第13話 女二人旅

 私たちは初心(しょしん)の指針(ししん)。つまり森の中を歩いていた。



「お嬢様……」


 ヴァルゴは自分の直剣を腰にある鞘に戻し、地面に散らばっているモンスターの素材を集めてくれている。ヴァルゴが装備しているアクセサリーの【ウラニアの指輪】は簡単に言えば貯蔵庫。

 武器やアイテム類を無制限に入れれる仕様になっている。オニキス・オンラインはストレージに制限がかかる仕様で一定数を超えるとアバターが重くなる。制限解除するにはいちいち素材類やアイテム類を売却してストレージの中身を減らさないといけない。


 余談ではあるけど、ギルドに所属しているプレイヤーは、ギルドの中に預かり場がある。所属していないプレイヤーは私みたいに毎回同じ行動をやっている。ルーティーンってヤツ〜




 でも、ヴァルゴはストレージの中身を整理する心配がない。


 星霊の秘技とかで私たち一般冒険者プレイヤーが持てないし、できないらしい……

 なんとかならないのかな〜 女王特権でさぁ、あれやこれやして貰うとかいけませんかね。



「何かしら、ヴァルゴ……」


 素材類は全てヴァルゴに任せて辺りを見渡している私。

 もうモンスターたちからのステルスアタックなんてコリゴリ。


「なにぶん、戦闘は久々でモンスターの生態も忘れているのが多くて……」


「仕方がないわよ。悠久の時間、石化していたんだから」


「なので、私の率直な感想になるのですが……お嬢様」


 呼ばれて振り向けば目の前に頭装備を取り外して私を見るヴァルゴ。首を傾げながら……


「なんで、ウサギ系モンスターと鳥系モンスターが続々と出現するでしょうか?」







「さぁ〜〜〜 食糧が足りなくて人を食い物にする予定だったかもしれませんね」


 私は遠い目をしていた。実に不思議だな〜




 ヴァルゴの戦闘の勘リハビリを取り戻す。併せて、次の街である『ヴァーシュ』に向かっていた。


「またもや……」


 ヴァルゴの直剣で鳥系モンスター。名前を見たらクレィーン。翼を発光させている鳥さんは真っ二つにされ、地面に素材が落ちた。


 私の方には草むらからウサギ系モンスターのバニットルミーで、額にツノがないが前足に鋭利な爪を持っている。私目掛けて跳躍して垂ちょくに爪を突き出してきた。


 後ろの木……空洞になっている!?


 突っ込んできただけで穴が空く攻撃力を持つ爪。爪での斬撃攻撃を喰らったら三枚おろしになるかもしれない。横ではなく縦で……怖い世の中だよ、全く。



「いい加減にしてよ!!!!!」


 毒づきながらも魔法であるアイスを発動。空中に飛び出された氷の矢。獲物に向かって発射される。


「アイマ!!!」


 アイスもまたファイヤーボールと同じく、威力が増大した。威力だけじゃなく、氷矢の強度も少し上がったので以前の戦闘にモンスターに当たった瞬間、先端が折れる問題がなくなった。さらにアイス状態では外気に触れると途中で何本か溶けていたのがある程度、解消された。


 胴体に氷矢が刺さったバニットルミーは力尽き、身体を形成していたポリゴンが爆散した。


「お嬢様を殺す勢いでしたね、さっきのウサギ……」


「観ていたのなら、助けてよ」


「私の勘を戻すはもちろんです。しかし、お嬢様も強くなられないといけません。いざって時に私がいない状況でも一人で切り抜けれるために……」


 ヴァルゴのステータスを見たから助けてと言ってしまった。いや、だって……


 NPCN:【ヴァルゴ】

 性別:【女性】

 種族:【星霊】

 職業:MAIN:【剣星】

 SUB:【悪魔】


 Lv:90 

 HP:200

 MP:470


 STM (スタミナ):300

 STR(筋力):250

 MAT(魔法攻撃力):120

 DEX(器用さ):220

 AGI(敏捷):350

 VIT(耐久力):300

 LUC(幸運):110

 CHR(魅力):135


 〜装備欄〜

 頭:乙女の星騎鎧

 上半身:乙女の星騎鎧

 下半身:乙女の星騎鎧

 足:乙女の星騎鎧


 右武器:彼岸の星剣ノヴァ・ブラッド

 左武器:赫岸の星劍デモニック・ステラ


 装飾品

 ①:乙女座の指輪

 ②:ウラニアの指輪


 〜スキル欄〜

 ・強壮

 ・美魅貌ミネラウヴァ

 ・双天打ちヴィンデミア

 ・ムーンホッパー

 ・ライトニング

 ・波動霧消(ザヴィヤヴァ)

