第12話 一人目は忠義心が高い乙女座の騎士
あらかた
「黄金杖と同じ性能な防具ありますか?」
テーブルに出された羊皮紙ぽい紙に防具屋で売ってある。防具一覧を見たが序盤の町なだけで防御力もイマイチな防具ばかりだった。
結局、何も買わずに店を立ち去った私。ちなみに防具屋の前に武器屋に寄ったけど同じ結果だった。
防具屋の店主はまだ良かったけど武器屋にいたハチマキを巻いていたイカつい男店主は門前払いっていうのかな、うん? とにかく『お前が持っている杖と同じ武器はウチにはねぇ』って強制退去された。
店のドアが閉まる瞬間におじさんを見た。なぜか四つん這えしていたのが印象深かった。
「そろそろ、最初の街とも卒業なのかな〜」
やるべき内容が少なくなってきた。ならば、次なる行動は……
「大丈夫、自然に。そだよね、自然に誘えれば……」
夜の噴水公園にプレイヤーらしき二人組がいた。二人とも片手剣をもっているから剣士だと思う。何やら地図を見ながら会話している。指差ししている方角からして次の街でもある『ヴァーシュ』に向かおうとしている。なので自分も、と近づく私。
忍び足で二人の背後に迫る魔法使いの図。
側から見たら不審者に見えてしまう。
「あ、あの……」
声をかけようとした時、持っていた
小刻みに震え、自分の腕にまで伝わるから痙攣を起こしている風に見えてしまう。
「————ッ!?」
気分は犬に引っ張られるように散歩をしている飼い主。
うわぁ〜 さっきの二人組、私を見ている。唖然とした顔と珍妙な光景を見る目が同時に見れるなんて幸運?
いや……それよりも
「恥ずかしい……って、どこに向かっているのよ!?」
誰が好き好んでこんな変な格好をしないといけないんだ……
こんな絶え難い視線を回避したいがなぜか
吸い寄せられるかのように、目的地に到着したのか
「うん? 前に見た覚えがある石像だね?」
少し前に拝んだ石像。戦う女性の石像ってなかなか見ないから覚えている。でも、公園で何をすれば……
石像の周りをぐるぐる回る。石像の周囲は、特別なにもない。
『……』
誰かの声が聞こえた。でも、私以外誰もいない。
『……』
「誰?」
うめき声らしき声が聞こえた。やっぱり、誰もいない。
「唐突な恐怖イベントやめてよ……」
身震いをしてしまいキョロキョロし始める。でも、やっぱり誰もいない。
気にしすぎなのかな……
もしかして、お化け系のモンスター? いやいや街中には敵モンスターは出現しない。
「くるなら来なさい!! こっちとら巨大モンスターと戦った経験だってあるんだから!!!!!!!」
正攻法じゃなかったけど、ひたすら毒でじわじわ敵を怯ませていただけなのは私の心の内だけの話。
「もし、モンスターが迫ってきたら戦闘開始時に強制発生するスキルがあるから」
『見習いの初歩』と『命の鼓動』がスキル変化していた。
『見習いの初歩』は『見習いの中歩』。
以前の初歩は戦闘終了時にMPが回復する強制スキル。スキルが進化した結果、『見習いの中歩』は戦闘開始時に強制的にMPが10回復するが追加された。
『命の鼓動』も『活力の鼓動』として生まれ変わった。効果は戦闘開始時、最大HPの5%回復する。また、戦闘終了後には最大HP10%回復するになった。
『見習いの中歩』も『活力の鼓動』も敵との戦闘になったら勝手に起動してしまうスキルたち。
森で検証した結果、私を起点にして半径10メートルで二つのスキルが強制発動する、が判明した。なので、もし私の背後を狙う輩が噴水公園にいたとしても近づけば分かる。
警戒アラームみたいで使うのは勿体ないけど背に腹はかえられぬの心情でいったん、星刻の錫杖(アストロ・ワンド)を下ろす。
「フレンドを呼べる機能があるらしいけど、アクイローネ以外誰ともフレンド登録していないから使えない……」
フレンド欄を見た。でも、アクイローネはログインしていない。
「いつ見ても、すごい剣幕……」
石像に近づき、上を見上げる。台座には駆け抜けている姿の女性。まるで生きた化石。
ははぁ……なんてね。しかし最近のゲーム、触覚までリアルだねぇ〜
石像の足を触ってみたけど、ひんやりと冷たい感触を味わった。
「もしかして、石像の人の声なのかな……!?」
さっきからうめき声の正体は私の目の前にある石像からの発する声だとすれば、辻妻があう。
いつまでも現れない敵。いつまでも聞こえる女性の声。周りには私と目の前の石像しかない。
「
【あらゆる状態異常を浄化できる。】
もしも、
「『
天から眩い光が石像を包み込む。使用した『
徐々に石像にひび割れが出始める。破砕音が鳴り響く。頭から足まで全体へ。石像全体にさらに割れ目や裂け目が広がっていく。裂け目となっているヒビはギザギザで折れ曲がった線が入り、長さはまばら。長いのも存在すれば短い線も存在していた。
石像の表面? 石の皮膚?
