第24話 想いは重い

「ヴァルゴは……?」


 プレイヤーである私たちは仮に死亡してもリスポーン地点に戻される。しかしNPCの場合の処遇はどうなる? プレイヤーは『オニキス・オンライン』の外からやってきた。いわば移星人のような位置付け。対して元からいたNPCは『オニキス・オンライン』の内側で生きていることになっている。プレイヤーと同じ処置がされるのか分からない。


 すぐに私は【星霊】欄を確認した。


 ・乙女座ヴァルゴ

 種族:【星霊】

 職業:MAIN:【剣星】SUB:【悪魔】

 真名:【??】

 所在地:【鐡重てっちょう跡震せきしん→『ヴァーシュ』】



 一先ず、安心した。ヴァルゴは生きていて、今向かっている最中らしい。


「良かった〜」


 上半身を後ろへ、大の字でベットに倒れた。顔だけを横に向け窓からの景色を見る。


 夜空を覆い尽くす巨大な花火が打ち上がった。人々は聴力を失ってしまうかもしれない大きな音が炸裂し歓喜していた。何発も一斉に放たれ光の玉が夜空を征服している。赤や緑色の色彩に囲まれ見上げている人たちの顔も花火に合わせて色とりどりに変わっていっていた。煌びやかな空間で全く鮮やかな花火を見ない者達は誰一人としていなかった。



「まさか、花火まで打ち上がるとは恐るべしアシリア聖女さん」


 てか、ゲーム内の文明的に……いや、深く考えない。

 ファンタジーって言えばなんとかなるはず。


 にしても現実じゃ、打ち上がった花火を触るのはまず不可能。もしも、空を飛べて接触ができれば誰もやっていない出来事を経験できる。私が経験した体験談を白陽姫さんに言えば、興味を持ってくれるかな。将来的には一緒にゲームを……








「——ッ!?!?」


 地震かと思った。床が振動して思わず起き上がりびっくりした。


「ナニナニ……?」


 兎に角、建物の中から出ようと急いで部屋の扉まで進む。


星刻の錫杖アストロ・ワンドも震えている……まさか……」





 私の前にある扉が勢いよく開かれ、生じた風圧が私を襲った。扉を開けた人を見ると見知った人物だった。



「お嬢様ぁぁあああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 咄嗟の出来事でシルエット姿に抱きつかれながら床に倒れた。シルエットは形になる。

 ヴァルゴは大声で泣きながら抱きつかれ、私は身動きが取れずにいた。


「ううううー……良かったです……」



「ヴァ、ヴァルゴ……苦しい……」


 ヴァルゴの体の圧が私の貧弱な体に乗り掛かる。後、首……締まる……








 しばらくして、なんとか落ち着いたヴァルゴ。


「心配かけたみたいだね、ごめんね」


 ヴァルゴは晴れた顔をしていた。しかしこのゲーム、本当にNPCの感情表現が凄い。

 喜怒哀楽の感情を人間さながらに出している。ときどき、ヴァルゴと喋るとゲームの中だと忘れてしまう感覚に陥る。本当に不思議な感覚……



 感情も驚いたけど、感触もリアル。なぜなら私の後頭部に柔らかい感触が当たる。ヴァルゴの膝枕を受けている真っ最中。ヴァルゴは私の髪を撫でる。


「また、主の髪を触れる……お嬢様の髪はサラサラしていて……触って気持ちいです」


「う、嬉しいけど......ヴァルゴの髪だって……羨ましいよ!」


 ヴァルゴは自分の髪の毛先を触っていく。少しヴァルゴの頬が赤くなっていた気がする。


「私は手入れしていません。何もしなくてもこうなりますので……」



「そんなこと言って、特別なことをしているんでしょう!」


 もし、あるとすれば知りたい。私なんて朝、起きてから髪の大戦争しているし。

 うん? ヴァルゴの顔、一瞬だったけど虚な顔をしていた……気のせい、だよね?


「やはり、誰もが憧れてしまいますよね……この……」



「大丈夫、もしかして私……重い?」


「いえ、そんなことはありません。お、お嬢様……」


「どうしたの?」


「お嬢様は私の姿、どうですか?」


「うん? 容姿……まあ、好きだよ」


「そうですよね……やはり……」


「本当に大丈夫? 交代しましょうか?」


「お嬢様の足に私のような者の頭を置くなどおこがましいです」


「ふ〜ん。もし膝枕欲しくなったらいつでも言ってね。ついでにマッサージもやってあげるから」








 昔、先生が言った通りかも知れない。


『いつか、貴女の全てを受け入れてくれる人が見つかるかも知れない。だからワタシは貴女を星霊に任命するから……こんな狭い世界よりも広い世界を見てきなさい』


 まさか、先生は預言者だったのではないのかと考えてしまう。いや、そんなことはないか。あの人は預言するより自分で切り拓く方だし。もしくは自分で預言者を育成するタイプですし。今もどっかで楽しくしているのでしょうね。無駄に長生きはしているし……


 本当にお嬢様は私にとって太陽のような存在。

 お嬢様といつでも一緒にいたい。変わってしまったこの世界でお嬢様と冒険をして仲間の星霊を探す旅をしていきたい。ゆくゆくは私の全てをお嬢様に捧げる覚悟はあります。


 でも、申し訳ありません。私はまだお嬢様に全てをお見せする勇気がありません。

 もし、私の本来の姿を貴女様が目撃すれば……私は……









 ユミナ様のもとから離れなくてはならない————————

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