳は”ラグーン”、赤色の瞳は”ベイ”と名付けたらしい。
名付けたと言うことは双子の真名はアイリスは知らない。アイリスのメイドである以上、どっちかを呼ぶ際に判断ができるようにしたと思う。
「これで......4人? 5人?」
オフィュキュースを入れると6人? になるのか......
画面を見て進行中のクエスト、《
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
《
・
職業:MAIN:【剣星】SUB:【悪魔】
所在地:【
・
職業:MAIN:【星聖】SUB:【聖女】
所在地:【
・
職業:MAIN:【星匠】SUB:【炎鍛治神】
所在地:【
・
職業:MAIN:【星導】SUB:【時幻】
所在地:【
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「不味い......分からない」
てか、この地下室の場所。名前があったんだ。『ロンドン・ヒル』。どういう意味なのかさっぱりわからない。
情報過多になってお腹がいっぱいの気分。
「ユミナ、何を項垂れておるのじゃ」
「いえ、
「心配するな、今にわかる」
「「
「なんか......黒い球体が生まれた?」
危険な香りがプンプンする謎の黒球体を......はぁ、引き延ばしている!?
スゴい......麺を伸ばすみたいに手でコネコネしている。
球体から細長い棒になり、捻っている。最終的には縦長の長方形の黒い板が誕生した。二人同時に入れるくらいの長さがあった。
どんな原理かは知らないが明らかに最初のハンドボールくらいの大きさの黒い物体の質量を超えている板に生成されている。
「さぁ、入るぞ」
「あのアイリス......さん。『入る』ってまさか」
「そのまさかじゃ。あの黒板に中に入るぞ!!」
私たちが黒板に近づくにつれて板の内部が光出す。ますます怪しい。
私以外は何事もなく普通に入っていた。私がおかしいのか?
「くっそ〜 女は度胸!!」
黒板をぶち破る勢いで全力ダッシュした私。
「はぁ!?」
強い光を通過した私の視界が戻った時、周囲の風景が一変していた。
私が今立っている場所は、先ほどまでの陰湿な地下室とは真逆の世界だった。
面積約600平方キロメートルもある大きな湖。その中央に浮かぶ小島に巨大なお城が聳え立っていた。今は夜なので城がライトアップされているのか白を基調とし芸術美あふれる建築物がよく見える。あれが、アイリスが言っていたボルス城だった。ボルス城に行く手段は石造りの橋一本だけ。
私以外は既に橋を渡っていた。私が最後だったのでジェミニが発生させた扉が消滅した。恐らく私たちが通ってきた扉は瞬間移動できる代物なのだろう。なんてお手軽な移動手段。これを習得すれば街から街まで歩く手間が省けれるしエリアボスを必ず倒さないといけない苦行もパスできるはず。
長い橋を渡り切った私。まさか橋を長時間渡ることになるとは思いもよらなかった。
石畳の道がなくなり緑生い茂る地面へと変わる。まだまだ目的の城まで距離がある。整備された路は木々や花に囲まれていてとても綺麗だった。走ってようやくみんなに追いつく。
「これはまた......」
アイリスに案内されたのはボルス城の玉座の間だった。真っ赤な絨毯の先に王族が座ってそうな椅子が一つ。その形には台座が置かれていた。台座の上には白い球体が少し浮かんでいるようだった。
アイリスはその球体に手を置き、何やら言葉を発していた。一瞬光だし、その後は力を失った黒と灰色が混じった色合いをしていた。
「ユミナ、こっちへ来い」
言われるがままアイリスの隣まで行く私。
「これは......?」
「これはじゃな、ボルス城の核じゃ!」
「『核』ですか?」
「家があるじゃろ、家には見知らぬ者が入らないように鍵をして守っている。この核はいわば鍵じゃ」
「なんとなく分かりましたが、これをどうするんですか」
「お主にこの城をプレゼントするとは言ったが今のままでは渡せなくてな。一回、妾がこの城の権利は放棄する必要があったんじゃ」
「それじゃあ、この球体に手を当てれば......」
「この城はお主のものじゃ。自分の物になったらこの城を好きにすると良い」
「ありがとうございます!!」
「礼など要らぬ。ただ一つ、約束してくれぬか」
「『約束』ですか?」
「アイツらを悲しませるなよ......もしもの時は妾と残っている吸血鬼族、同盟を結んでいる国総出でお主を討伐するからな」
重い言葉だった。それだけの覚悟だと直感した。
「分かりました。みんなを笑顔にします!!」
「その言葉を忘れるなよ、ユミナ」
「はい!!」
「良い返事だ。ほれ、手を当ててごらん」
球体に手を当てる。
球体の上にウィンドウが現れた。ボルス城の内部情報がぎっしりと明記されていた。自動で下へスクロールしていく。
一番下に、空欄が表示された。ペンなどが出てこないので念じるように自分の名前を思い浮かべた。
ユミナの名前が刻み込まれ、ウィンドウは消滅した。そして先ほどと同様に光輝く球体に戻った。
「これでこの城はお主たちの所有物となった。後は自由に変えていくと良い」
ここでの用事を終えたアイリスは歩き始める。
「アイリス......」
「ヴァルゴ......」
「ありがとうございます」
「ヴァルゴの未来が楽しみだ」
アイリスとジェミニたちはその場を後にした。
私は三人に近づく。
「今日からここが私たちの家だね!!」
私たちは眠ることなく騒ぎまくった。楽しさのあまり自分が窓から差し込む
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