第17話 お楽しみは人それぞれ

「お嬢様。本当にやるのですか?」


「私はヴァルゴの試練をクリアした。今度はヴァルゴが私の試練を受ける番」


 宿屋のとある部屋。ログアウトする前に一つやっておかないといけない件がある。

 顔を真っ赤にして落ち着かない様子のヴァルゴは私の前にいた。


「しかし、私はあくまでユミナ様の従者。それなのに……」


「主の命令は出来ない、で大丈夫かしら……」


「いえ、ですが……」


「泊まっている宿屋には私たち以外は誰も入ってこない、いわば密室。誰にも見られないんだから」


 ごめんね、ヴァルゴ。今から行う内容は現実のせつなが必要な行動なの。

 白陽姫さんと未だにぎこちない。ぎこちないのは私が守りに入っているからなのかもしれない。


 守りは最大の攻撃とよく言われるけど相手も同じ戦法を取れば永遠の鍔迫り合いで一生を終えてしまう。今後仲が進展していくと過程して一緒に買い物に行くかもしれない。ショッピング時に挙動不審になっていると白陽姫さんに申し訳が立たない。


 なので、いつでも行ける心の準備をするためにヴァルゴを実験体として準備を進めている。今日がその第一歩。


 と、ていよく言っているけど、強制ソロ攻略を強いたことへのお仕置きも兼ねているのは口で言わぬが花ってやつね〜


 心を決めたのかヴァルゴは隣に座る。お互いの肩が触れ合う。


 若干ヴァルゴの方が身長が高いので私を見下ろす形になっていた。頬を赤く染めていても端正な顔でこちらを見てくるので変に緊張してしまう。


 どうでもいいことだけど、現実では白陽姫さんの方が身長は高い。なのでヴァルゴが私を見下ろす構図は割と参考になる。めちゃめちゃ恥ずかしいけど……


 私が緊張顔になっていたら攻守が逆転する。平穏な見た目を演じるに徹した。今から私は女優ユミナよ!!





「…………」


 視線を逸らしてしまった私。


 はい、ダメでした。もって5秒の上演だった。潤んだ瞳のクリティカルヒット頂きました!


 しかし聞いていた内容と差異がある。おかしいな〜 アクイローネ情報では隣に座ればあとは自然と会話ができる、と。義姉とはいえ数日前までは知り合いでもなかったのに親同士が再婚。

 お互いの連れ子が急に会話するのはなかなかに勇気がいる。挨拶とかの簡単なコミュニケーションはすぐにできると思うけど深い話となると時間を使ってしまう。


 ならばどうするのか、友達感覚で接していこうと回答を得た。徐々に慣れれば姉妹としての会話もできるとアクイローネは推理した。


 なのでヴァルゴに白陽姫かすみ(仮)さんになってもらうてはずだったが上手くいっていないかな?



 ヴァルゴは自分の顔を高速で左右に揺らしていた。両手を頬に乗せながら嬉しそうだった。



「世間一般的な可愛いってやつか……」


 肩が触れ合っただけでこの嬉しさ。私の辞書のヴァルゴ項目に新たなページが増えた。

 普段凛としている女性が太陽を思わせる笑顔と可愛い仕草をしていると私の中の乙女心が”くる”。


「録画アイテムとかないかな〜」


 思い出とかではなく、目の保養運用で欲しい!!















 今日も少しだけ進展していった姉妹仲。さすがに昨日の夜でのヴァルゴとの行為を即実践は、今の私にはハードな壁となっている。代わりにハイタッチをした。



 白陽姫さんでも驚きはするんだと思った。




 ちゃんとした説明をしないと私がおかしな子扱いを受ける可能性があるのでキョトンとしていた白陽姫さんにちゃんと説明をする。


 と言ってもあまりにもくだらない出来事100%成分だよ……






「な、なぜだ………………」


「なんてみっともない姿。今の気持ちはいかがですか、真凪まなさん〜」


「べ、べ、別にぃぃぃ〜 少テスト中に糖分エネルギーコーヒー牛乳が切れただけだし。普段ならせつなに負けなかった」


「はいはい、負け犬の遠吠えにしか聞こえません」


「一点の差で嬉しいなんて、恥ずかしくないの……せつな?」


「勝ちは勝ちだよ!!」


「くぎぃぃぃぃ。来週から始まる定期テストでは覚えてろ!」


「なんで悪役スタンスなの? さぁ、私にを献上しなさい」


「たとえされても、心までは屈しない!!」


「……ごめん、全然、何言っているのか分かりません。普通にお菓子とか買ってきてよってお願いだよ?」


「だるいから、かなでに頼んで」


 なんで負けたのに堂々としているのかな、悪友MANAさんは?






 一通りの説明を聞いた白陽姫さんは頬を赤らめていた。


「大丈夫ですか? 熱があるとか……」


「いや……せつなは楽しい人生を送っているんだなって少し羨ましいと思ってね」


「そりゃあ〜 普段怠け者みたいなのに成績は友人が上なんです。ようやく勝ったんです、だから嬉しくて」


「羨ましいよ、それに……」



 後半よく聞こえなかった。その後、私たちは自室に入る。


「よし、この感動をヴァルゴにも共有しよう!!」


 いざ、ゲームの世界へ!!










 白陽姫は部屋に入ってすぐベットに倒れ込む。


「ふふふふぅぅ」


 ベットから落ちないギリギリまで転がる白陽姫。



「私の義妹は……最高なのではないのかっ!!!!!!!」




 奇妙な動きをやめ、自分の手を握る。


「しかも、手が触れ合った!?」


 白陽姫は天井を見ていた。顔を手で覆う。


「……しばらくは顔を見せない努力をしないと」


 今再び、せつなに会えば幻滅されてしまうだろう。今の緩み切った表情で固定されている私の顔に。




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