第68話 天然たらしユミナ様

「ホジャァアアアッ!!!!!!」


 地下室のとある一室から木霊する叫び声。叫び声という声のカテゴリーということで悲鳴、恐怖を見る目と声、自分の身に迫る危機声、恐怖の対象が歩いてくる絶叫。


「ギャアァアアアッ!?!?! 来るなぁああ!!!!!」


 私たちは普通の歩行しかやっていない。決して怖い行動は取っていない。でも、前回にやったことが響いているのかアリエス・イニティウム・シルヴァ・ティマンドラ・ルーナは自分が寝ていた黒い棺を盾にして後退している。

 なんか......すみません(多汗)。


「やばい、泣き始めてますね!?」


「何もそんなに怖がらなくても......アタイたちは善良な一般市民なのによ」


「まったく......アタシたちが何をしたって言うのかしら」


「二人とも......自分の行動を思い返した方がいいよ」


「まぁ、冗談はここまでにして」


「これくらいやらないと......気が晴れませんので」


 私のために怒ってくれたことには感謝している。元々は私たちが原因なんだけど......

 今の私たちはか弱い銀髪の少女を取り囲む集団。ケーサツに捕獲されても言い訳できない状況だ。



『オニオン』ではまだ吸血鬼の種族は発見されていない。それはクイーンさんやアクイローネ、ログアウトして攻略サイトを確認して証明されている。だから、正直この世界の吸血鬼の生態は謎である。


 リアルでの吸血鬼像は銀髪で赤目、男女含めて美形で構成されている。ニンニクや十字架が弱点で、血が大好物、それも人間の血が特に好まれている。など色々な要素モリモリの種族。


「あのぉ〜 少しいいですか?」


「え、なんじゃ......妾を襲うのか」


 失礼ね、私が誰かれ構わず襲うわけないじゃん。


「いや、襲いませんよ」


「では、なんだ。言っておくが金銭的なモノはここにはないぜ」


「いや、まるで私たちが金にガメツイみたいじゃないですか」


「本当のことじゃろ、妾の別荘から根こそぎ金品を奪っておいて......」


 ぐうの音も出ない。でも、こっちにも生活が......


「ユミナ様、そんな奴に罪悪感を覚える必要はありません」



 アイリスはアリエスを見ていた。

 なんか名前のパーツがほとんど同じだからややこしいのは私の胸のうちに秘めておこう。



「お主......聖職者だな。それもかなりの実力者とみる。それに......」


「おっしゃる通りです。”元”ですが......」


「”元”だろうと関係ない。お主の隣にいる魔法使いは恐ろしい者だぞ」


 アイリスは私が彼女の別荘で行った数々の行為が外道や悪どい行いをしているからさっさと別れろ、という意味だろう。まぁ、自分の行いを振り返っても確かにそうだよねと落胆しかない。


 でも、アイリス。その言葉......アリエスにとって地雷案件だから覚えておいた方がいいよ。



「握手しましょう」


「あ、握手?」


「はい。アタシ、高貴な吸血鬼と会うのは何百年ぶりですので。嬉しくて」


「ほ、ほぉ〜 お主中々見所があるな。いいだろう!」



 私、ヴァルゴ、タウロスが青ざめた。


「アイリス。やめた方が......」


 ヴァルゴが言葉を全て言い終わる前に二人は握手していた。


「ギャアァアアアッ!?!?!」


 やっぱり......


「溶けるぅううう!!!」


 アリエスの手から白い湯気みたいな煙が出始めた。


「そんなに歓喜してくださるなんて、このアリエス、嬉しいです!」


 満開スマイルなのに全然笑っていなくて、暗黒面に堕ちているアリエス。


「離さんかァアアアッ」


「そんなこと言わずに、今度は抱きつきましょう! 大丈夫です、痛みは一瞬ですよ」



「はい、そこまで」


 私に首根っこを掴まれたアリエス。


「アリエス、やりすぎよ」


 アリエスの目がゴミを見る目に早変わりしていた。


「こんなゴミはさっさと処刑するに限ります」


「う〜ん。元は私が開催したゲームが発端だし。アリエスが体を張る必要はないよ」


「しかし......」


「今はこれで我慢して!」


 私はアリエスを後ろから抱きしめた。

 ウエスト、細っ!? 私に分けてくれないかな......最近食べ過ぎていると感じているのよねって、何言わすのよ!!!


「あの、ユミナ様......」


「アリエスの髪、良いわね」


 後ろから抱きついているのでアリエスの神秘的な髪に目がいってしまう。髪から放たれる香りが私の心を安心させた。

 金髪も悪くないわね!