石の殻は粉々に砕かれ、バラバラと崩れて地面にカケラが落ちてきた。同時に台座の上にいた女性も落下した。今まで石像時には片足で立っている状態だった。いきなりの出来事で体が自由になったのだろう。バランスをくずして私の方へ落下する。
あぁ……間違えなく、回避できないやつだ……
お互いがお互いの頭と激突した。これが私と石像だった女性騎士とのファーストコンタクト。
地面に膝をつき、頭をおさえる私。2割HP減った……
「なんたる災難……」
私、何か悪い行いしましたっけ? 回想に出てくるのは森を焼き払いモンスターが消し炭になる光景。ドロップしたアイテムが全て《状態が悪い》だった……もしかして、森林破壊が原因ですか!?
まさかの予期せぬ天罰が来るとは、正直舐めていたよ。オニキス・オンライン、侮れないVRゲームだ。
ストレージから回復薬を取り出しHPを回復している私は横目で倒れている女騎士を見る。
青紫色の髪をした少女。大人びた風格すらある女性は女の私でもドキドキしてしまう美貌を持っていた。少々変態チックな思考になるけど、甲冑を着ていても分かる大きいスイカサイズ。
いやね、女なら一度はスイカ並を欲しいと思うわけですよ。私の友人ではみはるが一番デカいですね……何とは言わないけど。ある一部分だけじゃなくて体全体が人間離れをしている騎士女性。
「これがいわゆる”私の瞳は釘付け”状態か……」
なんか、美しい容姿の彼女はひどく苦しそうだった。
やばい!?!? 【
月、つ〜き……嘘だといってよぉ〜 雲に覆われているよ……
雲に覆われては月パワー光線ビームで
地面に膝をつき女騎士に近づく。騎士さんも私を感知していたが細目しか出来ていない。
「とりあえず、回復薬を飲んでください」
「……あ、ありがとう」
容姿も良かったけど、声までもよいとは完璧なキャラですね。掠れていても玲瓏な声がはっきり分かる!!
今の所、女騎士さんに敵対の意思はないからいいけど。私の対応一つで女騎士さんの態度が180度変わる場合もある。
「ここにきて、くるか……私の性分がぁ」
「あなたは……誰ですか?」
肩で息をしながら女騎士さんは尋ねた。
「わ、私は……『ユミナ』と言います」
「『ユミナ』か。感謝する。この恩は決して忘れない」
「いえ、私は何も……してません」
呆然と眺めていた私の瞳孔が大きく開いていた気がした。女騎士さんは涙を流し、私の手を握った。未だ全回復していない体なのか力がこもっていない手だった。小刻みな手で真っ直ぐ私を見ている女騎士さんは震える声で告げた。
「……そんなことはない。私を救ってくれた……本当にありがとう……」
”ありがとう”か……たった5文字の言葉、今の私にはこの5文字が温かった。電脳の体で現実のモノじゃない。だから、こんな心情になるのはおかしいなのかもしれない。でも、この気持ちは消えない。
救えて良かった……と。
もう夜も遅いので宿屋に向かいログアウトしようとした。勿論、女騎士を担いで、ね!
