第70話 姉妹の明日

「ふあー......」


「せつな、外での欠伸はどうかと思うぞ」


 ごめん、白陽姫ちゃん。城でオールしていて、ログアウトしたのが朝の六時。そこから寝ずの外出。

 ちょっと前までの私には想像できない生活をやっている。健康を度外視している点では悪影響なのかもしれないが私個人が楽しかったんだ。後悔はしていない。だけど......眠気だけはどうすることもできないのが人間でもある。


「何かに夢中になるのは良いことだけど、無理は良くないからな」


「はい......気をつけます」


 私を注意してくれた白陽姫ちゃんだけど、梨子さん曰く私と同じで何かに夢中になっていたらしく寝ていないとか。

 梨子さんの言葉を疑うわけじゃないが、信じれなかった。隈もないしシャッキとしているしどんな体の構造をしているのか気になるくらいに私の義姉はいつも通りでいた。


「完璧だな〜 私の義姉は」


「ど、ど、どうした、突然?!」


「いつも威風堂々としていてさぁ〜」


「流石に外では気が抜けないしな」


「白陽姫ちゃん......何と戦っているのよ」


「強いてあげるなら、己かな」


「何それ、カッコいい!!」


「あ、ありがとう。嬉しいよ。今までのイメージが定着しているのか外では完璧にしないといけない気がしてな」


「確かに......でもさ、私の前だけは少し気を抜いていいからね!!」


「良いもんだな、姉妹というものは......」


「私も同じだよ」


 家を出て歩くこと十五分。


「おはよう、お母さん」


 私は灰色の一般的な和型のお墓の前で、そう発した。今日が私の母親でもある弓永春の命日。


「せつなのお母様が亡くなられて何年になるんだ」


 私と白陽姫ちゃんはお墓の掃除をしていた。私が墓石を、白陽姫ちゃんは周りにある雑草や落ち葉を取り除いていた。


「私が三歳くらいだから......もう十四年は経つのかな」


「それは、その......」


「元々、心臓が弱くて私を産むことは困難だったんだって。それでも自分たちの愛を残したいと決死の覚悟で私を産んでくれた。そこから数年は大丈夫だったけど、突然ね。だから私自身はお母さんの顔も朧げで写真の方が見ている率が高いんだ。でも、抱っこされた記憶はある。これは確かなもの......」


「そっか......」


「白陽姫ちゃんは?」


「私は......ちょっと複雑でな」


「ちゃんと聞くよ」


「実は梨子さんは......私の本当のお母さんじゃないんだ」


「............そうなの」


「私の本当の両親は、私が六歳の時に二人とも飛行機事故でね。父様の秘書をしていた梨子さんが育ての親というわけだ」


「白陽姫ちゃん......」


「私は梨子さんには感謝しても仕切れない思いがある。だから結婚を勧めたんだ」


「白陽姫ちゃんからだったんだ。それは初知り」


「最後まで自分の幸せよりも私の身の上を心配していた。まぁ、私が一喝して前に進んでくれたけど」


「それじゃあ、今の梨子さんは幸せだろうね!」


「誰にだって幸せになる権利はあるからな」



......


............


..................



 お参りまで済ませてた私たち。


「お母さん、私は......今とっても幸せだよ。父さんと一緒に元気でやっているし、高校の友達とも和気藹々と青春してる。そして......新しい家族もできた。詳細は後から来るヘタレでお母さんが愛した男性にでも聞いてよ。きっと泣きじゃくって何言っているか一ミリも分からないと思うから。あっ、紹介するね。こちらが私の姉になった白陽姫ちゃんです。見てよ、この溢れる美人オーラ。まさに完璧な人って感じでしょう!」


「やめてくれ......は、恥ずかしい」


「だって本当のことだし。ほらぁ、白陽姫ちゃんも挨拶してよ」


「えっと......春さん。そちらは良い環境でしょうか」


「ちょっと白陽姫ちゃん!?」


「わ、笑うな......私が一番困っているんだ。おほん、初めましてせつなさんの姉になった弓永白陽姫と申します。安心してください、妹さんの笑顔は私が守りますから」


「なんで、結婚報告みたいになってるの」


「け、結婚!? いや、仕方がないだろう。こうでも言わないと春さんも安心できないだろうし......け、結婚......」


「また二人で来るからね!!」


「け、結婚......」


「白陽姫ちゃん?」


「ふぎゃあがばま」


「大丈夫?」


「大丈夫、今なら私は神にもなれる!!」


「そ、そうなんだ......えっと、頑張って。神就任の時は招待状を送ってね。そうだ、


「うん!?!?!?」


「何処かにご飯、食べに行こう!!」


「............そうだな、行こうか一緒に」



 陽光が続く道。

 並び歩いている女性たちは笑顔も姿も美しく。

 手を繋ぎながら、前へ進み出した。














 ◇


『グォオオオッ!!』


 唸り声を上げながら神氷竜グレイスプライマルが飛翔する。翼を大きく羽ばたかせ、羽を氷に変えて下にいる人の体を貫こうとモーションに入っている。


『———ッ!!』


 白い布を纏いし女がこちらに迫ってくる。人は飛ぶことができない存在。だが、白き女は当然の如く空を飛び自分の懐まで到達してくる勢いだった。


 白き女から危険な香りが放つ。この女を野放ししてはいけないと羽を大きく展開し、一番外側に生えている羽根を全て投下させた。はためかせて発生した風。羽根は一枚一枚形を変え、冷気と風を纏いし氷柱が白き女へ向かう。