「落ち着いた?」


 抱きしめを解除して見つめ合った私たち。

 大丈夫かな......うん。怒りは治っているみたいだね。問題ない、良し。


 心でガッツポーズをする私。

 アイリスに近づくために歩く私。



「なぁ、大丈夫か? アリエス」


 今のアリエスは激しい運動をした後の荒い息遣い、正座をくずして体がカーブ状に曲がっているようなポーズとなっている。長い髪はアリエスの顔に張り付いていている。アリエスの周囲に光輝く膜以外に薄いピンク色の俗に言う幸せオーラが漂っていた気がした。タウロスは呆れと甘い、それこそ糖分多めのお菓子を食べたような顔が混沌としていて頭が痛くなっていた。


「ほ、本当に......貴方様は......罪なお方ですね」


 頬を染めて、背中越しのユミナに見惚れるアリエス。


「......お前、絶対に”性職者”にだけはなるなよ。はぁ〜」









 後ろを振り返ってはいけない。例えるならホラーゲームで決して振り返ってはいけない場所なのに気になるからと振り向いてしまい怖い思いをするような......例えが変か。

 とにかく今の私は後ろにいる謎の存在から狙われている立場にいる。ボディーガードでも雇おうかな......


「どうしたのよ?」


 先にアイリスと話していたヴァルゴが私を見るなり、難しい表情を浮かべていた。

 今度はコッチか......


「なんでもありません」


「なら、何故にそっぽを向く!?」


「し、しりません」


 意地でもヴァルゴの顔を見ようとするが私を正面から見ないように回避? し始めるヴァルゴ。

 いつの間にかアイリスを囲んでぐるぐる廻っていた。


「なんで、カゴメカゴメやってるのよ」


「カゴ......なんですか、お嬢様」


「こっちの話......隙ありっ!!」


「甘いです!」


 なんで、ヴァルゴは頑なに私と目を合わせてくれないのよ。

 意地かバカなのかスキルまで使い始めたし......必死かぁ、コイツ。

 負けじと加速スキルを多重にかけて使う私も同類か。



「良い加減にするのじゃぁああああ!!!」


 アイリスの声で我に帰った私たち。

 ヴァルゴは【ライトニング】を起動した後なので、体が硬直してるし。

 私も貴重な加速スキル全てが再使用時間リキャストタイム状態。


 なんとも無駄な交戦? をしてしまったと落ち込んでいる。


「お主たちは妾となんだと思うっているのじゃ」


「ヴァルゴが悪いので許してください」


「お嬢様が悪いです」


「元はといえば......どうかしました?」


 言い争いをする私たちにアイリスが落胆していた。


「これがヴァルゴとは......」


「人は変わります、いつだって」


「ヴァルゴ......キメ顔は綺麗で好きだけど、多分......呆れの意味合いだと思うよ」


「何を言っているんですか、お嬢様。アイリスがそんなことを私に思う訳ありません」


「............そっちの娘が正しいぞ」



 ヴァルゴの頭にガーンが彫られている石が降ってきたような衝撃を受けていた。


「まぁ、ヴァルゴがアホになったのは私にも原因があります」


「ところでここに何しに来たんだ?」


「忘れてた!? 本題本題......ヴァルゴ、立って」


「お嬢様......私はどうすれば」


「反省会はまた今度。今は目の前の吸血鬼さんだよ」






「改めて久しぶりですね、アイリス」


「久しぶりだな、ヴァルゴ。で、またここにきた目的は」


「貴女に謝ろうと......昔、私は貴女を振りました。誰かを好きになる感情が枯れていた私にはアイリスの告白が......わかりませんでした」


「そうか、すまなかったな。ヴァルゴの心が分からないまま”愛している”などと戯言を......」


「しかし、今はコチラのユミナ様を愛しています。かけがえのない存在です。だから......」




「アイリス......私は今、とっても幸せです」


「そっか......ようやくお前も」


「............はぁうううっ!!」


 あまりにも自分の言動が恥ずかしかったのかヴァルゴはこの部屋から離脱した。


「え〜っと、これがここに来た目的です。すみません、お騒がせしてしまって」


「もうよい、お主が大層な人だと確信した」


「私は特に何もしていませんが?」


「あの......吸血鬼族を救ってくれた冷酷な英雄があんな幸せな顔をしている。それだけで妾は満足だ」


「アイリス、貴方......まだヴァルゴのこと」







「手放すなよ......」


 真剣な目だった。


「はい、必ず幸せにします!」


「よい返事だ! ヴァルゴの笑顔を見れたことだし、妾から褒美を与えよう」

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