「そっか。もう何百年も……その、石化を」
「あぁ。体は動かない。外の情景は見えていたけど後少しで見えなくなっていただろう」
「それは……」
「残ったのは口だけで」
「すぐに気づかなくてすみません」
「あなたが気にすることではないよ」
何百年も石化状態を過ごしていたから歩き方も忘れていたとか。なので女騎士さんはベットの上に腰をかけている姿となっている。
「その……ユミナ」
「はい!? なんでしょうか?」
一瞬息の飲んだ……なんて綺麗な声。『
「あなたが持っているその錫杖は……」
女騎士さんは私が持っている
瞬きさえしていない。乾燥しません? ゲームだからそんな心配ないのか〜
「これは”
突然、ベットから飛び出し膝をつき、私に礼の姿勢をとろうとする。
けど、まだまだ女騎士さんの体は思うように動けていなかった。
「急に動くと……大丈夫ですか?」
「このような無様な姿をお許しください。”お嬢様”」
うん? 『お嬢様』????
「えっと。なんで”お嬢様”呼びなんですか? 普通にユミナでいいですよ」
「いえ、
「と、とりあえず頭を上げてください!?」
私は女騎士さんに何があったのか全ての出来事を話した。洞窟内にある賢者の秘密の部屋、部屋で見つけた古びた錫杖、月の光で復活した
「で、賢者さんの日記がこれ」
ストレージに保管していた賢者日記を女騎士さんに渡した。
「賢者様にもお礼が言いたいです。賢者様がいたから錫杖は戻ったし、私の石化はお嬢様が復活させてくれました。感謝が足りません」
「う〜ん。私の場合は偶然と言いますか」
「いえ、偶然ではありません。私とお嬢様の運命です」
「『運命』か……うん!! そうかもしれないね!!」
「お嬢様、一つお願いがあります。私をお嬢様の配下に加えて貰えますか」
「は、配下って……」
「配下の言葉がお気に召さなければ”奴隷”の表現で大丈夫です」
いやいや、なぜ奴隷……
「話したけど
女騎士さんの決意の目をしていた。覚悟の眼でもあり、意志でもあった。
未だ足がおぼつかないけど床に座り込んでいながら堂々とした姿は、まさに凛とした女騎士。
「分かりました。これからよろしくお願いします。そういえば、名前はなんですか?」
噴水公園から宿屋までの道のり。そして宿屋内でも会話で彼女は一度も自分の名前を名乗っていなかった。
「ヴァ、ヴァルゴとお呼びください」
自分の名前なのになんでそんなに恥ずかしそうに言うんですか!? 怪しい……気になる。
「では、ヴァルゴ。貴女に最初の指令を出します」
腰を下ろしヴァルゴと同じ目線にした。ヴァルゴの手を握る。ピクンと反応したヴァルゴ。さっきまでは綺麗で気高い騎士って感じだったのに今のヴァルゴは恋する乙女みたいな表情を出していた。
可愛い! ガチ恋みたいで心が踊るんだけど!!
「貴女の
一気に表情がくずれるヴァルゴ。顔は紅潮し始める。
「もしかして、忘れてしまったんですか?」
「そうではなく……実は。私たち星霊は自分の真名を教える相手は必ず、
「ふへぇ!?」
自分はどこから声を出したんだって思うくらいまともではない鳴き声を出してしまう。
「いやあ、決して……いやそれは……あの〜 申し訳ありません。知らなくて……私のイタズラ心が働いたと言いますか」
「いえ、こちらも主君となるお方をそのような邪な感情を出してしまい……申し訳ありません」
私はなんとか正常に見せた。
「わ、分かりました。ヴァルゴ、これからよろしくお願いします!!」
「私の命は、お嬢様のモノです。誠心誠意、お仕えさせて頂きます」
うん? 手の甲にキスするって……男性が女性にするもんだった気がする。でもいいか〜 でも、これだけは言いたい。とてつもなく恥ずかしい……顔に出ていないか、それだけが心配。
《星霊探しの旅》:1/12
乙女座最高位:ヴァルゴ
真名:???
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