 巨人の体であればグレイスプライマルの氷柱などさほど損傷は発生しない。だが、小さき者の体にとっては刺突されるのは明白。



「無駄だ......」


 白き女は空間に手を突っ込み、女と同じかそれ以上の長さを有している太刀を取り出した。

 女が持つにはあまりに不釣り合いな武器だった。黄金の刀身に持ち手は銀色。


 太い柱を次々、斬っていく白き女。大振りしかできない動きに全てを斬ることはできず、柱に亀裂が生じることはなく落下していく。地面にいる小さき者は巨大な柱が地に触れたことで立つことも困難な状況。人の身で自分の懐にまで近づくのは称賛に値する。が、しかし......どんなに足掻いても小さいのに変わりない。







「この太刀は銘は『金始刀コーナ【閃】』。能力は未来視。先が見えるって言えばドラゴンでも分かるかしら?」


 上を見上げれば、自分よりも空を支配している女。氷柱にのまれて落ちたとばかり思っていたが女は何もなかったかのように威風堂々と空中で立っていた。


「貴方の皮膚は硬い。流石にことはできなかったわ」


 女の言葉と同時に自分の体中が切り刻まれた。大損傷を負い、怯みにより落下していく。翼も羽も全て裂けられ自由を失い落ちていく。


「斬るだけが攻撃ではないわね」


 空を蹴り、自分に近づく白き女。

 持っていた太刀は姿が消え、鎚を出現させた。柄の部分は銀色で長く伸び、打撃として機能する均一頭部は巨大だった。

 本来の金槌の頭部は黒色となっているが、白き女が持っている鎚の頭部の色は煌めく青色。あまりに奇妙奇天烈な色合い。


「これでダメなら隠し球を使うか......いくよ、『破王双藍セウカ』」


 力を溜めて振りかぶる。巨大な鎚を扱える筋力を女が持っている驚きと怯んでいるとはいえ、動けない自分がいた。

 加速された鎚の面が腹部に直撃。甲高い打撃音と破壊力を纏わせたエネルギーも相まって、地面に叩きつけられる。



 フルスイングのパワーで地面に叩きつけられた神氷竜グレイスプライマル。その影響でミサイルが落ちたかと思えないくらいの衝撃がフィールドに走る。地面が大きく揺れ、巨大な破砕音が鳴り響く。衝突したところを中心に衝撃が放射状に伝わる。衝撃波も生まれ、フィールドは割れ目や裂け目へと変わった。ヒビの中心となる衝突部分は大きい力が発生し破断線が密集。外側になるにつれてヒビが入っていたが間隔も粗く溝も深くなる。裂け目となっているヒビはギザギザのような折れ曲がったような線が入り、長さはまばら。長いものもあれば短いものもあった。


 爆ぜた神氷竜グレイスプライマルがドロップした素材類は地面がクレーター状になっているので下へ滑らないと取りに行けなかった。


 地面に足を付けた白き女ことクイーンは見下ろす。


「『魔魂封醒フリーダム』や『Xイクス変型機ギミック』を使わなくて......良かったわ」





「あの団長......」


「うん?」


「クイーンさん、何かあったんですか」


「それはね」


「それは......」


「私も分からない」


 討伐に加わったパーティーメンバーが騒然となる。



 クイーンは滑りながらニヤリと口元を上げた。

(せつな......お姉ちゃんはまだまだ新米神だけど倒したよ!!)



 ◆


「うわぁー......!?!?」


 冷や汗が搭載されているのかと思うくらい鬼気迫るものがアバターに押し寄せる。

 突然のことで敵モンスターとの戦闘の休憩中に自室の設置されていたベットで横になっていた私は、キングサイズのベットから飛び出し、ベランダに出た。

 湖の香りと森から溢れる香りが私の心を和ます。


「大丈夫ですか? ユミナ様」


 丈の長いシルクのローブを着ていたヴェルゴが私を心配してくれた。


「ごめんね、急に......」


「何かあったんですか?」


「いや......分からないんだけど......怖い感触があった気がしたんだ」


「この城に敵が」


「怖いは怖いんだけど......熱い眼差しって感じ。ごめん、私も良く分からない」


「きっと先ほど戦った擬態ミミック・群蜂クラスタービーが影響しているんでしょう。さぁ、横になってください。少しは気が紛れますよ」


「そうするよ......」


 謎の脅威に私は恐れ慄くのだった。






 



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