 ・真空薙ぎ

 ・重力劍(ポリマ)

 ・絶劍(スピカ)

 ・形態変更(モデリング)

 ・二渋選択(バタフライエフェクト)

 ・接触禁止(グレモリー)


 〜黄道(ホロスコープ)スキル〜

 ・ウシカイ→LOCK

 ・カミノケ→LOCK

 ・リョウケン→LOCK

 ・カラス→LOCK



 〜呪文欄〜

 ・モジュール

 ・ワープゲート

 ・リカバリー

 ・ディスペレート

 ・ヘルブラッド

 ・シニスター

 ・アダスター

 ・マリシャス





 いくら長年、石化していたとはいえステータスがおかしい部類。序盤に居ていいNPCではない。実は限定パーティーメンバーでしたのオチだったらまだ信じてしまう。

 ステータスを抜きにしても少々引っかかる部分もある……【LOCK】とか、何気に物騒な名前をモノとか……


 しかし、ヴァルゴのステータスで石化されたのなら、裏切り者はヴァルゴより強いのかはたまた運が良かったの二強になる。少しだけ凹んでしまう自分がいた。裏切り者ともし戦闘になった時に、倒せるのか……


 いや、弱気になってどうするの、私。もしも、だ。もしもなっても即行動ができる時のために今はヴァルゴを先生として自分を強化していくしかない。



「分かりました……」


「実に不思議です。夜にはあまり出てこない小型モンスターが続々と出るとはやはり世界は変わったのでしょうね」


 哀傷の顔をするヴァルゴの傍らで私は顔を見せない。私は別方向を向いていた。


(言えないな……小型モンスターが来るのは私のせいだって)


 私たちはヘンテコな形の木々や巨大な岩だらけの場所を進んでいた。

 一年生の時に行った林間学校を思い出していた。


 何が悲しくて一時間以上も黙々と歩かないといけなかったのか。途中なんて参加生徒全員、前の地面を見つ目つつ進んでいた修行僧(仮)になっていたんだから……


 今いる初心(しょしん)の指針(ししん)も森林。なんとなく既視感を覚える外景。配置されているオブジェクトは、現実には自然発生も形成できない木々や岩がある。漫画を1ページ1ページめくる度に違う風景が描かれているようで少し楽しんでいる自分がいる。




「先ほど買った地図ではもう少しで『ヴァーシュ』って街に到着します」


「『ヴァーシュって街』? ってヴァルゴ時代にはなかったんだ」


「えぇ……今私たちがいる大陸『スラカイト』の名前は以前と同じで変わらないのは判明しました。しかし、スラカイト以外の地名は私が知らない名称ばかりです」


 私は指差す。


「じゃぁ、ご存知ない?」



 私たちを待ち構えているのは……熊?

 体色は灰色……いかにもな風貌。諸々の情報で目の前にいるモンスターがボスで、関所の門番みたく存在していた。


 次のエリアに行くには一度、ボスを倒さないと進めない仕様になっている。


「力ない物は先の頂には行けないってルールですね。実に不思議な出来事ばかりです……お嬢様」


「アハハ......じゃぁ、二人で……熊? アイツを倒しましょう」


 ボス専用フィールドには境界線がある。線を越えなければボスモンスターが迫ってくる行動はしてこないだろう。エリアに入れば自動的に戦闘開始ってモンスターのモーションが入る可能性はある。


尨大きょだいの鼠二世……ネズミなんだ、アイツ?」



 外側から見るに結構な広さの草原ステージ。燃料材樹木(樹木)がないのは不満しかない。いやそもそも火災戦闘をしなくてもいいのか。なんたって私には心強い味方ヴァルゴがいるんだから!!


「お嬢様……」



 うわぁ〜〜〜熊と見間違えてしまう。大きなネズミがボリボリと生き物を食べていた。食糧から発生する血がポリゴンで心底、良かったよ......


「……お嬢様」


 あっ!? 自分の縄張りに入ってきた小動物を手で握りつぶしている……

 小動物もポリゴンで表現されているのは運営さん分かっていらっしゃるね〜


「お嬢様……聞いていますか」


 ジト目で私を見ているヴァルゴ。



「お嬢様。尨大きょだいの鼠二世なるモンスターはお嬢様、お一人で戦いましょう」









「......はいっ!?」

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